第4話

料理人が部屋に入ってくる。


料理人   おおおぅ、揃ってんねぇ、こんちは、みんなモルモットかい。

職業不詳  ええ、えええ、モルモットです、そうそう、喋るモルモットですよ。

美容師   まあ、モルモットですかね。

漫画家   違いますよ、モルモットじゃないです、治験ですよ。

料理人   いやっ、モルモットのようなもんだろ、体を売るんだから。

職業不詳  そうそう、人格も否定されて。

漫画家   三食昼寝つきで、自分の時間を持つには好都合なんですから、一概には

      モルモットなんて言えませんよ。

料理人   そうかい、結局食い物にされるんだろ。

無職    モルモットなんてどうでもいいから、早く準備してよ。

美容師   そういえば、先週にアンデスの山の中でネズミを食べましたよ、なんて

      いったけ、キュイだったかなぁ。

料理人   おおおお、おまえクイを食べたのか、へえ、あれ身が少ないだろ、何、

      バックパッカーなの? やっぱり旅費目当てで参加するわけ。

漫画家   ねずみかぁ、じゃあフライかな、手塚治虫の漫画でそんなコマがあった

      っけ、丸っこいのをおいしそうに揚げて。

無職    やめて、食事前にねずみだなんて。

職業不詳  そうそう、自分で自分を食べるようですねぇ。

美容師   けっこういける味でしたよ、グリルかソテーか忘れましたが。

料理人   それなら、コロンビアで食べたカピバラのほうがいい、あっちのほうが

      身が多くて、食べごたえがあるぜ、クイじゃ、鳩を食べるようなもん

      だ。

無職    カピバラを、あんなにかわいいのに、鬼のような人だね。

漫画家   あれ食べられるんですか、実際に見たことないけど、ぼてっとして、た

      しかに家畜のような顔をしてますね。

職業不詳  あんなのを食い物にするんだから、野蛮ですよ、ええ、きもちわるい。

料理人   ところかわれば目も舌も変わるんだよ、犬だって兎だっておんなじ、虫

      も魚もそう、毒とまずさがなきゃ、ウニだってカタツムリだってうまい

      んだよ。

美容師   まあそうですよね、試してみたら悪くなかった、旅行中はそんな経験が

      けっこうありますよ、最初はとっつきにくい第一印象でも、話してみた

      ら面白い人も多いですから。

職業不詳  人もねぇ、接してみないとわかりませんから、ええ、ええ、けっこうま

      ずい人はいるけれどねぇ。

漫画家   治験もそうです、慣れてくるとなかなか良い時間と金を得られますよ。

無職    もうやめて、ねずみとか人とか、なんだっていいからさぁ、早く食事し

      ようよ、気持ち悪い話するから、お腹が空き過ぎて吐き気がするよ。も

      う、みんな早く動いて、君も、はやく荷物置いて、みんなで食べて飲む

      んだから。

料理人   そりゃいいねぇ、パーティー? 治験前の前哨戦? 最後の晩餐?

無職    入院前の前祝い、初めましての治験仲間として、みんな仲良く食べて飲

      んで、治験中のまずいご飯を耐えるんだって。

職業不詳  そうそうそう。

漫画家   やっぱり食事は、あまりおいしくないんですね、こっちも。

料理人   そりゃひでえ、じゃあ、さんざんに飲み食いして、未練残さず入院だ。

無職    ほんとまずいんだよ。

職業不詳  そうそうそう。

美容師   そんなにうまくないんですか、ちょっとしたビールとかでないんです

      か。

漫画家   酒はそもそも、治験中はだめですよ。

料理人   たばこも、大麻も?

漫画家   もってのほかです、説明で聞いたじゃないですか。

料理人   よくわかんねぇから、ただ頷いていただけだよ、あんなのわかるわけね

      え。

無職    もう、うるさい、とにかく食べよ、早く。

料理人   おおそうだそうだ、何だっておれが料理するよ、何食いてぇ、買ってく

      るぞ、こっちのスーパーはまだ行ってねぇからな。

職業不詳  はいはい、まずくなければ、なんだっていいですよ、ええ。

美容師   そうですねぇ、チーズを使った料理なんか。

漫画家   ねずみじゃなければ、何だっていいですよ。

無職    ねずみはもうやめて。


それぞれが支度へかかる。暗転。

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