第12話

 カルナは、カメンムシの二階自室にて、シャワーを浴び、眠る準備をした。いつものように眠りにつく前に例のヘッドセットと呼ばれる、ただし見た目はただのカチューシャにしか見えないものをつけた。オウムはいつものように騒がしくない。言葉もしゃべらず、鳥らしい鳴き声を放つ。

 「今日は交信日じゃなかったか」

 カルナは横にになった。

 「リアナ……」

 テーブルの上で手をつないでいる二つの人形を見つめた。カルナに見える人形ともう一人、白い髪のワンピースの少女が手をつないでいるように縫い合わされている。うつらうつらとし始めると、夢の向こう側から自分を呼ぶ声を聴いた。


 「カルナ、カルナ」

 男のものとも女のものとも判別がつかない、それらが混じったような声だ。

 「カルナ、約束通り潜入を、潜入を」

 そうだ、今日はある人と夢同化をして潜入をする約束をしていたのだった。しかし、一体だれと?夢の中の煩雑な意識の中で記憶も不確かなものに変わっていく。どうだったろう、人間と?あるいは見知った魔女と?

 「カルナ、あなたも“夢に目覚めた?”」

 「あ……」

 白い大地にぼんやりとした街の情景、これほど明確にかかれているのはこれがただの夢ではないからだ。

 「そうだ、今日は魔女の夢に潜入するんだ」

 「そう、カルナ、あなたはすでに“彼女”の足取りをつかんでいる、二人で情報を共有したとおりだ、そこで“彼女”の味方をみつけた、もう一つ進行していた“希星魔女院”の調査と一致する、敵は二人、調査対象は二人いる、僕らは(私たちは)そう現実で情報を共有した、ある魔女の弟子二人組、それが“魔女災害”の調査対象」


 カルナはぼーっとする頭で周囲を見渡す、街が、鮮明にえがかれた世界、それはまるで昨今の流行りのメタバースのように明確に表現されていた。唯一の違いは世界も街も白と黒でしか表現されていない事。これは予知夢や何かじゃない。魔法陣をかけて人の夢に潜入する魔法、“夢体離脱”だ。意識はまだぼんやりとしているし、夢の中だから、この人が男が女かそもそも何者であるかも思い出せずに、一人称も、頭の中に直接言葉の意味が届くせいで定まらないでいる。


 「今回の調査は、あの二人がどれほど密接に関係しているかどうか、夢の中で接触してみること、危険もあるから、仮面をつけよう」

 「仮面……」

 そういうとカルナの目の前の人物はポケットから球体をとりだした。絵柄のある陶器を無理やり球体に歪ませたようなぐちゃりとした色が幾層にも重なっている。それが突然宙に浮いたかと思うと、変形をはじめ、それは仮面となり、人物の顔を覆った。綺麗なキツネのお面、化粧をしたような装飾があった。

 「キツネ、あなたは……あなただったのね」

 「ああ、そう、ぼっとしてないでいきましょう、あなたも仮面をつけるのでしょ」

 カルナは促されるとポケットから同じような球体を取り出して、宙に浮かした。カルナのお面は、黒猫だった。カルナはつぶやく

 「これは、“寓話面”夢のなかで、他者の夢のなかに動物のフリをして潜入するための……」

 「そう、しっかりして、あなたがたよりだから」  

 「魔法災害のほとんどは、人間に術をかけることによりおこる、そしてそのほとんどは人間を夢のなかで魔法と暗示にかける“寓話獣化”人間の中の野生を引き出して、意のままに操る……」

 カルナは自分の頬をパンパンと二回たたいて、指をさした。

 「調査はすすんでいる、今回の“標的”魔女グルトは、今日は地下のある魔女とあっている」

 そういうとカルナは地面をけとばし、ひょいと中に浮かんだ、まるでグライダーにのるように、高く飛び上がりながら、落ちるときには体は重力を半減させたかのようにゆっくりと地面にひっぱられる。現実から離脱した意識は、夢の中で街を滑空するのだ。風と夜景が心地よい、白と黒だけの美しい世界の中で、どこか心が躍るのだった。

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