弟の目的

「決闘!!!・するわよ!!」

カルナの元へ走りながら急いで小刀をひろい、肘の高さに構え、カルナに突き進むグルト。

 《バチューン!!!》

 その時、銃声がした。周りを見ると、すでに風の結界はとけており、ロズ刑事が拳銃を上空に向けていた。

「今のは威嚇だぞ!」

 次にグルトが一歩うごくとロズ刑事はグルトに銃口をむけた。

 《バキュン!!》

 グルトは被弾しなかったが刑事はグルトのほうを拳銃でうったらしく、弾がコンクリートに当たった音がする。

「冗談じゃないぞ、魔女グルト、希星魔女院の許可はでている」

「動かなければいいのよね、少しカルナと交渉させて」

 そう言い放つとロズ刑事はだまって拳銃を構えたままだった。その額からは汗がにじむ。グルトはカルナに小声で呼びかける。

「希星魔女院の古き掟はしっていわよね」

「己の内の正義に従順であれ」

「そう、私たちは“正義や倫理”をうまく共有できないわ、だからトップが必要になり、それを私たち魔法使いの世界では弱い立場の“男”にさせている、あんたは何なの?あんたの行動は不可解よ」

「……」

 カルナはリーヌにこれまえで幾度ともなく言われた事、今回の事件でも言われた事をおもいだす。デザを仕事にかかわらせた事がばれたとき、カルナもすさまじくしかられた。“人間と感情は共有できない”と。

「あんたが、あの子を危険な目に合わせたのよ、あんたのどっちつかずな態度が」

「くっ……」

カルナは唇をかんだ。

「あんたは、“どっちの味方なの?”」

カルナは答えない。

「そう、あんたのその優柔不断さが、あの子を苦しめることもある!!」

 そういってグルトは、呪文を詠唱して右手を微妙に動かした。ロズ刑事はその微妙な反応を見逃さなかった、トリガーに力がこもる。その瞬間、グルトはニヤリと笑った。グルトは、刑事のその直ぐ傍にいるデザにむけて、突風を放った。

「くそ!!」

 カルナが、突風を体でうけようと急ぐ、しかし、その時デザを助けようという一心で、“あることに”気づくのが遅れた。その位置は、ロズ刑事と、グルトに挟まれた形になる。

「ここじゃ、ロズ刑事にも撃たれる……」

 グルトは、カルナを盾にして、ロズ刑事の斜線を切ったのだった。両者の様子を伺いながら、ロズ刑事が叫ぶ。

 「動くな!!脅しじゃないぞ!!」

 グルトがわざとらしく、全身をでたらめにうごかした、反射的にロズ刑事の拳銃のトリガーがひかれた。ロズ刑事が慌てたようにつぶやく。気づいたときにはおそかった、自分の傍にいるデザとの間に、魔法がはなたれ、それをとめるために間にカルナが割って入ろうとしていた。

 「しまっ」

 《ズキューン》

 銃弾はすでに、銃口から射出された後だった。

 《ドサッ》

 「あっ!!うぐっ!!」

 デザや、刑事の4メートルほどそばにふきとばされ、倒れこむカルナ。沈黙が響く。そのまましばらく地面につっぷしたまま、浅い呼吸をしているようだった。グルトがゆっくりとカルナに近寄る。

 「拳銃は、私を守ろうとしたから、突風魔法は、人間を守ろうとしたから、お前はいつかそうやって死ぬのさ」

 グルトがわらった。カルナがたちあがる、しかしその体には、突風のもたらした擦り傷や裂傷以外、何ものこってはいなかった。

 「!?どういう事だ……あの態勢で重心が変わるはずはない……刑事が外したか?お前はどんだけ幸運なんだよ、カルナ……」

 そのままグルトは攻勢にでる。立ち上がったそばからカルナに切る付ける。カルナは、右手の風魔法の剣でなんとかそれをふせいでいる。しかしロズ刑事の銃弾や、デザの事が頭にちらつく。

「しかしお前は人間をかばって傷を負った!!だからいっただろう、カルナ!!お前はお前に従順であれ」

「くっ」

 突進する両者、刃と刃が衝突し、おしあいの力比べになり、顔と顔を近づけてにらみ合う二人。

「魔女にはそんな生き方しか、選べないのだから!!」

 カルナが叫んだ。

「ロズ刑事!!いいというまで拳銃はうたないで!!」

「わ、わかった!!」


グルトが、カルナにつかず離れず、徐々に、廃墟の外付けトイレの壁にカルナを後退させていく。

「あんたみたいな平凡な奴が一番きらいなのよ、高度な能力や才能を持つ苦痛も

それを全く持たないやつの苦しみもしらない!、あんたには、決意を貫く覚悟がない、さっさとくたばれ!!」

 そういってグルトが、剣をつきたてて、カルナの腹部に突き刺そうとした瞬間だった、カルナは壁をけりあげ、空中でグルトの上を一回転して、グルトの背後の地面に、膝をついて着地した。

「!?」

「何を驚いているの?魔女グルト」

「今、詠唱しなかった?……ハハ、まさかね、まさかあんたが“オリジン”の保有者なわけ……それなら私の“耳”にも届いているはず」

魔女カルナがニヤリとわらう。

「そう、それなら私はいまから、この右手の“魔法剣”もすてるわ」

そういって、カルナは右手で魔法陣をむすび魔法をといた。

「あんたなんて、“弱小”魔女さん!」

 グルトは自分でも意識しない間に、瞬時に頭に血がのぼって顔が熱くなるのを感じた。

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