第26話

 翌日、どうやら母も忙しいらしく、その日の見舞いはだれもこないらしい。その様子をみてか、ある刑事が朝から話し相手になってくれた。明日の夕方、リサがきてくれるという話で少し緊張していたし、一人も心ぼそいし、話し相手にちょうどいいも思った。警察の人が刑事がくるといっていたので、どんな人が来るかとおもったら、気さくな刑事が入り込んできたのだ。初老の男性。目じりの下のほくろ、細い眼。四角い輪郭に、下がり眉。整ったあごひげともみあげのひげ。

 「ロズ刑事だ、警察と希星魔女院の橋渡しをすることになった、何でも話してくれ、よろしくな」

 彼は何でも気さくに話してくれた。心配している事や、眠っている間に起きたこと。希星魔女院の失敗が大きく、警察が関わらざるを得なくなっている所。もし魔女が犯罪に近い事をすれば、協力して魔女の命を奪う事さえありうるという事。そして、この刑事が“魔法災害”の元である“魔女グルト”が現れるまで自分を護衛する、“人間側の最大の味方”なのだと語った。そして、彼は一通り話がおわると、今度はデザの話をせがんだ。学校の事、好きな事、友人の事、無理に聞き出しはしなかったが、気になる点があると彼はその都度細かくメモをしているようだった。

 「魔女カルナについてはどう思う?」

 そう聞かれて、言葉につまったが、彼はコンビニでのことと、自分と不良トールズとの関係を話た。

 「トールズは、よくない事やいじめに手を染めて、僕ではどう止めればいいかわからなかったけれど、彼女はただたたずんでいるだけで、その手をとめてくれた、あの人は魔術だけじゃない、あの落ち着き方には何か秘密がある気がするんです」

 やがて刑事はうーんと悩みながらこういった。

 「テレビをつけてみな」

 魔女カルナの失敗、カルナの名前はでていなかったが、メディアでも今回の件は大きく取り上げられているらしかった。魔女が護衛に失敗したとか、Aランク魔法災害だとか、高校生の怪我が心配だとか、ワイドショーが賑やかに騒ぎたてていて、刑事が下にもいると指さしたので窓際から少しみをのりだし下を覗くと、確かにカメラを構えたメディア関係者が病院を取り囲んでいるらしかった。

 カルナのことについても、その人は知っている事を話してくれた。

 「口止めされてるんだけどな、確かに彼女は魔法使いとしての才能があるらしい、普段は飄々としてどこか不真面目さも感じられるが、だがそんな彼女すら予知できなかった相手なんだ、相手もなかなかのものだ、君の怪我だって酷いもんだろう、なあ?それにな」

 刑事はアゴを手前にひき、こちらによるように命令した。そして口で手を覆い耳打ちする。

 「希星魔女院は人間を守るといわれているが、その実、守るべきもの、優先度は“自分らのメンツ”って話だ、あんまり信用しちゃならないぜ」

 刑事はその細い眼をさらにほそめた。目じりの下のほくろがやさしさを感じさせる。そして空気をかえるように、笑って自分の肘をたたいた。

 「それでも、兄ちゃんは、魔女と深くかかわろうとするんかい?」

 その質問にしばらく答えられなかった。言葉につまりつつ導きだした答えは、

 「彼女は、僕の問題に気付いていた、そして僕の日常を変えようとしてくれていた気がするんです、それにうまく答えられなかったこと、それだけが気がかりです、きっと彼女は……僕の怪我もそうだけど、僕を助けられなかった事を後悔しているはずです」

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