第11話

 あるざあざあぶり大雨の日。傘をさした生徒たちが、校舎にすいこまれていく。そこに二人の男女が足をそろえた。女の方は怪しげな霧をまとっているが、雨のせいで、それほど目立たないようだった。

女「チラシいかがですかー」

男「いかがですか~」

 デザの通うグルド校門前で怪しげなフードと合羽をきた男女がチラシを配りはじめる。最初は誰もが彼らをさけるが、彼らの放つ怪しげな霧に導かれるように、一人また一人とそのチラシをうけとる。誰もが最初は怪しんだが、霧にあてられたようにいぶかしむ顔からふと力がぬけると彼らのいる日常が普通であるかのように、そのチラシを受け取ることが当然であるかのように、明るく挨拶をして受け取っていく。フードの中の女性が笑う、目が鋭くつりあがった、件の魔女であった。

 「ククク」

 その日その後には、校庭や教室や廊下で口々にこんな会話がかわされた。

 「今日のチラシみた?」

 「魔女がでたって、怖いわねえ」

 「先生たちにいっても無関心、自分たちでどうにかするしかないわね」


 高校が夕方のチャイムを鳴らすころ、カルナは、カメンムシで雑誌をよみながら頬杖をつきぼーっとコーヒーをのんでいた。ガラリと音を立てるのと同時にデザが声をあらげて入ってきた。

 「ちょっと!!」

 「??」

 「このチラシ、見てくださいよ」

 「!!……これ、どこで?」

 チラシにはこうかかれていた。

 《この高校に魔女が出現した模様、魔女災害の元となり近く高校生に何かしらの危害を加える可能性がある、注意すべし》

 小さく、こうも書かれていた。

 《ある男子生徒がこの魔女と関わりがある模様、彼を監視せよ、彼は魔女に加担している》

 「うーん」

 カルナは眠そうにうなり頭を抱えた。

 「うーんじゃなくて、これなんとかしなきゃまずいんじゃないですか?」

 「確かに」

 「確かにって」

 「いや、こういう事をすると思って、っていうのはね、魔女は必ず人の悪意を動かして、魔力の元とするのよ、もともと魔術っていうのは負のものを動かす力だから」

 興奮するデザと対照的にカルナはおちついていた。話を聞きながら雑誌をめくったりしている、その様子にすこしデザはいらいらしてもいた。

 「いや、君は今まで通りでいいよ、もしもの時はこっちも魔法を使えばいいだけだ、何か異変があったら知らせて、私も高校への警戒を強めるわ」

 そういうと、デザは不満そうに、机に手を付けて抵抗した。

 「それだけ?」

 「それだけって?」

 「だから、もうすでに日常に彼女らが出没してるんですよ、もう日常に戻れないかもしれない、本当に、こんな宣戦布告のようなことをしてくるし、大人たちは魔法にかかったように、この件に触れない、何か、何か他にやりようはないんですか!」

 そういって、デザロアは片手をおおきくふってどなるようにまくしたてた。

 「いいたくないけど、やれる事はやってるわ、君にも任せてるし、私単独でもできる事はしている、ある程度の情報はつかんでいるし、今夜も仕事があるのよ、君もある程度の覚悟をもっていて、君も“選ばれた”以上、無害ではいられない、それはわかっていたことでしょう」

 「やっと魔女と仲良くなって、未知の世界と交流ができるとおもったのに、あなたは秘密ばかりですね」

 デザがそれでも膨れているので、カルナはすっと、デザの前にでて、抱きしめた。

 「大丈夫、私が守る、ただ、ずっと気を張っていてはいけないという事よ」

 「もっと、もっと何かできる事がないんですか、僕に手伝わせて下さい」

 「……そうね、あなたにリスクを負う覚悟と意思があるのならね」

 「いや、その……」

 デザを抱きしめながらカルナは、物思いにふけるのだった。  


 その日、デザは夢をみた。件の学校に魔女が迷い込み、竜巻によって生徒をまきあげ、大惨事をおこすというあの夢を。


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