第19話

 キツネのお面と、猫のお面をした二人が空を舞う。悠々自適に、夢潜入の魔術は魔女が夢と夢との間をぬって、そのネットワーク上を駆け回ることができる。まるで仮想現実空間、古くはインターネット空間、現代的にいえばメタバース空間のように。二人はかつて見た夢で訪れた魔女の足取りを追う、先日デザの高校に現れデザを怪我させた魔女“グルト”とその味方、姉弟子とされる魔女“ピロア”の足取りを。方法は簡単だ。場所にアクセスするときはその場所にゆかりのあるものを持ち去り、そこで夢見るものの“夢”に潜入する。人や魔女にアクセスするときはその体の一部(髪や爪等)をもちよればその夢にアクセスできる。しかし二人はまだ直接その体の一部を手に入れられず、彼女ら、というよりピロアの拠点の塵を盗みその夢に侵入したばかりだった。

 やがて二人はビルとビルをとびうつり、彼女らの地下にある拠点にたどり着いた。しかし、夢に潜入しようとしたが、むしろ景色はゆがむばかりで、いくら念じても“夢見るもの”の気配はなかった。

キツネ面 「ダメだ、やっぱり拠点を変えたんだ」

カルナ「取引なんて、そもそも応じるか迷ってたんだ、これでいいじゃない」

 二人はじっと見つめあった。古びた拠点は、廃墟のようで中にテントを張った意外にはほとんどものもなかった。かつては散乱していた魔導書類も何もない。やがて二人の意識は、暖かな、そして東から登る光る何かに気おされた。

キツネ面 「朝だ」

カルナ  「いけない、もどろう、起きれなくなる」


 カルナが先に目を覚ました。カチューシャをとる。そして第一声にこう口にした。

 「プハー!!いい朝!!」

 次にキツネ面の主が目を覚まし、自分のカチューシャをとりあげた。その顔は、澄んだ女性の顔だった。キツネ面の主はカルナの姉弟子、魔女リーヌだったのだ。

 「ダメだわ、逃げられた!!どこにいるかわからないなんて、こんな事なら、もっと多く監視をつけておくべきだった」

 「私も、あんなに多きな“魔法災害”予知できると思ってた、自分を過信しすぎたわ、これから、どうすればいいのか……」

 カルナは落ち込んでいた。その肩を軽くポンポンと叩き励ますリーヌ

 「デザを見張りましょう、きっと彼が“魔法災害”に関係があるんだから、必ず彼の傍に現れるはずよ」

 「でも、彼を巻き込みたくなかったのに……」

 丁度その外で、タイミング悪く、人影があらわれた。通学途中にカメンムシの前を通った、デザ・ロアだった。


 また別の場所で、新しく拠点を構えた魔女“グルト”がある来訪者をまっていた。

 「ちっ、待ちくたびれたぞ」

 そういって、組んでいた片足に掌をのせて、魔導書を読みながら、出口に目をやる。新しい拠点は地上の廃墟だった。

 「すみません、魔女さま、少々奴らに手間取りまして」

 「ああ?魔術を使えばいいだろう、前みたいに」

 「ですが“復讐”のためにはやはり災害級のものを起こす必要が、それに目的は“首謀者”です、私の怒りの矛先は、ひとつなのです」

 「ふん、まあいい、お前も友人と離れ離れになった程度でよくそんなに憎めるな」

 「……いえ……あの、まあ」

 そういって魔女は不機嫌に起き上がり、来訪者のフードを外し、仮面を外した。拠点の奥にはほかに人影がなく、ぼろい小さな机とランプがあるだけだった。

 「よくきたな、デニー、次の作戦を練ろう」

 そういって外された仮面の下には、眼鏡をつけた素朴な少年の顔があった。それは、デザロアの友人であるトールズとその仲間がいじめていた、少年デニーその人だった。

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