ワイバーンの群れ
俺たちは馬車で王都東の平原へと向かった。
王都に『転移のブレスレット』を登録してあれば一瞬で行けたんだが……この機会に登録しておこうか。
まあ、王都に立ち寄るタイミングがあるかはわからないが。
「<神の愛し子>様! さっそく来ていただけるとは心強い」
「状況は?」
「さきほどワイバーン共と、一度目の交戦を行いました。その際、重傷者が何名も……」
「案内して」
「はい!」
さっき通信に映った騎士団長がルルにぺこぺこと頭を下げる。
本当にルルは敬われているようだ。
患者たちの天幕に移動する。
そこには多くの兵士や騎士が寝かされていた。
「【ヒール】」
ルルが治療魔術を使う。
するとみるみるうちに怪我人たちが回復していく。
「うおおお! すごい、治った!」
「まさか腕まで生えてくるとは……」
「教会の神聖魔術士が到着したのか? って――あれは<神の愛し子>ルディアノーラ様じゃないのか!? ああ、なんてありがたい!」
元気になった元怪我人たちが感激の言葉を叫ぶ。
「これで大丈夫」
「ああ……本当にありがとうございます、<神の愛し子>様! なんとお礼を言ったらいいか……!」
「気にする必要はない。それより、これは被害が大きすぎる。ワイバーンの群れはそんなに多かったの?」
「それもありますが、一番は騎士たちの不足でしょう。脱走した神託の勇者様を追うため、騎士たちの半数が王都にいませんでした。教育係であるこの私が、勇者様たちから目を話したばかりに……!」
騎士団長が悔しそうに唸る。
責任感の強そうな人物だ。
「まだワイバーンの襲撃は終わっておりません。一時的に追い払えはしましたが、すぐにまた襲ってくるでしょう。どうか<神の愛し子>様もご助力を」
「ん」
「俺たちも手伝います」
「ん? 君たちは……誰だ?」
今まで気づいてなかったのか……
「仲間。ユークとサリア。最近<聖者>の称号を与えられた」
「なんと、この二人が噂の<聖者>殿だったか! それは心強い、ありがたくお力を借りさせていただこう! ともに王都の人々を守りましょうぞ!」
「はい!」
なんだか熱い人だな。
冒険者はどこか冷めてるというか、自分勝手な人間が多いので、こういうタイプは新鮮だ。
「頑張ろうな、サリア」
「……ふふふふふ」
「さ、サリア?」
俺は後ずさりした。
なんだ? どうした急にサリアは笑っているんだ?
「あたし実は竜型の魔物大っ嫌いなのよね。それが何体も来るんでしょう? 焼き尽くし放題じゃない。テンションが上がってきたわ、ふふっ、ふふふふ」
「「「……」」」
黙り込む俺、ルル、騎士団長。
ルルが耳打ちしてきた。
「……サリアって竜になにか恨みでもあるの?」
「さ、さあ……」
よく考えたらサリアとも別に付き合いが長いわけじゃないんだよな。
こんな一面があるのか。
竜が嫌いな理由を聞いてみたい気もするが、なんか怖くて聞きにくいので見なかったことにしよう。うん。
『『『グルオオオオオオオオオオ!』』』
「ワイバーンが来たぞぉおおおおおおお!」
兵士の一人が叫ぶ。
こちらの戦力は精鋭である王立騎士団が二十人弱と、王都を守る兵士が五十人ほど。
そこに俺たち三人を加えた七十人くらいが迎撃部隊の頭数だ。
対してワイバーンは三十体以上いるように見える。
ワイバーンは基本的にパーティで相手をするような魔物なので、この時点ですでに厳しい。
『ガルアアアアッ!』
しかもワイバーンの群れの奥の方に一体色が違うやつがいる。
あれが群れのボスだろう。
ワイバーンを統制している個体がいるならさらに相手の脅威度が上がる。
とりあえず相手の数を減らしたいところだな。
「サリア、いけるか?」
「余裕で射程圏内よ。【ブレイズキャノン】、【ファイアガトリング】!」
片手で極太の熱線、もう片方の手で炎の散弾を空中に向けて放つサリア。
『『『ギャアアアアアアアアアアアア!?』』』
炎に飲まれ、あるいは翼を撃ち抜かれ落とされるワイバーンたち。
兵士たちは驚いたようだがすぐに立ち直り、すかさず落下したワイバーンを取り囲んでとどめをさしていく。
「に、【二重詠唱】!?」
騎士団長が叫ぶ。
「二重詠唱? なんですか、それ」
「魔術を左右の手で同時に扱うスキルです! 宮廷魔術師すら所持者はほとんどいないほどに希少なスキルですぞ!」
そうなのか。
……そういえば、レイドの仲間の魔術師であるキャシーも一発ずつしか魔術を撃ってなかったっけ。
サリアって本当にすごい魔術師なんだな。
「ふふ、いい悲鳴を上げるじゃない……さあもっともっと焼いてあげるわ、羽トカゲども。うふふふふ」
「……」
まあ、今はすごさよりもこわさが際立っているわけだが。
『ガルァアアア!』
色違いワイバーンがブレスを吐いてくる。
「【バリア】」
ルルの障壁でそれをガード。
うーむ、それにしてもまた空を飛ぶ敵か。
魔剣を投げてみてもいいが、ハーピィクイーンのときと同じで、群れの配下が壁になってボスの色違いワイバーンまで届かなさそうだ。
「「「ぐああああ!」」」
「怯むな! 前衛は耐えろ、後衛は対空魔術の用意だ!」
そうこうしているうちに兵士たちから悲鳴が上がる。
相手の遠距離攻撃が厳しすぎる!
ルルの障壁ならブレスを防げるが、それも全方位に対応できるわけじゃない。
なんとかしてワイバーンを減らさないと。
……そうだ。
「ルル、【バリア】を垂直じゃなくて水平に出せるか? 階段みたいな感じで」
「できるけど……長くはもたない」
「それでいい。頼む」
「わかった。【バリア】」
ずらっ、と空中に水平の障壁が現れる。
足場があればこっちのものだ!
俺は数秒で消える障壁を足場に空を走り抜け、色違いワイバーンのもとへと最短で突っ込む。
【跳躍】スキルでジャンプ。
「おおおおおおおおおおおおっ!」
『グルゥッ!?』
ズバンッ!
よし、ボスを倒した。
絶命した色違いワイバーンとともに落下しながら叫ぶ。
「サリア、あとは任せた!」
「わかったわ! 【ファイアストーム】!」
空中に炎の嵐が出現し、残りのワイバーンたちを削る。
炎耐性があるゆえに死ぬことはなく、まとめて落ちてくるワイバーンたち。
「今だ、とどめを刺せぇえええええええええ!」
『『『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?』』』
騎士団長の指示のもと兵士たちが落ちてきたワイバーンたちをタコ殴りにする。
やがてワイバーンたちは全滅した。
「我々の勝ちだ! <神の愛し子>様とそのお仲間に喝采を捧げろ――ッ!」
「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」
ハイになった兵士たちが絶叫する中、ワイバーンの群れとの戦闘は終わるのだった。
……ちなみに戦闘後にステータスを確認したところ、新しいスキルは発現しなかった。
ううむ、そろそろ空中戦向けのスキルが欲しいんだが……
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