第22話

第2幕


第1場


二度目の入院初日。先生がいなくなり、旅行家と写真家の加わった計八人が病室の定位置にいる。


料理人   うるせぇのが戻ってきたよ、まったく。

旅行家   うるせっていうなぁ、無事復活だぜ、へへへへ。

会社員   やはり戻ったか。

漫画家   欠員は、こんな簡単に埋まるんですね。

無職    だいたいそうだよ、落ちたって、いなくなった人を埋めるまで待つんだ

      から。

漫画家   そうなんですね、日本とえらい違いだ。

料理人   にしても、あの先生がとんずらするとはなぁ。

旅行家   おめでたいことだぜ。

学生    あんまり珍しくないっすけど、やっぱりいなくなるとびっくりしますね。

漫画家   無理なく溶け込んでいるように見えたんですけど、副作用もなかった

      し。

学生    絶対、だるくなったんすね。

料理人   あいつは旅行者じゃねぇだろ、それに教師とは言っていたけど、本当の

      ところはわからねぇ。

会社員   こっちに住んでいるような口振りだったけどな。

学生    きっと、あんまり、金に苦労してないんっすよ。

会社員   そうだろう。

旅行家   お遊びなら、最初から来るなってはなしだぜ。

料理人   おれらは、そうはいかねえ、どんなことがあっても金をもらわないと

      な。

漫画家   ええ、そうです、副作用がまたこようと。

声楽家   その通りです、でも、先生と美容師さんがいなくなったので。

写真家   よろしくおねがいします。

料理人   新しいのが増えるんだよなぁ。

声楽家   友達も参加できてよかったです。

写真家   参加って、初めてじゃないんだし、そもそも紹介した自分が落ちて、初

      めての君がどうして合格したのか。

会社員   たしか、前に、糖尿病の治験で一緒だったかな。

写真家   はい、そうですね。

無職    なんか、見たことあるかも。

写真家   けっこうリピーターが多いから、世間は狭いんですよね。

旅行家   でも、本当によかったぜ、ここまでの旅費と宿代をどうしようかと思っ   

      ていたら、三日後に連絡があったからなぁ。

漫画家   早いですね、美容師さんが消えて、すぐに打診されたんですね。

旅行家   おおうよ、真面目なあんちゃんがいなくなったおかげよ、しかし、そん

      ないかれた野郎だったんだな。

無職    まだ宿にいるよ。

声楽家   ええっ、まだいるんですか。

料理人   そうよ、あのゴキブリ野郎と一緒に今日も宿にいるぜ。

会社員   やはり。

漫画家   びっくりしましたよ、宿に戻ったら、普通にいるんですから。

旅行家   あの、かいわれ大根のような、人の良さそうなあんちゃんもか。

学生    だいじょうぶなんすか。

無職    うん、だいじょうぶだよ。

料理人   これが不思議でよぉ、入院前と変わらず、悪りぃやつじゃねんだよ、あ

      のゴキブリ野郎は相変わらずちょっとおかしいままでも、軟弱な美容師

      はいたって普通なんだよ。

声楽家   そんなもんですか。

写真家   誰。

声楽家   一度目の入院でリタイアした人たち。

漫画家   びくびくしたんですけど、事情を聞いたら、どうも覚えていないらしく

      って。

無職    そうそう、そうなの。

漫画家   美容師さんは薬の影響でああなってしまったみたいですけど、あの、ゴ

      キブリさんはちょっと違いますね、なんか含みがあるように隠してます

      よ。

料理人   あの野郎は気持ちわりぃんだよ、そのくせやたら食事や会話に参加して

      くるから、鬱陶しくてかなわねえよ。

無職    そんな時は、悪くないからね。

会社員   まあ、人間らしいし、治験に来る人らしいな。

旅行家   そんなもんだよ、みんな表面は人の良いつらして、裏で何考えているか

      わかんねぇんだから。

料理人   おめえもな、大麻吸ったり、人の小便で検査受けたり。

旅行家   それは黙っていて当然のことだろ、隠すべきことだぜ。

会社員   そもそも違う気がするけれど。

写真家   長期旅行者の参加が多いから、わりと聞く話ですね。

旅行家   ほら、普通のことなんだよ。

料理人   異常者が多いだけだろ。

学生    残った二人は、少しでも金が欲しいんっすね。

料理人   どうやらそうらしいんだよ、なんか書類を持ち出して、難しい話するか

      ら面倒くせえんだけど。

漫画家   今回の契約書に、投薬の副作用による……、なんでしたっけ、仕方ない

      退院の場合みたいな時は、何割か支払われるんでしたっけ。

会社員   そのようなことは、たしかに記載されている。

学生    やめたほうがいいっすよ、病院側とぶつかっても、動いた分だけの金な

      んかもらえないんっすから。

写真家   途中で離脱した人の、典型的なパターンですね。

学生    そうっすよ。

声楽家   よく知ってるね。

会社員   多いんだよ。

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