異変

 廃墟と廃棄物処理場の傍、地面に魔法陣を書き魔法陣を解こうとしている魔女リーヌ。彼女はしぶしぶ、気持ちを落ち着かせるためにカルナの事を語り始めた。

「さっき話たじゃない、魔女は人間より魔女のほうを優先すると」

「ああ」

ロズ刑事はタバコをすいながら運転席の開いたドアにもたれかかりタバコをふかす。

「あいつにはいったんだけどね、人間と魔女どっちを大事にするのかって、そしたらあいつ、両方って、そのためにはあいつ死ぬかもしれない、まったく……同じ失敗を繰り返すなんて、人間のことを簡単に信頼するし、一人でなんでも解決しようとする

「あの子はまだ、研究生になりたてだろう、早く一人前になって、心配かけたくなかったんだろう」

「いや、あいつは覚悟がありすぎる、ありすぎるのよ」


 結界の中、カルナは背後に黒い影を見て、とっさによけようとしたが、それよりも早く、影はカルナをはじきとばした。

 「何だ……これは」

 いびつな人型の黒い影が、グルトの腹部から延びて、実態をもっている。

 「ネクロマンシー“影魂”、肉体なき魂を“影”に憑依しコントロールする」

 カルナは影にきりかかるも、影は触れようとすると実体を霧散させる。

 「無駄よ、影は魂に直接攻撃するけれど、私たち肉体あるものは魂に触れられないわ」

 カルナはふと軌道をかえ、術の行使者であるグルトそのものに走り向かっていく。だが影はシュルシュルと収縮し、すぐにグルトの前にたちはだかり、グルトをかばうような形をみせた。

 「ジャマだ!!!マアエール!!」

 そういってカルナが影を風の魔法で影を霧散させたが、その死角になっていたグルトの腹部がもりあがり、カルナに襲いかかった。

 「ウッ!!しまった!!!」

 カルナの手に持っていた短刀が弾き飛ばされる。グルトがカルナの前にたった。グルトの腹部からは、するどい数本の牙のようなものがのびていて、グルトは片手に斧をもっていた。グルトは腹部をさすりながらいう。

 「この子はねえ、私のかわいい弟よ、あんたは、眠ってなさい……」

 グルトは思い切り斧を振りあげ、振り下ろす。カルナはすんでのところでよけた。

 「チッ」

 「なんだ、ソレ、なんなんだ……」

 次の瞬間、カルナは自分の真下、先ほどまでグルトがいた場所に書かれている巨大な魔法陣にきがついた。先ほどカルナが影と格闘している間にその裏でグルトは魔法陣をかいていたのだ。

 「ママアエール!!!」

 「アアアッ!!」

 グルトが詠唱したその瞬間、カルナは突風に巻き上げられ、6メートルほど上空に、廃棄物などと一緒にまきあげらえたのだった。

 「ウワアアア!!」

 しばらくして突風がおちつき、勢いがおちてくる、グルトは、巻き上げられた廃棄物にぶつかりながら、ドスッ、ドスッと鈍い音をたてて地面におちてきた。

 「う……うぐう」

 「さすがは魔女、まだ息はあるわね」

 そういって、グルトはカルナが握っていた短刀を蹴り飛ばした、短刀はグルトの真横に飛ばされる。カルナは地面につっぷして、痛むからだを起こそうとしたが、起きられない。視界もぼやけて、体に力がはいらなかった。

 「それじゃあ、もうあなたに用はないわ」

 グルトは斧を手に取り、カルナの首めがけて、振り下ろされた。


 その頃、病院のデザの病室前で病院を抜け出そうとしていたデザは、魔女と遭遇していた。

 「あんたは、誰だ」

 「私は魔女ピロア、魔女グルトの姉弟子、二人で師匠の……有能だけど“異端”とされ続けその生涯を終えた師匠の恨みを晴らそうとしていたけれど……」

 「けれど?」

 「私の妹弟子が暴走した、彼女はもう自分の事しか考えていない、本当はあんたを誘拐するように頼まれた、この鍵で」

 そういって魔女は、複製された魔法回廊鍵をとりだし、空間を縦に引き裂いた。

 「私はもう彼女の手伝いはしない、けれどあなたたちや魔女界を許したわけじゃない、あなたがもし彼女を助けたいのなら、自分の手でそうしなさい」

 「その扉の向こうにカルナさんが?」

 コクリとうなずくピロア。

 「あなたが嘘を言っているという事は?」

 ピロアははあ、とため息をついて、くるりと踵を返して奥へと歩いていってしまった。

 「好きにしなさい、私はもうこの場を離れる、逃亡の準備をしなきゃね」

 一瞬振り返るピロア。

 「そうだ、あなた、行くなら覚悟しておいてね、魔女は魔女の動機で魔女を守る、だから、人間を助けること優先ではないかもしれない苦しむ“覚悟”をしていくのよ」


 その頃、廃棄物処理場の前で、グルトはカルナの首を切り落とそうと斧をふりおろしたのだった。

 ≪シュン……バチィ!!≫

 「いっ」

 瞬間、グルトの真横から、グルトはすさまじい痛みを感じて、目を向ける。そこには魔法回廊鍵によって開かれた空間と、右手を包帯でぐるぐる巻きにしたデザがいた。両手はブルブルふるえて何かをつかんでいる、目を凝らすとその手の中には先ほど弾き飛ばしたはずのカルナの短刀が握られていた。

 「お前、何をした!!なぜここに!!ピロアはどこだ!!人質にしろと命令したはずなのに!!」

 「……お前は、仲間に裏切られたみたいだな」

 デザは、驚いていた。地面にひろがっていたカルナの短刀を拾い上げて切りかかったが、まさかその短刀が、魔女を弾き飛ばす力があったとは。


 次の瞬間、グルトの両足に、カルナがけりをいれた。その衝撃はすさまじく、グルトは廃棄物の山に投げ飛ばされた。

 「デザ君!!!」

 カルナはデザにだきついて、二人は、廃墟のほうにいったん逃げようと話し合い、走り去っていった。

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