第13話

 ある少女が夢をみていた。仲のいい弟と、家族の夢。ごくありふれた日常がそこにはあった。少し奇妙なのは、だれもが魔女のような格好をしていることくらい。けれどその日常に時折悪夢のようなノイズがはしった。少女が弟から目を離すとそのノイズが入り混じる。家族のもう一つの性質について、少女は薄々気が付いていた。気づかないふりをしていたのだ。あの時までは……。


 少女は成績優秀な生徒になっていった。希星魔女院に通い、人間界でバイトをしながら、希星魔女院に通い仕事をし、貧乏だった家族に仕送りをおくる。弟がなきついてきたのは、彼が希星魔女院の入試試験に落ちたときからだった。

 「姉さん、家族のいじめがひどくなってきたんだ、耐えられない、僕は優秀な生徒にはなれない」

 もともと、男の魔法使いは存在しない。その代わり男は魔女とペアを組んで、魔力の補佐をする。どれほど魔女の力を引き出せるかでそのマネジメント能力や、魔力、魔術への理解や知識が報復か、統制能力があるかが判断される。彼女の弟は、気が弱かった。もともと男の支配が強い希星魔女院でも、魔女社会でも、気弱な男、弱い男はあるまじきものだとされていた。


 弟が変わっていったのは、人間界に逃げ込み、ともに暮らすようになってからだった。人間社会に居場所を見つけたようだったが、しかしそれはよい場所とはいえなかった。ドラッグをやるしやんちゃな事もする、そんな仲間をみつけた。

 「姉ちゃん、僕のためなら、なんでもできる?」

 弟は次第に精神をやむようになっていった。彼女はそれでも弟と組み仕事をして、成果をのこせば希星魔女院にみとめられると考えていた。弟がなぜこれほど気弱なのかはわかっていた。弟は、家族に虐げられ続けてきたからだ。影で、まるで女のようだと陰湿に、いじめられてきたのだった。弟はあるまじき場所に居場所を見つけてしまった、自分が、家族が、魔女社会が彼に居場所を見つけなかったばかりに。


 仮面をつけたカルナとキツネ面の人が会話をしている。

カルナ「この夢の主は魔女グルト、今回の“魔法災害”の最重要人物、得意とする魔法は風、すでに私に接触した痕跡がある、そして、もしかすると姉弟子のピロアがいるかもしれない、そうね?」

キツネ面「打ち合わせをした通り、そうよ、ようやく意識もはっきりしてきたね、カルナ」

カルナ「それじゃあ、忍び込もう、ばれないように、目が覚めるまで仮面は絶対に外しちゃだめだ」  


 夢の中に、キツネが侵入する、次には猫が、なんてことない日常だったものに侵入して、情報をさぐる。二人は虐げられている彼女の弟をみた。

父親と母親 「お前はできそこないだ、女にうまれてこればよかったものを、そればかりか、男としても弱い、オラ、しゃきっとしろ」

 小さな頃からムチでたたきつけられたり柱にしばりつけられたり、意味もなくはたかれたり、そんなことばかりだった。

 キツネと猫が会話する。

キツネ「ひどいな」

猫  「彼女は、弟の敵をとりたいのか、それとも恨みを晴らしたいのか」

 次いで記憶の点と点をつないだのは、弟がやっと希星魔女院にはいってからだった。その頃には収入もおちついて希星魔女院で仕事をもらっていた少女は、そこで過ごすうちにいい知らせをきいた。

姉 「弟が希星魔女院の試験に受かったって」

少女「え?本当?」

 それからの暮らしは楽しくてたまらなかった。家族は弟をいじめる事はなくなったし弟は妙な薬を徐々にだがへらしていった。何もかも順風満帆、過去さえも変えられるとおもった。自分が弟をずっとみてさえいれば。

父 「弟が、クレイが、死んだ」

 それは、訓練中の事故だった。だが、調べれば調べるほど妙な点が浮かんだ、ある教師―グーニタ―という教師が、わざわざ弟と一番エリートだった生徒―クリフォ―と弟クレイをいつも戦闘訓練のペアに選んでいたという事。

 「クレイの人生はなんだったの?」

 弟を溺愛していた少女はその日から少しずつかわっていった。家族は一か月もしないうちに笑顔と、日常を取り戻した。少女は少しずつ気づいていった。私はこの家族に復讐がしたかったのかもしれないと。そして、弟をずさんに扱ったこの世界に、弟の本当の強さと、やさしさを伝えたかったのかもしれないと。


  


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