獣人族リット
リオレス山地にやってきた。
前回ハーピィクイーンを倒したおかげかハーピィたちの姿はない。
メンバーは俺、サリア、ルルの三人。
スザクはファラと一緒に留守番だ。
必要になれば【自在召喚】で呼び出せばいい。
「さて青い光は……」
あ、やっぱりある。
山頂の真ん中あたりの空中に見える。
本当になんなんだろうな、これ。
「で、ここになにがあるの?」
「サリアは見えないのか?」
「なにが?」
「私にも見えない」
俺が指さす方向を見て二人は首を横に振る。
ええ……
もっと近づいてみよう。
ここで気付いた。
青い光の真下の草むらに、なにか白いものが倒れている。
「なんだこれ?」
「大きいウサギ……? に見えるけど。こんな魔物いたかしら」
サリアと首を傾げあう。
「【ヒール】」
ルルがそのウサギに回復魔術を施した。
「お、おい。魔物を回復させてどうするんだ?」
「たぶん大丈夫。これ、魔物じゃない」
「――はっ!? ここは森……じゃないのです!」
「「ウサギが喋った!?」」
サリアと揃って驚いてしまう。
改めて見ると、身長百二十センチほどの白くて二足歩行のウサギ、という感じだ。
「! あ、あああ」
ウサギは俺を見て驚愕の表情を浮かべる。
「も、もしやあなたは勇者様ですか」
「いや、違うけど……」
「そんなはずはありません。ふんふん、こうして匂いを嗅げば……あ、確かにちょっと違うかもしれないのです」
「お前いま匂いで勇者かどうか判断しなかったか?」
別に勇者特有の体臭とかないと思うが。
というかなんでウサギが立って喋ってるのか説明してほしい。
「はっ! こうしている場合ではありません。そこの皆様、素晴らしい強者とお見受けするのです。どうかリットたちを救っていただきたく!」
「リット? お前の名前か?」
「はいです。獣人族の族長が一人娘、リットといいますです。このたび我々が暮らす大森林に危機が迫っており、救援を求めてやってきました」
獣人族? なんだそれ?
知ってそうな相手に聞いてみよう。
「……ルル、解説頼めるか?」
「獣人族は昔、神託の勇者に協力した部族たち。普段は秘境に暮らしているけど、勇者にだけは力を貸す契約をした。だから教会の上層部だけは存在を知っている」
「だからルルはあっさりこの子を治したのね」
「そう」
勇者に協力した部族、か。
それならルルが知っているのも納得だ。
ん?
「でもリットたちは秘境に暮らしてるんだろ? なんでリオレス山地にいるんだ?」
「ここにはかつて神託の勇者が作った『転移の扉』がある。そこを通れば獣人の里に一瞬で飛ぶことができる。……誰でも使えるわけじゃないけど」
「その通りなのです。ちなみにあそこに浮かんでいる青い光が転移の扉です」
リットが指さすのは、どう見ても例の青い光の玉だ。
なにかと思っていたら、獣人族の里につながる転移装置だったとは……
予想外すぎるだろ、この展開。
「お願いします! このままでは里は――いや森は壊滅的な被害を受けます! すでに部族の戦士たちは大勢やられてしまいました。時間がないのです。どうか助けてください」
「……なにがあったのか教えてくれるか?」
「かつて勇者様によって倒されたはずの凶悪な魔物が復活したのです。オウガ、という魔物です」
オーガ?
っていうとあの角が生えた人間によく似た魔物のことか?
討伐推奨レベルは確か40ほどだったはず。
そんな相手に苦戦するとなると、獣人族はあまり戦闘が得意じゃないのかもしれない。
オーガくらいなら別に戦ってもいいが、他の二人はどうだろう?
「あたしは別にいいわよ。オーガくらい」
「私も賛成。……行けばはっきりする」
二人とも賛成のようだ。
「オウガくらい……なんて頼もしいのでしょうか! それでは参りましょう! みなさまこのあたりに手を置いてください!」
ふわふわの手で青い光を示すリット。
ふむ、これに触ればいいのか?
手を伸ばす。
「そしてこの鈴を使うのです。これはかつて神託の勇者様が転移の扉をお造りになったとき、獣人族に与えてくださった鍵なのです。転移の扉に触れてこれを鳴らすことで――」
パァアアアアア
……ん?
俺が触れたらなんか青い光が大きくなり始めた。
「へ? ちょちょ、待ってほしいのです! なんで鈴を鳴らしてないのに転移の扉が……!? というかあなた、転移の扉が見えるし使えるのです!?」
「え、なんだ? これまずいのか?」
「まずいわけではないのですが……ま、まあいいのです。今は里に向かうのが優先ですので。みなさん手をかざしてほしいのです」
なんだかわからないが転移の扉が起動したようだ。
リットの様子を見た感じ、これは普通見えないし触れないらしい。
なら、なんで俺が触れるんだ?
謎過ぎる。
やがて視界が晴れた先には、見慣れない集落があった。
ここが獣人族の里か。
俺はぐるりと辺りを見回す。
周囲を大きな木々に囲まれ。
頭上にはツリーハウスがいくつも並び。
『ギシャアアアアアアアアアアアアア!』
「くっ……! 怯むな! 戦え! ここを通せば里は終わりだああああああ!」
「「「うおおおおおおおおおおお!」」」
数十メートル先では巨大な蛾の怪物と里の住人らしき人たちが戦っている。
ってなんだこの状況!?
あの巨大な蛾は初めて見るが、おそらく魔物だろう。
それと戦っている住人たちは……獣人なのか?
なんだかリットとは随分外見が違うな。
耳や尻尾は生えているが、それ以外は普通の人間に見える。
獣人にも種類があるのかもしれない。
リットが膝をつく。
「ああ、リットが遅れたばかりにこんなことに……! オウガがこんなところまで」
「オーガ? いや、あの魔物のどこがオーガなんだ」
「オウガというのは、蛾の王のことなのです。巨大な羽から鱗粉によって状態異常を撒き散らし、森や生き物を腐らせます」
蛾の王 → 王蛾(オウガ)。
くそっ、全然オーガとは関係ないじゃないか!
ようやく腑に落ちた。
オーガのせいで森が壊滅なんておかしいと思ったんだ。
とはいえ今さら逃げるわけにはいかない。
「「「ぎゃああああああああああ!」」」
王蛾と戦っていた獣人たちがのたうち回る。
王蛾が鱗粉によって毒を撒き散らしているのだ。
「【アンチドート】」
すかさずルルが神聖魔術で解毒。
「な、なんだ」
「体が楽になったぞ」
「治ったらすぐにどいてくれ! 王蛾は俺たちがやる!」
叫ぶと獣人たちは慌てて場所を空ける。
『ギシャアアアアアアアアアアッ!』
「【フレアボム】!」
王蛾が撒き散らした毒鱗粉をサリアが爆発で吹き飛ばす。
チャンスだ。
ブンッ!
『ガ、ア……ッ!?』
魔剣を投げつけ、王蛾の胴体を貫通させた。
王蛾の胴に穴が開いて一撃で絶命する。
ハーピィクイーンのときは周りに配下のハーピィがいたから、剣を投げる手が使えなかったんだよな。今回は相手が単独だから問題なかった。
しゅわんっ。
お、ステータス変化だ。
なにか新しいスキルが手に入ったんだろうか?
あとで確認しよう。
「た……倒したんですか? あの王蛾を、一撃で!?」
リットが信じられないような声で叫んだ。
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