聖神殿
案内されたのは里の外れにある神殿だった。
近づくと、神殿を取り囲む石の短い柱に光が灯る。
どういう仕組みになっているんだ?
「ルル、あれは?」
「聖神殿。かつて世界を救った神託の勇者の一人が、力を封じた場所」
「ルル殿のおっしゃる通り。神託の勇者様は世界を救ったあと、自らを弱くしようと考えたのです。そうでなければ自身が人々に恐怖を与える存在になるからと。そこで当時のウラノス教皇や勇者様本人、我々獣人族で力を合わせ、勇者様の力を預ける神殿を造りました」
ルルの説明をミブロが補足してくれる。
「勇者の力を預ける、か……」
「あー、なんとなくわかるわね」
魔王を倒せば神託の勇者は世界最強の存在となる。
最初は勇者も人々に感謝されるだろう。
しかしいずれは人々に恐れられるはずだ。
そうなれば勇者はどんなに善人であったとしても、第二の魔王とみなされかねない。
するとどうなる?
世界中の国が協力して勇者を殺そうとするか。
あるいは、勇者の力を利用しようと国同士の争いが始まるか。
ろくなことにならなさそうだな。
「でも、聖神殿に力を預けてしまえば安全なのです。聖神殿の扉は次世代以降の、心が清らかな勇者様しか開けられませんから!」
ふむふむ。
あの神殿は勇者でないと開けられないと。
「……というわけで、ユークはちょっとあれを開けてみてほしい」
ルルさん?
「いや、勇者じゃないと開けられないんだろ」
「いいから」
ええ……
なんだかわからないが扉の前に立たされる。
まあ試すくらいなら別にいいけど。
扉を押す。
ギイイ……
……げ、開いた。
「「神殿の扉が開いたぁあああああああああ――っ!?」」
リットとミブロが揃って叫んだ。
驚いた時の顔がそっくりだなこの二人。
「ルル、これどうなってるわけ? ユークじゃ扉は開けられないはずじゃないの?」
「……そのはずだった。けど、やっぱり……」
サリアの問いにそう答えてから、ルルは俺にさらに指示した。
「ユーク、中に進んで」
「わかった」
ルルにはなにか考えがありそうだ。
聖神殿の中に入る。
奥には光り輝く一体の……ネズミ? ウサギ? みたいな四足歩行の動物がいた。
「なんか『カーバンクル』に似てるわね」
サリアがそんな例え方をする。
見たことがないからピンとこない。
『くるる』
光る獣は俺から走って遠ざかる。
ぴたり、ちらっ。
なんかおれを見てくる。
じーっ……
なんか俺を見てくる……! 意図がわからん!
「せ、聖神殿の中では番人が試練を課すと言われているのです。それをクリアすれば封じた力を取り出すことができると」
リットが解説してくれる。
あれを捕まえればいいと?
ルルに目線で尋ねると、こくりと頷かれた。
「力が手に入っても、再封印は可能。問題ない」
なるほど。
まあ、よくわからんがルルにはなにか考えがあるんだろうし、デメリットがないというならやってみるか。
光る獣を追う。
『くるるぅ♪』
なんか楽しそうに逃げるなー。
なんか久しぶりに会ったご主人様と遊んでる犬みたいだ。
まっすぐ追いかけて壁際に追い詰める。
『くるっ』
反転した光る獣が俺の横をすり抜けようとするが、甘い!
【気配感知】で視覚ではなく直感により動きを先読みする。
「捕まえた!」
『くるるー』
光る獣、ゲットだぜ。
で、これがなんだというのか。
ぴかっ!
光る獣がまばゆく輝き、そこにはなにもなくなっていた。
ステータスを確認する。
ユーク・ノルド
種族:人間
年齢:18
ジョブ:魔剣士(光)
レベル:62
スキル
【身体強化】Lv9
【魔力強化】Lv7
【持久力強化】Lv5
【忍耐】Lv4
【近接魔術】Lv10
【気配感知】Lv5
【跳躍】Lv3
【見切り】Lv3
【加速】Lv3
【精密斬撃】Lv2
【投擲】Lv2
New!【瞬間覚醒】
【聖獣化】
・スザクLv1/【自在召喚】【真化】【火炎吐息】【火炎耐性】
……本当にスキルが増えてる。
あと地味に【気配感知】のスキルレベルが上がってるな。さっき光る獣を捕まえるときに使ったからだろうか。
ギルドカードに転写してみんなに見せる。
「この【瞬間覚醒】っていうのが新しいスキルなんだけど……」
「これは、勇者様が使っていたとされるスキルと同じ!」
「魔力を一気に使って、一瞬だけ限界を超えた力を出せるのです!」
ミブロ、リットがそれぞれそんな反応をする。
本当に過去の勇者が使っていたスキルなのか。
限界を超えた力。
気軽に試すこともできなさそうだ。
もしかして魔剣を包む魔力がさらに増えたりするんだろうか。
どこで使うんだよ、そんなの。今の状況でも常にオーバーキル気味なのに。
本当に魔王みたいな存在と戦うときにしか使わなさそうだ。
「……やっぱり」
「どういうことだ、ルル?」
「結論から言う。最近私がずっと考えていたこと」
ルルは言った。
「たぶん、ユークが本物の神託の勇者」
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