第29話

料理人   よくわかんねぇけど、おめえが一番の悪者のような気がすんな。

旅行家   そうだろ、ルールを破ってんだから。

料理人   てめぇが言うな。

写真家   理屈はわかるんですけど、体へのリスクが大きいですね。

会社員   薬の効果についても、正しいデータとはいえないし、決して褒められる

      ことではないな。

旅行家   わりぃことしてんだな、おれよりもずっと怪しいぜ。

漫画家   まあ、そうなんですけど、これだけじゃなくて、アメリカでもどうやら

      治験があるらしく、その状況も、のちのち調べに行こうと。

料理人   こりゃ狂ってんなぁ。

学生    見た目によらず、ずいぶん攻めるっすね。

無職    アメリカにもあるんだね。

声楽家   ほんと、よく知ってますね。

写真家   いやぁ、見た目によらず、やりますね。

料理人   おめえ、漫画家じゃなくて、治験のプロだろ。

旅行家   プロフェッショナルモルモッティスト。

漫画家   漫画を描きながら金を稼ぐことを追求したら、自然となっただけで。

会社員   ずいぶん、逸脱してるよ。

料理人   でもよ、そんな生活していたら、いつか体壊すんじゃぁねぇのか。

漫画家   大丈夫ですよ、治験といってもそれほど体に悪い薬じゃなく、病院側も

      言っているとおり、結局体じゃなく、時間を売っているんですから。

会社員   んん、素直に頷けないな。

写真家   そうですね。

学生    なんか、不安な結末が。

旅行家   間違いなく、破滅の香りがするねぇ。

料理人   やめとけやめとけ、ちゃんと休んだほうがいいぜぇ、なにせ正真正銘の

      モルモットだから。

漫画家   いいんです、しょせん、人間なんて、何かのモルモットなんですから。

旅行家   おやおや、サイケデリックに飛躍しちゃったよ。

料理人   なんだなんだ、昔になんか悪いことあったのかぁ。

声楽家   わかります、その気分。

会社員   言葉がよくないな。

無職    えっ、どういう意味。

写真家   厭世的な気分を前向きな生き方に転換させているんですか。

漫画家   そうじゃないですか、こんな人生。

料理人   そう言うな、なかなかわりぃ人生じゃないんだからよぉ。

学生    そうっす、モルモットも、おいしい餌を食べるんっす。

旅行家   頻繁に交尾もするしな。

会社員   本は読まないか。

声楽家   鳴いているようで、歌を歌っているかもしれません。

無職    きっとね、楽しく生きているんだよ。

漫画家   薬を打たれて死ぬまでは。

料理人   いいんじゃねぇの、それでも、大切に扱われて生きているんだしよ。

旅行家   何も知らずに生きているんだ、それが一番なんだよ、あとあとを考えず

      に、今を好きに生きるのが、モルモットらしくていいんだよ、よけいな

      ことに頭は使わず、体の反応をダイレクトに指令して、好き勝手に動い

      て死ねばいいんだよ。

無職    じゃあ、治験も。

旅行家   もちろんよ、好きなだけ薬を打って、果てるまでよ。

漫画家   そうですよね、好きに生きて、好きに治験を受けて、作品を残せば。

料理人   まあまあ、行き過ぎてはいるけどよ、おれだって日本での仕事に息詰ま

      ってこんな旅行しているから、同じことかもな。

声楽家   やっぱり治験に来てよかったです、自分らしく生きます。

旅行家   おうよ、まわりなんてどうだっていい、自分の好きなようにすればいい

      んだ。

会社員   まわりに迷惑をかけない程度に。

写真家   社会の規範を守りつつ。

学生    時には悪さもしてですね。

声楽家   では、ちょっと、今の集いを讃えて、マーラーの歌曲を歌います。

会社員   おお、いいね、さすらう若者の歌かい。

料理人   もうクラシックはやめろ、辛気くせぇ、メタルにしろ。

学生    じゃあ、かるく、悪魔のシャウトを自分が。

旅行家   おい、ビートが必要だろ、おめぇ。

無職    どぅんどぅんどぅんどぅん

漫画家   やめてください、こんな時こそ、自分の仕事です、静かにしましょう。

料理人   はあぁ、つまんねぇなぁ。


暗転

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