狩り

「【アンチドート】」


 ルルの神聖魔術が展開され、その場にいた者たちを解毒する。


「ああ、命を救われました」

「あなたは女神様のようだ」

「ありがとうございます、ありがとうございます……!」


 獣人族の患者たちはこぞってルルにお礼を言う。


 ……それにしても、まさかこんなに毒で苦しんでいる人がいたとは。

 ここにいるのは、俺たちが来る前に王蛾によってやられていた人たちだ。収容されている場所にはなんと百人近い獣人族たちが倒れていた。


 その多くは男性だ。

 おそらく王蛾を討伐に向かい、逆にやられてしまったんだろう。


「獣人族は高い身体能力を持ちます。しかし遠距離攻撃系のスキルは一切ありませんし、状態異常にも弱いのです。空から一方的に毒を撒き散らす王蛾は、まさに獣人族の天敵です」

「なるほどな……相性最悪の敵ってわけだ」

「です」


 リットの解説に納得する。

 それにしても、獣人族は遠距離攻撃系のスキルが使えないのか。


「わかるなあ、そのつらさ……」

「?」


 なんだか妙に親近感がわく。

 いや本当に、遠距離からデバフばっかり打ってくる敵はどうしようもないんだよな。

 近づけないんだから勝てるわけがない。


「魔術の修行をしたら魔術師のジョブが発現するんじゃないの?」


 と、これは魔術師であるサリアの意見。


「……あのなあサリア。魔術師ってのはどんなに修行したって才能がなければなれないんだよ」

「です。獣人族の中にも一生懸命瞑想とかしてた人はいましたが、魔術師になれた人は長い歴史の中で一人もいないのです」

「そ、そうなの? ええと、なんかごめん。あたしは家系的に最初から魔術師だったから……」


 家系か。

 そういえばサリアの家族についてはまったく知らないな。

 魔術師の血筋だというなら、やっぱりサリアの両親も凄腕の魔術師だったのかもしれない。


「ただいま」


 獣人族たちの治療に当たっていたルルが戻ってきた。

 リットが勢いよく頭を下げる。


「ルル様、ありがとうございますです!」

「ん。別にいい」

「お疲れ。やっぱりルルはすごいんだな。獣人族の人たち、ものすごく感謝してたし」


 俺が言うと、ルルは少しだけ暗い顔をした。


「……」

「どうかしたか?」

「……ううん。なんでもない」


 すぐにルルはいつも通りの無表情に戻る。

 ……気のせいか?

 ルルはリットに視線を向けた。


「リット。王蛾の被害は森の中にも残っているはず。それを浄化するから案内してほしい」

「い、いいのですか! 確かにこのままでは狩りにも影響が出てしまいます! 本当に助かるのですよ!」


 リットが飛び跳ねるようにルルに感謝した。

 さすがウサギ。見事なジャンプ力だな。


 ……というかリットの姿が他の獣人と違う理由をまだ聞いてない。


 他にも何人かリットみたいな『二足歩行の獣』っぽい獣人はいるので、リットだけが特別というわけではなさそうだが。


「俺にもなにか手伝えることはあるか?」

「そうね。ヒマだし、なにかあれば手を貸すわよ」

「本当ですか、ユーク様、サリア様! それでは狩りを手伝ってほしいのですよ! 今日は王蛾討伐記念の宴なのです。ぜひ手伝っていってほしいのですよ!」


 ということで、ルルはリットに案内されて森の浄化、俺とサリアは狩りを手伝うことになった。





 王蛾の被害を免れた獣人の若者たちとともに、森で獲物を探す。


「お二人とも、さっきはありがとうございました!」

「あんなに簡単に王蛾を倒してしまうなんて……さすがは勇者様とそのお仲間だぜ!」


 待て待て待て。


「……あのな、俺は勇者じゃない。ただの冒険者だ」

「え? またまたぁ。ほら、匂いだって勇者様で――あれ? 確かに微妙に違うような」

「そう言ってるだろ」


 獣人と話すたびにこのやり取りが毎回発生するのはなぜだ。


 勇者の匂い、というのが本当にあるとすれば、それはレイドから発されているはず。

 俺とレイドの体臭が似ているのか?

 そんな馬鹿な。あいつとは血縁でもなんでもないぞ。


 ……あ、しばらくパーティメンバーとして一緒に活動したせいで匂いが移ったとかか?


 獣人たちに確認してみる。


「いや、それは違いますよ。俺たちは本当に匂いで判断してるわけじゃなくて、魂の波長みたいなもんをキャッチしてるだけですからね。他人の匂いと混ざることはないですよ」


 どうやら違うらしい。

 いや、それだと俺とレイドが魂レベルで似ていることになるんだが。


「ユーク、あんた実はレイドと遠い親戚だったりするんじゃないの?」

「そんなふうに感じたことはないけどなあ」


 一応出身は同じ国だし、有り得ないと言い切れないのが複雑だ。


『ブルウウウウッ』


 お、獲物発見。

 猪だが、全長五メートル近くありそうだ。

 さすが秘境、獲物もスケールが大きい。


「悪いけど、俺に任せてもらっていいか?」

「え? ですがグレイトボアは大物ですよ?」

「多分大丈夫だ」


 俺は魔剣を構え、大きく振りかぶる。せえのっ――


 ビュンッ、ドスッ!


『ブギィイイイイ!?』


 巨大猪……グレイトボアは俺が投げた魔剣によって絶命した。


「「「グレイトボアが一撃ぃいいい!?」」」


 獣人族の青年たちが仰天する。

 実はさっき王蛾と戦ったとき、新しいスキルを得ているのだ。

 今の俺のステータスはこんな感じ。



ユーク・ノルド

種族:人間

年齢:18

ジョブ:魔剣士(光)

レベル:62

スキル

【身体強化】Lv9

【魔力強化】Lv7

【持久力強化】Lv5

【忍耐】Lv4

【近接魔術】Lv10

【気配感知】Lv4

【跳躍】Lv3

【見切り】Lv3

【加速】Lv3

【精密斬撃】Lv2

New!【投擲】Lv1

【聖獣化】

・スザクLv1/【自在召喚】【真化】【火炎吐息】【火炎耐性】



 王蛾を倒すために魔剣を投げて倒したことがスキル獲得のきっかけになったらしい。


 【投擲】スキルは投げ武器に命中率上昇の補正が乗るようで、王蛾相手に剣を投げたときより今のほうが当てやすかった気がする。


 遠距離攻撃の手段がようやく得られてほっとする。

 まあ、魔剣を投げたらその後の戦闘で困るわけだが。

 今後は投げナイフでも常備したほうがいいかもしれない。


「あんたまた新しいスキルを手に入れたの?」

「ああ。【投擲】ってやつだ」

「レベルが上がるペースもおかしいし、本当にどうなってるのよ……」


 そういえばそんな話もあったな。

 スキルはけっこう頻繁に手に入るんだが、これも一般的ではないらしい。

 まあ、強くなれるなら特に気にしなくてもいいように思えるが。


 俺たちはその後も狩りを続け、数時間で大量の獲物を確保することができた。

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