第27話

 その夜、おかしなことがおこる。デザ・ロアはAG街の病院で、入院して夜をすごしていたが、夜中一人部屋だったので話し相手もおらず、看護師がこない間をみはからって、1時ごろ見舞いに来た人からうけとった手紙やらプレゼントを開封していた。その中にトールズの写真があった。

 「トールズ」

 彼には、後悔の念があった。トールズと出会うまで、デザは少し過程の影響で引っ込み思案でふさぎがちなところがあった。だがトールズの背後に自分と似たものを感じたのだ。思えば似たような家庭環境、似たような高圧的な父を持っていたことが関係したのだろう。直ぐに仲良くなったし、トールズのほうからいろいろ話してくれた。

“酒に酔うと暴力的になる”

“いつもは優しい”

“チンピラのような仲間とつるんでいる”

“ギャンブルが異常に好きだ”

 デザも自分の家が居心地が良いとは思えなかったが、トールズのほうは別の意味で過激だった。だからデザは少し話をもった。たしかにデザも不条理に思える暴力を振るわれたが、トールズのように自分の趣味趣向や気分でというより、デザの父ファウル今でいう毒親のようなところがあったのだ。彼はいつでも

 「誰にでも好かれる八方美人のような存在」

 を要求された。習い事、しぐさ、趣味趣向に至るまで、父の“人の役に立つ人になれ”という半ば強制的な思考により、いつも人の顔色をうかがうようになったし、いつも見えるはずのない人の心を見ようとしていた。彼らは共通して“いつ変わるかもしれない父という存在の気分”に怯えていたのだった。


 だから二人は、仲良くなった。しかしトールズは強くなりすぎた。自分を守ろうという思いが強く表れすぎて、弱いものをいじめるようになっていた。正直そんな今のトールズをデザは好きではなかった。しかし、責任も感じていた。トールズは、中学二年の頃に地元の中学に転校してきて、そして一緒になったが、当初悪口や陰口をいわれていた。陰気だとか、服装が汚いだとかいろいろいわれていてちょっとクラスで距離をおかれていたのだ。そこで無理やりデザは彼を“ちょい悪い事をするカッコイイ奴”に仕立て上げた。彼をいじめようとしていたグループがちょっとした悪で有名で、それに怯えていたトールズに、デザが提案したのが

 「さらに悪いことをしてチキンレースで勝てば、クラスの中で、少しユーモアが利いた存在になれる」

 その目論見は成功した。いじめられようとする時には、彼らよりちょっと悪いことをしてクラスの笑いを誘ったりした。そして二人はそこそこの人気者になったのだ。トールズはその頃漫画を描いていたし、デザはそこそこ勉強も運動もできたので周囲に溶け込むのに苦労はしなかった。


 そんな記憶をたどりながら運動会で肩をくみにこやかに笑う二人をみて、デザはぽつりとつぶやいた。

 「いったい、いつから変わってしまったんだろうなあ……」

 その時だった。デザは背筋に悪寒を感じ、後ろをみた。しかし後ろにはなにもない。次に真横に勢いよく目線をあわせるが、左右どちらにも何もない。そして恐る恐る、視線を下から真正面に向ける、そこでそれと目があった気がした。

 「な、何だ!?……」

 それは光る球体だった。もごもごとうごいて、やがてゆっくりと人型を形づくる。

 「な、幽霊?ドッキリか?」

 だが次にその光る物体が人型を、トールズそっくりの形を描いてこちらを迫真の顔で見つめてくるのをみるに、デザは息をのんだ。

 「トールズ、お前、俺が昔の事を思っていたから、現れたのか??お前、本物のトールズか?」

 「デザ……デザ、助けてくれ、俺はいつ道を間違えたんだ」

 「トールズ??」

 デザは立ち上がる、右腕はギブスがはめられていて動きずらかったが、ベッドからはなれ、点滴をつるさげながら、入口へと向かう。

 「お前、何がいいたいんだ?何をいいにきた?魔女に捕まってるのか?」

 「デザ……デザ俺は……お前の言う通りにしたんだあの時」

 (あの時?)

 デザは、トールズに近づくとトールズの体が少し縮んでいくのをみた、そして見た目も若くなっていき、中学生ほどの背丈になったとき、トールズはこういった。

 「お前が、俺が父親に嫌われたらどうしようとおびえていたら、こういったんだ、 “嫌われる必要もある時もある”だから俺は人から嫌われることを恐れなくなった、怖れなくなたんだ」

 「トールズ!!」

 そう叫んで、左手を伸ばすと、その幻影は影へと姿をかえ、消えてしまったのだった。

  

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