第27話

旅行家   おれはチャリンコでひたすら世界を走り続けて、前に進むことだよ。

料理人   イメージトレーニングで、ベッドの上でこいでいる真似すればいいだ

      ろ。

旅行家   そんな前進にもならねえことするか、おめえがやれ、暇人。

料理人   おれは料理人だから、ベッドの上じゃ何も用がねえぇんだよ。

無職    この人、本気で料理おいしいよ。

漫画家   それは認めます、さすがプロです。

料理人   おれはもうだいたいできあがってるんだから、そんな勉強しなくていい

      んだよ。必要なのは休息ってもんだ。

旅行家   休息って、おめぇ、ずっと旅行してんだろ、休んでばかりじゃねぇか。

料理人   ただチャリンコをこぐだけの無目的なてめぇと違って、おれは旅行中に

      食いまくることが仕事なんだよ、今は。

会社員   そうだと思っていたが、やはりそうか。

無職    いい仕事だね、おれもやろうかな。

料理人   食うだけで作らねぇんだから、おめぇは無理だ。

声楽家   みんな、なんだか、生きる為の目的をそれぞれ持っているから、なんか

      新鮮な気持ちになったんですよ。

写真家   そうか、だからそんな大きなキーボードまで持ち運んで、シャイな君

      が。

漫画家   日本の治験だと、目的のある人は各自の仕事をしていますが、それを持

      っていない人は、暇そうに漫画を読むか、携帯ゲームをしている人ばか

      りだから、反面教師として、こんな状況から抜け出そうと頑張る気にな

      れるんです。

学生    この人、携帯ゲームばかりしてますよね。

無職    おれみたいなのが、たくさんいるってことなの。

漫画家   違います、まずいません。

料理人   こいつは、ゲーム中の独り言がうるせぇからな。

無職    あ、そう、ごめんね。

旅行家   えらいこった、どいつも人生に生真面目で。

学生    自分なんか、適当っすけど。

会社員   自分だって、仕事があるから、趣味で本を読んでいるだけなんだが。

漫画家   いいんです、それで、なんかみんな、自分を持っているんですよ。

料理人   そりゃそうだろぉ、こんな海外まで来て、わけのわかんねぇ薬に、自分

      の体売ってんだからよぉ、まともじゃねぇよ。

写真家   そうですかね、わりとこっちに来ている日本人の間では、普通のことに

      なっていますけど。

料理人   でもよ、体売ってんだぜ。

旅行家   それも、性的なオルガズムなしだ。

料理人   汚ねぇなてめえは、副作用に興奮して、カーテンして自慰してたじゃね

      ぇか。

旅行家   もう、それは言うな。

学生    黙認っすよね、トイレじゃなくて、むしろ勇気があるっていうか。

写真家   けっこう嫌な音が、耳につきましたが。

漫画家   トイレですればいいのに。

旅行家   いや、体を伸ばしてしたかったんだろ、たぶん、あまり覚えていねぇん

      だよ。

料理人   都合が悪くなると忘れちまう、まるで婆さんだな。

旅行家   ほんとに覚えてねぇんだよ。

会社員   まあ、治験に参加することは、ある一部の、趣味のような集まりだろ

      う、多くの人はイメージでまず避ける。

無職    そうかな。

声楽家   そう思います。

学生    やっぱり、親には言えないっす。

漫画家   ある意味、自分を捨てた人じゃないと、参加しませんよね。

会社員   それは、ちょっと極端だけど。

料理人   いや、そうだろ、モルモットを自認してこそ、今の入院があるぜ。

会社員   保証はあるけれど、結局、新薬を試すから、リスクがゼロということは

      ない。

写真家   そうですね、自己の意志での退院や、副作用に対しての全面的な面倒な

      どはありますが、何か起きるかもしれないからこその、同意文書です。

学生    それでも、説明では、拘束時間に対しての対価を支払うって言ってます

      ね。

漫画家   日本も似たようなものです、やはり、時間に対しての謝礼金とは言って

      いますが、薬の種類によっては、多少値は変わります。

旅行家   時間じゃなくて、体を買います、なんてはっきり言えばいいのによぉ。

会社員   それは語弊がある。

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