第12話

先生    おい、ほんとうにだいじょうぶか。

声楽家   相当こたえますね。

美容師   はい。

学生    これはまずいっすね。

料理人   おいおい、平気か、やっぱり気分が悪いのか。

美容師   はい、吐いたり、出したり、ゆがんだり。

無職    そうなの、死にそうになった人も、こんな感じで魂が抜けてたね。

学生    そうっすね、こんな感じっすよね。

先生    ほんとうにやばそうだ、ちょっと水飲んで、横になったほうがいい。

美容師   はい、でも、飲むと吐きそうで。

会社員   脱水症状が一番危ないからな、無理してでも飲んだほうがいい。

声楽家   わかります、何か全身の体液が逃げ出すような感じですよね。

美容師   はい。

料理人   体に悪いものが入って、排出しようとしてんのか。

先生    そもそも副作用を抑える薬を、健康な人間に与えれば、どうにかなるよ

      な。

会社員   それも抗ガン剤なんていう強い薬となると。

無職    おれは今回も平気そうだけど。

料理人   体質もあるだろうが、馬鹿には効かねぇんだろぉ。

学生    そうっすね。

声楽家   馬鹿のほうがよかったです。

先生    この人はともかく、あの人は違うだろ。やっぱ体質ってあるんだ。

会社員   同じ人間でも、けっこう違うのは前も感じたな。

美容師   みなさんがうらやましいです。

料理人   代わってやりたくはねぇけど、少しは分けてもらたいくらい何ともねえ

      よ、かわいそうに。

無職    大変だね。

先生    ちょっと信じられないくらいの差だな、本当に同じ薬なのか。

会社員   偽薬を使う治験もあるけれど、今回は貼り薬だから同じだろう。

声楽家   変ですね、みなさん何ともないから。

料理人   やっぱり違うんだよ、ここの食事だって実際はまずいと言うよりも、味

      付けがまずいだけで、料理そのものは伝統的な国のスタイルなんだか

      ら、この国の人にとっては普通なんだよ。

先生    いや、まずいよ。

無職    うん、まずい。

学生    まずいっすね。

料理人   味のわからねぇやつには、何食わせてもまずいんだよ。

美容師   やめてください、食べ物の話は。

声楽家   ええ、吐き気が、また。

料理人   そりゃ悪かった。

無職    ごめんね、ついまずさが。

先生    あれは肯定できないよ、この国の人間は味覚がおかしいんだろう。

学生    でも、カレーはおいしいっすよ。

料理人   なにっ、カレーもあんのか。

無職    そうね、あれはおいしいね。

美容師   カレーも勘弁してください。

声楽家   便器が渦を巻いて歌って待つようで。

料理人   おいおい汚ねぇな、下痢もしたのか。

学生    あのカレーはほんとおいしいっすよ、チキンが入っていて、コクがあっ

      て。

無職    甘さもスパイスもあってね、あれだけが唯一の救いだよね。

先生    カレーがあるんだ、ああ、植民地にしていたからだ。

会社員   この国の食文化の一つとして定着している証拠だ、金髪と紅茶が浮かぶ

      国だけど、昔から他民族国家だ。

料理人   どうりで、働いている人も、インド人かアラブ人か判別できない人ばか

      りだもんな。

学生    でも、植民地の食べ物の方がうまいなんて、おかしな話っすよ。

美容師   もう、無理です。

先生    えっ。

料理人   わりぃな、カレーの話をしすぎて、またトイレに行きたくなったか。

声楽家   自分たちには冗談にならないですよ。あまりに辛くて。

会社員   つらそうだけど、けっこう余裕があるねぇ。

無職    ごめんね、腹がへって、他に楽しみがなくて。

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