第23話


 翌日、デザは凝りもせず学校が終わると、カメンムシの前にいて、お客をまっていたカルナとリーヌの前で、頭を下げた。カルナはカウンターの中におり、リーヌは陳列されている商品の傍で掃除をしていた。

デザ 「お願いします、手伝わせてください」

リーヌ 「しつこいな」

カルナ「デザ……」

 リーヌはため息をついて、店内の骨董品などの商品を手入れしながらこういった。

リーヌ  「君にとってなんのメリットがあるんだい?」

デザ 「僕は、初めはただだまって護衛されるのが嫌だった、だから何か協力したかったし、正直なところ魔女に興味もあって、でも本当の事をいいます」

 デザは頭を下げたまま続ける。

  「正直、自分の事を変えたいと思っていたんです、気弱でどっちつかずで古い友人が悪い道に走っているのにいまだにはっきりとめる事も出来ずにいた、けどカルナさんはそんな友人をいとも簡単に、柔軟に彼の悪事を止めてくれて、彼女に、自分が変わるヒントを見た気がしたんです、でも魔法で解決しようとか思ってないんです、ただ、目の前でおきた魔法災害を見て思った、魔女は“憎悪”を魔力の源にするといわれている、そして僕の見た夢と、カルナさんの見た夢、それが何かを暗示している気がして、きっとトールズと、あのいじめられっ子に関係することで、もっと多きな、予知に現れた“災害”が起きる気がして、それまではきっと安全だから、それまで僕に自分を見つめなおし決断する機会を、僕に直接、彼を助ける機会を欲しいんです」

 しばらく悩んでいたリーヌだが、奥の部屋にカルナを誘い、二人して話し合いをしたあとに、奥からでてきてこういった。

 「カルナときめたよ、私の監視下でなら、協力をみとめよう、ただし一人で勝手な行動をするな、魔女の行きそうな場所には近づくな、いいね」


 デザは、そういわれ、その足で、件の廃墟へと向かった。“魔女に関係する場所”ではないとそう思い、すこし油断していたのだ。そもそもその廃墟は、デザの祖母が大事にしていた場所で、デザの祖母は、トールズの事もよくしっていた。デザは少し昔の事を思い出したくなったのだった。


 廃墟に入り、ぼろぼろにすたれたホールの中でぼろぼろになった椅子に腰かけ、テーブルの上でうでをくみつき頭をあずけた。横になった景色の中で、彼は奇妙なものをみた。それは、人影それもトールズの、ぼろぼろに傷ついたトールズの姿だった。

 (幻……か?)

 「デザ、なんでここに」

 「トール……ズ?いや、本物か」

 デザは上半身をおこし、そちらをみつめる。そのトールズは奇妙に腕を後ろにまわしていた。かたわらに縄のようなものがみえた。どうやら縛られているらしい。

 「ここは、俺の祖母ちゃんが生前よくいってた店だったんだ、お前こそどうして」

 「お前の婆さんか……、魔女なんて噂されたり陰口をいわれたり、だから俺にも親近感を感じるといって、優しくしてくれたが……」

 そういうと急にくわっと、トールズの表情がかわり、わらったようなおこったような表情でこう叫んだ。

 「お前の祖母ちゃん、俺のことを影で悪くいっていただろう!!偽善者!!!お前も同じだ、デザ、助けるだけ助けてあとはほったらかしだ、お前は弱虫だ、お前は逃げたんだ、“強くなる”ことから!!」

 唐突に生気をとりもどしたように、叫ぶトールズに圧倒されていた次の瞬間、デザは自分の周囲に、いつかみたような突風が吹き、そのまま上空にまきあげられているのを感じた。浮遊感とすさまじい轟音がひびき、周囲の廃墟の壁や天井が崩れ破壊される音が響きわたる。

 

デザ「う、うわあああー-!!!な、何だ!!!トールズ、お前、何かしたのか、お前まさか……」

 はるかかなた下方でトールズが何かを口走る、不思議とそれが何をいっているのかはっきりと聞こえた。

トールズ「俺を、魔女といったら、殺す」

 その傍ら、ホールの入り口付近から、別の影が現れたのをデザはみた。それこそ典型的な魔女の服装、そしていつかみた釣り目の女だった。その魔女は泣き顔の仮面をした男をつれていた。ペットのように首輪とリードをつけていた。


デザ 「ま、魔女!!またあの魔女だ、風使いの……た、助け……助けて、トールズ!!」

魔女 「ふふふ、ふふ」

泣き顔の仮面 「……」

 傍らの魔女と、泣き顔の仮面はゆらゆらゆれて、その突風に何かを期待しているようだった。デザはその突風の中、中心部に固定され、廃墟の破壊とその破片が当たることはなかったが、徐々に上空に押し上げられ身動きがとれないままだった。デザは頭の中で思考をめぐらせた。ここから少しでも衝撃を和らげる方法……。幸い建物は半分ほど破壊されていたがその屋根は破壊されないでいたのがみえた、落下時にできるだけ……あの屋根に飛び移ろう。そんな無茶なことを考えながら、死の危機を全身で感じつつもあった。


 ゴウゴウと音をたて、いきおいよくまきあがる突風。夜の街でも、その音とすさまじい光景は、近所の住人や野次馬の注目を集め、皆がその様子を遠くからみたり、スマホの動画に収めたりしている。

 

 その間もデザは無駄な頭を巡らせる。

 “魔女の予知・予言精度は完全ではない”ということ、きっと、魔女に関する予知・予言なら、魔女が気まぐれにこうした行動をすることも、あり得るのかもしれない。

危機に瀕して脳はそれらの無意味に思える思考を繰り返し、目の前の恐怖を忘れ去ろうとしていた、高さは5メートルはあるつむじ風に巻き上げられ、しがみつくものも頼りにする足場もなく、その中で、彼は突如突風が止み、音が消えたのを感じた。


 「フフフ、フフフ」


 その笑い声とともに、突如突風の魔法は、魔法陣の明滅とともにその場から消失した。そして、その夜。デザは6メートルほどの高さから落下し、意識を失ったのだった。

 <ぐしゃっ>

 地面に落下し、手が奇妙に降り曲がったトールズの様子をみて、どんなやじ馬より早く、泣き顔の面が傍にちかづいてきて、彼を見下ろしぽつりとこういった。

 「トールズ君、この人をみてよ、死んじゃったかもしれないね」

 トールズは、ぼんやりとした意識の中、後ろでを縛られ、目は覇気を失ったままだった。

 「でも仕方がないよ、君は僕の親友を殺したんだから、転校したあと、彼は死んだんだ」

 トールズは、ぽつりと泣き顔の仮面をみていった。

 「デニー、お前は、デニーか」

 泣き顔の面は、何故かその様子をみて舌打ちをして、トールズをけ飛ばしたのだった。


 それからしばらくして突風の跡地、その廃墟に人だかりができ、デザは地元の人々によって呼ばれた救急車で近場の病院に緊急搬送され、入院し一週間ほど、意識は戻らないままだった。


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