決死


「きさまああ!!私がどんな覚悟で人間の世界へきて、どんな風に都合よくつかわれてきたか、知っているのか、そのくせ魔女である私は奇異の目にさらされ、能力をしめせば、都合よく搾取され、また別の存在には、嫉妬され攻撃されつづける、その苦しさもしらない小娘があああ!!」

 頭に血が上ったグルトはカルナに突進して、両手から詠唱とともに突風をはなった。カルナは軽々とそれをよけ、まるで迫りくる闘牛をかわすように、空高くまいあがる。

 「ぐっ」

 上空のカルナを捕まえようとするが、カルナは空中ですら重心をかえて、その手を逃れた。グルトはその様子を見ながら、よく観察していた。

 (何の能力だ!?)

 グルトはすかさずカルナに襲いかかるが、むしろカルナのほうが攻勢にでた、ヘラヘラと笑いながら、グルトの急所を掌で打とうとする。しかしグルトも腹部の“弟”の補佐によって、カルナの攻撃を奇妙な態勢でよけていく。

 「クソッ、やはり詠唱いらずで、認めたくないがお前は“オリジン保有者!!”」

 その瞬間、隙をついてカルナは右手に魔法剣を生成する。

 「マアエール!スパティ!」

 そしてカルナの腹部を引き裂いた。

 「クウォオオオン!!」

 奇妙な鳴き声とともに、服がひきさかれ腹部があらわになると鋭い牙と光る眼を持つ黒い腹部の魔獣が現れた。魔獣はまるで腫瘍やコブのような形をしていた。そのコブが口をひらき、黒いものを吐き出すと、それは影となり地面を蛇のようにはい回り、やがてカルナの背後をとると、立体的な影となり人型に盛り上がった。

 「やば!!」

 背後をとられたカルナは、立体的な影を右手の魔法剣で影をきりさく、が、切り裂いても切り裂いても影はまとわりつき、白く光るその牙と爪でカルナに襲い掛かってくる。

 (せめて、光魔法が使えれば……)

 「お前には光魔法は使えないだろう“Sランク研究生”もしくは“マスタークラス”にしか使えないのだから、マスタークラスとなればもう教師になれる、お前の名前など、私は聞いたことがない、お前こそが弱小魔女だ、カルナ!!」

 《ドス!!》

 グルトが殴るしぐさをすると、影も同様の動きをとった。カルナは影になぐりつけられ、おもいきりふきとばされ、地面に転がった。


 二人の様子をみていたリーヌがつぶやく。

 「やばいわね」

 「何がやばいんだ?」

 「彼女には悲劇が付きまとうのよ、二つの悲劇が……一つ目の悲劇は、彼女が人間を魔女よりも優先してとらえることもう一つの悲劇は、彼女のもつ“最強の力”に反して、彼女が、臆病なことよ、けれど臆病にも理由がある、臆病さと反対に、むき出しの闘争心を持っている、それは彼女の“生き延びる力”に起因している、かつて彼女が危険な目にあったからこそ、彼女はその二面性をもった、そして、その二面性のスイッチが入ったとき、災難や困難を打ち破る事にためらいはないわ、ああして気味悪くニヤニヤしてるとき、あいつは一番怖い」

 「いいじゃないか」

 「歯止めが利かなくなるのよ」


 地面に倒れこんだカルナ、グルトはすかさずかけより。上からとびのり、手足を抑え込んだ。

 「うっ!」

 身動きがとれなくなったカルナはそれでもまだニヤニヤと相手を挑発している。

「さっき、覚悟がどうとかいってたわよね、あんたは何の覚悟をしているの?」

「決死の覚悟さ、恨みや怒りを、復讐を果たすんだ、弟と私をないがしろにしたこの世界に!!」


「ふん、あんたの覚悟に弟はまきこまれたくないみたいよ、撃って!!!ロズ刑事!!」

 カルナがロズ刑事に叫んで射撃を要請した。

「!?」

 ロズ刑事とリーヌはその様子をみて、少し動揺したがすぐにリーヌが声をかける。

(刑事!!)

「撃てるわけないだ……」

(刑事、撃つ振りをしなさい、標準を合わせるだけでいい、カルナには何か考えがあるのよ)


カルナは続けて小声で呼びかけた。

「クレイ!」

【グウウ、ボク??】

 腹部がボコボコと動く、尖った牙と刃が、カルナの真上で開閉した。

「クレイ、あんたに話かけてる、あんたなんで、私を攻撃するの、あんたの本体は一度も私を攻撃していない、それどころか姉を守るために逃げてばかり」

【ボクはこんな体になって、人々に怖れられている、それに姉さんは、あんたがボクを殺しに来るって……】

「余計なことをいうな、私に協力しろ!!クレイ!!」


 グルトはブラフかもしれないと思いながらロズ刑事に目線をやった。そのとき、カルナはニヤリとわらって、右手の魔法剣を、カルナの顔めがけて薙ぎ払った。

「!?」

 腹部を中心に、無意識に体が縮み、カルナの攻撃をよけるグルト、そして腹部にむけて背筋を丸めたその瞬間に、カルナは右手の魔法剣をとき、両手の手の平をあわせて腹部にあてた。

「くらえええ!!」


 《ズドン!!》


 まるで見えない巨大な弾丸をうちこまれたかのように、グルトの背中は、衝撃でとびあがって、その体は宙にはねあがり、地面にころがった。地面に、グルトの小刀が転がった。





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