拮抗。

魔女カルナは、そのまま腰ポケットから何かを取り出した。それは短刀だった。

「それは……」

渦を巻いたような文様の刻まれたそれにグルトは見覚えがあるようだった。カルナはその短刀で切りかかるが、それをためしに、膝、肘、どこにきりつけても、軌道がずれる。短刀は命中せず、その奇妙な重心のブレに違和感をおぼえる、そのズレを感知するたび、なにかグルトの腹部に膨らみを感じるのだった。

「ネクロマンシー……コイツがまさかね」

次にカルナは、空を切って魔法陣を描き、魔法を唱える。

「マアエール!!風よ!!!」

グルトにが生むのににた似た突風が生じそれがカルナの手から真横にグルト目指して突き進む、しかしその突風さえも、腹部の“何か”にはじかれたように、消えうせるのだった。

カルナは気が動転していた、確かに、自分が思うよりも敵は強力な魔法使いらしい。

「ネクロマンシー、完成していたの!?」

そのカルナの背後に、グルトの腹部から延びた影がしのびより、徐々に人影をつくり、立ち上がったのだった。


その頃、結界の外では、ロズ刑事が覆面パトカーにもたれかかり、リーヌは頭を抱えてその場をうろうろとあるきまわっていた。

「この結界は、強力なものよ、解くのに20分はかかる、その間中で何が行われているか……結界をくぐるには、ワープしかない、けれどそんな協力な魔術唱えるのにはまた30分かかる、何とかならないかしら」

「何を慌てているんだ」

「慌てる?何が……いえ、そうね」

ロズ刑事がタバコをくわえて、一服しはじめた。

「こういうときは落ち着くために話でもしようや、そうしながら解決策をひとつずつためそう、まずは20分かけてもいい、といてくれ」

「話、話ねえ私が焦っている理由について?」

そういうとロズ刑事は笑ってみせた。リーヌは地面に魔法陣を書き始めるのだった。



 病院、デザ青年ははある決意をしていた。手紙には、ある住所がかかれている。そしてリーヌという魔法使いは、自分に骨折した幹部を保護するアイテムをもたせてくれた。

「やるしかない」

デザは、トールズという存在に特別な想いを抱いていた。生まれて初めてできた友人でもあったが。それよりも、特別な想いを……デザがトールズをいじめの危険から助けてからというもの二人は一緒に過ごす時間が増えていった。そしてお互いの家族や趣味について話すことが多かった。

「へえ、トールズ君、漫画かけるんだ」

「うん、まあ趣味でしかないけど」

実際トールズの絵はきれいなものだった。話はありきたりだったが、二人はよくそれで“理想の家族”について話したのだ。トールズの家庭もデザと同じくひどい家庭だった。母親に先立たれてからのんだくれになったおやじにトールズは暴力をふるわれていた。けれど、酒に酔いさえしなければまともなのだという。それに母がいたころは、幸せな家庭だったという。かわいそうに思う反面、そんなデザの家庭はトールズにとっては実はうらやましくもあった。なぜならデザにとって父というものは子供をまるでモノのようにしか見ておらず、興味がない故に淡泊で、うまくいかないとすぐ怒鳴り、殴り、無関心そのものの態度をつらぬいていたからだ。


「トールズ、うらやましいなんて思ってわるかった、お前にはお前のつらさがあったのに、俺は一時期から距離をおいたんだ、父のいいなり“いい人間”になろうとして……それに……」

 中学2年生になってから、トールズとの距離を取り始めたのはデザだった。親がデザの素行に文句をいいだしたのだ。“いい学校に入るには、成績だけではなく普段の生活もあらためなさい”結局デザは親の言いなりだった。それだけじゃない。デザの中には深い後悔と罪悪感がうずまいていた。というのも心のどこかで、デザが手の付けられない悪行に手を染めるのをみていながら、“人の目”を気にしていた。デザは確かに誰からもいじめられないようになった。その代わりに彼は“怖れられるようになった”だからそんな彼の傍にいると自分もかつてのように“嫌われるかもしれない”そういう思いもあった。しかし臆病で、デザに悪い事をやめろともいえない。“友達”といえどすべての本音をいえない。それをいうと、壊れてしまいそうで。だから思った、トールズの危険を見過ごすわけにもいかないと。


丁度そのころ病室にだれもおらず、デザは点滴をはずして病室の外にでた。そこには……母親がたっていた。

「手紙、あなたもよんだのね、いかせないわよ、どうしてもいくなら、私と縁を切る覚悟を……」

そう言いかけたとき、母親の体が奇妙にも、ふっと首筋から筋肉がぬけたように、体全体がくずれおちた。その母親の後ろに魔女の格好をした女がたち、そのそばに護衛魔女レムが倒れていた。

「あんた……何を……あんた、誰だ??」


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