第15話

美容師   そんなことはどうでもいいんです、つらいんです。

声楽家   そうです。

漫画家   それが一番肝心です。

無職    もうそろそろ夕食になるから、それから考えれば。

漫画家   ほんと、食べ物しか頭にないんですね。

会社員   食欲がないと言っているのに。

料理人   いやぁ、わからねぇぞ、人間食べたくないなんて言いながら、料理を出

      されると誰よりも食べるやつがいるからな。

先生    食べて機嫌の治る人もいるしね。

無職    自分みたいだね。

学生    自分もっすね。

美容師   だから食べる気がしないって言ってるじゃないですか。それに食事の話

      も、やめてくださいって何度も言ってるのに。

声楽家   そうです、ちょっとデリカシーがないです。

料理人   そりゃわかるけど、こっちも似たように暗い状態でいたら、もしかした

      ら副作用が出るかもしれねぇだろ。明るくいれば、おまえたちも良くな

      るかもしれねぇし。

美容師   そんな戯言を、とってつけたようないいわけで。

料理人   なにっ。

会社員   まあまあ、体調の悪い人に考慮するのが健康な人のすることだから、そ

      んなに気にしないで。

無職    ちょっと、あのゴキブリさんみたいだったね。

先生    体調が悪くなったり、危機にあたると、本性が出るっていうからね。

漫画家   うるさいですよ、こっちは必死なのに。

料理人   こっちだって、必死で暇をつぶそうと、無駄話を出しているんだよ。

学生    そのとおりっすけど、何の配慮でもないっすね。

無職    とにかく、腹減ったねぇ。


看護師二人が部屋に入ってきて、夕飯を配膳していく。


無職    きたっ、けど……。

料理人   カレーじゃねぇな

学生    なんっすかね。

先生    マッシュポテトと、グリーンピース、それに細かいニンジンと。

会社員   サーモンだ。

無職    定番だ。

料理人   昨日食った献立じゃねぇかよ。

美容師   ああぁ。

料理人   素材を活かしているんだろうが、塩気がねぇから、やる気が感じられね

      ぇよ。

無職    この国は、食への感覚がないんだよ。

会社員   そんなに悪くないと思うんだけど。

先生    いやぁ、味気ないね。

声楽家   同じですか。

漫画家   きついですね。

料理人   どうだ、いけそうか。

美容師   いいえ。

先生    とはいえ、食べないと元気でないし。

無職    残すことは許されないし。

学生    人によっては、めしが一番きついって言いますからね。

漫画家   食事こそ、間違いない楽しみなのに。

学生    それが拷問となると、きついっすね。

声楽家   見るだけで、昨日の味のなさが思い出されます。

無職    ああ、まずい。

料理人   坊さんでも、これだけ質素なものは食べねぇな。

会社員   グリンピースとニンジンはただのボイルだけにしても、マッシュポテト

      は味わい深いぞ。

料理人   こりゃ、探さないと見つかんねぇぇ浅さだぜ。

先生    ほんと、色気のない料理だ。

学生    まじで、まずいっすよね。これだけは何度入院しても、変わらないっす。

漫画家   味がないのに、味を感じません。

声楽家   完全に、味覚は失われたようです。

漫画家   血の気がないというか。

声楽家   生きてないというか。

美容師   うえぇぇぇぇ。

料理人   うおっ、だいじょうぶか。

美容師   うえぇぇぇぇ。

会社員   やはり、受けつけないか。

無職    副作用がなくったって、吐きそうになるしね。

学生    土を食うかんじっすか。

美容師   はあはあ。

先生    どう、戻しそう。

美容師   まったく食べれません。

料理人   おお、よくわかるよ。

漫画家   心が折れそうです。

声楽家   もう折れてます。

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