第20話 不信感
下校時、デザはもう一度カメンムシによった。訪問者はおわず、そこでちょうど趣味といっていた絵画を書いているカルナに遭遇した。
「何を書いてるんです?」
「魔女の回廊よ、一人ひとりの夢の深奥にイメージされるものなの」
「それにしても、芸術的ですねえ」
デザが覗き込んだキャンバス、写実的でもありつつ、モンタージュかのような、どこか浮世離れしたような渦がそこにあった。
「魔女は一人ひとり、何らかの創作物を作る才能があるの、元来魔女は経験から学ぶ事を、創作や魔法の源とし表現として残してきた、実体験を超越するために、教訓を生かし、知識やユーモアにかえた、その蓄積が、やがて魔法となって、魔法の蓄積の結果が、魔女の見る夢に現れるようになった、夢は表現物を共有する場所であり、その経験や魔術を共有する場所でもある」
カルナがいうには、魔女は誰でも、初歩的な魔術として夢の中で、明晰夢を見るように訓練し、その中で創作物、表現物を作成するのだという。やがてそれによって、同じく魔女が表現したものの意味や経験したものがわかるようになり、神羅万象に通づる理や、精霊などのしくみが理解できるようになるのだと。
やがて沈黙が訪れ、二人は朝方の事を連想する。姉弟子リーヌとデザがかち合った時の事を。
「何をしているの……」
「あなたは……」
「私はリーヌ、彼女の姉弟子よ」
「なぜ、僕に秘密で魔術を?僕にも何か手伝いを……」
そこでリーヌは立ち上がり、うなだれた。
「はあ……」
「リーヌ、ちょっと、優しく接してね」
深いため息をおえて、二秒ほどぼーっと虚空をみつめ、怒りを抑えおわったあと、つかつかと入口に向かっていき、デザのむなもとに人差し指をあてて声をはりあげた。
「彼女は優しいから、あなたの申し出を引き受けただけ、誰もあなたに、魔術や魔女の全てを教える義務はない、確かにあなたにとって彼女は護衛魔女だけど、あなたの生活と彼女の生活は別ものなのよ、そもそもあなた、悪い友人とつるんでるようだけど、彼との関係や何かをどうにかしようなんて期待しないで、私たち魔女に日常の変化を期待しないでね、彼女、カルナを手伝っているってきいているけれど、彼女があなたの日常を変えるとは思わないことよ」
デザは、何も答えられず、立ち尽くしついには下を向いてしまった。
「今朝はごめんね、あの人は私の姉みたいなひとで、おせっかいなの」
そういいながらカルナは、デザと目を合わせずキャンバスと向き合ったまま絵を描く作業を続ける。
「心配性だから言いすぎるところがあるのよ、私もいわれた、人間の暮らしに深く入り込むなと、結局違う種族なのだから分かり合えない部分があるんだってさ……まあ、私はそうは思わないけど」
そういうとカルナは、完成したのか椅子をたちあがり、背中をのばし伸びをした。デザは気まずくなり、そのまま入口にしばらくつったっていたがしばらくしてかえると言って自宅に向かった、その日から、しばらく手伝いはしない事にきめた。何か、人と仲良くなるうちで生じる、奇妙な亀裂や距離感のようなデジャブを感じたのだった。
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