第16話
夕方ごろ。デザの自宅にて、デザは二階窓際の部屋をあてがわれていて、秋ごろの涼しい夜風にふかれて読書をしていた。
《ニアアーギアーフー》
なにか、猫の鳴き声のようなものをきいて、読書の集中力が一時的に絶たれ、彼はページをめくる手を止めて窓のカウンターに本をおいた。彼の好きなコスモスが飾られ、涼し気な雰囲気を醸し出している。
「何だろう、しばらく野良はみなかったのに」
そういってまどにてをかけ、外をみる。
「ギニャア……フフフフ、ギィィ」
それは涼しい風にまじった、人の声のようにきこえてきた。気味が悪くなり、寒気がして窓を閉じようとした瞬間、彼の窓のすぐ外側で、つむじ風がおこり、それは虫や埃を巻き上げ、魔女の像を結んだ。
「!!」
夜中7時頃、カルナは一人で“夢潜入”をしていた。危ない事はしていない。ただ夢のなかで、町の人たちに聞きこみをしていたのだ。得られた情報は、
“笑い声とともにつむじ風をみた”
“奇妙な魔女が仮面をつけた人と夜中散歩をしていた”
(災害の元となる魔女が、悪さをする前に捕まえなければ)
そんな考えに苛まれカルナは焦っていた。
その時、カメンムシのドアがひらかれる。
「だれ!?」
突如夢から日常にひきもどされ、座っていた小型の安楽椅子からたちあがりカルナはカチューシャをはずいて、奥のへやから見せのホールの方に、しきりにあるのれんをくぐりカウンターへでてきた。
「デザ……」
そこにいるのは顔を青くしたデザだった。
「どうしてこんな夜中に」
「いや、つむじ風が、連絡してもいないし、それは?」
「これは……夢に潜入を、調査をね」
「一人で?」
「一人で、別にあなたを信用していないわけじゃないわ、ただ、私は一人のほうが……」
デザは、こぶしをにぎって、呼吸を整え生唾をのんだ。
「あなたは、そうやっていつも調査をしていたんですよね、僕の手伝いとは別に」
「ん?どうしてそれをしっているの?」
「それはいいんです、あなたはきっと僕の味方ですよね、本当に守ってくれるんですよね?」
「それはそうだけど、私ね……ちょっと過去の話をしようか?」
そこでデザはカルナの過去をきいた。本来、人間の生活や事情に深く立ち入ることはご法度なのが、魔法使いの世界だ。そんな中、かつてカルナが人間を信用しすぎて、ある大切なものを人間に私、それを人間に悪用され、魔女の世界を危険にさらしたという話だった。話の終わり際、彼女はこんな事を口にした。
「大丈夫、あなたは必ず守る、術をつかっているときは反応できないけど、私が今負っている希星魔女院の任務はあなただけ、あなたよりずっとあなたの周囲に目を配っている、明日から一段と警備を強化するから、何かあればしらせて、私が、私がなんとかする、私が……」
そういって手をにぎられたが、その目はどこか遠い、過去をみてるようだった。
デザは話を聞いたあと少しおちこんで、外に出る。
「このまま、協力してていいんだろうか、協力すれば、災害をもしかしたら未然に防げるとおもったけれど、もしかしたら、彼女に僕は信用されていないかもしれない、というよりも彼女は僕と仲良くやりたかったわけではなくそもそも、自分の過去をみていたのかも」
デザは頭をめぐらせた。自分との日々は何だったのだろうかとも思った。しかしこうもおもった。
(信用……それもそうか)
と。デザは気が弱く自分の気持ちをうまく表現できない。もしかしたら誰かに強く聞かれると秘密を話てしまうかもしれないし、トールズのような悪友とも縁を切れないでいるし、コミュニケーションは得意な方じゃない。
その後、デザは件の幽霊がでるという廃墟に一人で立ち入った。誰もいないのを確認し、古びた店、ホールの椅子とテーブルのまだ綺麗なものみつけ、椅子に腰かけた。
「彼女は、僕を信用しているんだろうか、魔女というわりには人懐こく、親切な人だから、信用したのだけど……祖母ちゃん、本当に災害から守ってくれるのだろうか、一人で悩んでいるあの魔女が、まるで僕みたいに……」
するとどこからともなく声が聞こえてくる。カラリと乾いた年配の女性の声だ。
「人に頼りすぎるのもいけないよ、あくまで向こうもしごとだ、それに気づいているんだろう?あんたが気にしてるのは、トールズという子の事だ、あなたが彼に、正しく気持ちを伝えられるか、父のように激しい失敗をするのじゃないかと恐れている」
「ばあちゃん、祖母ちゃんが今も生きていたら、少しは気が楽だったのに、母さんはあんなふうに、心をやんで泣いてばかりいるし、僕は……」
「ずっとはっきりいってこなかったけれど、デザ、あなたが人にやさしい理由、あなたの父、私の息子が激しい強さを見せた理由、それから、あなたの秘密はね、私から受け継がれたあるものに秘密があるのよ、それはね」
デザは目を見張って、涼し気な風と共にもたらされたその幻想のような声の続きを聴いた。
「まさかね、祖母ちゃんいまのは幻想だ、だって祖母ちゃん僕が霊感をもっているといったら、嘘だといってきたじゃないか、いまのは、嘘だよね、嘘さ……空耳だ」
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