第8話
ある休日、カルナの店にデザ・ロアが尋ねてきた。ガラガラと古びた扉をあけて、つったっている。
「カルナさん、協力させてくれ」
「どうしたの、突然」
といいながらもデザロアの訪問にカルナは少しうれしそうだった。彼から尋ねてきて、交流の機会をつくってくれるとは。
「考えたんだ、色々と、もし本当に自分のもとに“危険”が迫っているのなら、待っているだけじゃ性に合わないってさ、この町が魔女によって危険にさらされていて、一方で守られていることはしっている、ここは古い首都だから悪い魔女たちがその機能や歴史に目をつけて、はびこっている、だから人々は魔女を恐れている、けど、人間も魔女に協力したっていいじゃないか」
カルナは首をかしげながらも笑って見せた。
「そんな申し出、珍しいなあ、どうしようか」
「ダメかな?」
しばらくすると、カルナは椅子を左右に動かし、立ち上がりカウンターにてをついて、窓の外とデザを交互にみて悩みながら、いいよ。と返した。
二人はレストランにいって軽食をすませた。午後になりカルナはデザに、“魔力・魔術”との相性を試すためにある魔術をかけるといって、その意思があるかと聞いてきた。デザはもちろんと答えたので、カルナは彼にその魔術を説明し始めた。
「これから使う魔法は、“夢共有”といって、私の脳に記憶された予知に関する夢を、あなたの脳内で夢として見せる魔法なの、本当は無断で人間に“共有夢”を見せるのはいけないんだけど、まあ、グレーってところかしらね、これから一緒に昼寝して……私の見た夢を水晶を通してあなたに見せるの、もし夢が見れたら、それが判断材料になる、あなたは魔力をあなたの体に通すことができる“適正のある人間”だと、これをする意味はね、たまにいるのよ、完全に遮断する人間や、アレルギーを持つ人がね、入って」
そういってカウンターの奥の部屋に案内された。そこにはもう一つ部屋があって、二階への階段がみえた。その部屋自体はとても狭く、棚や押し入れ、売り物じゃないものが散乱するような物置のようなものだった。
「座って……」
パイプ椅子を二つならべ、水晶を台におき、カルナは後ろ向きに古びた台に向き合い、植物のタネやら、本やら、謎の液体やらを飲んだ。
「準備はいい?」
「ああ、えっと、ちょっとまって」
デザロアは深呼吸をしたりスマホをいじったりしたあと、答えた。
「大丈夫、今から本当に僕に魔術をかけるんだね、ドキドキする」
「まあ、そうなるわね、他に方法もあるけど、私にも気になることがあるから」
「ああ、いいよ、あと10分したら」
そうして、10分ほどたってデザロアが言う通りに静かに椅子に座ると、カルナは彼と手をつなぎ、彼女が術をかける。デザロアに何か呪文のようなものをかけるとこういった。デザロアの目の前で、カルナはデザロアによびかける指で空中に魔法陣を描きながら、こう呼びかけた。
「あなたは少しずつ眠くなる、眠くなる、けれど、いつもの眠りじゃない、予知に関する夢、あなたに私の夢を受け渡すわ、夢の記憶を」
やがて二人は手をつなぎながら、うとうととしはじめ、しばらくすると眠りに入った。二階からは鳥の声が聞こえた。オウムらしく人の鳴きまねをしているようだったがよく聞き取れなかった。
そこで、デザ・ロアは夢をみた。夢を見ているのに半分意識があるような感じで、夢の中でもカルナと手をつないでいた、霧があらわれ、その正面に二人の男がたっている。そして、男の一方がもう一方につかみかかり、以前カルナが見た夢とそっくり、二人の男が取っ組み合いを始めた。
「おきて、おきて」
目が覚めると、カルナが自分を揺り起こしている最中だった。二人は同時にあくびをして、カルナが、ノートを手に、デザロアの話を聞き取りはじめた。デザロアもわけもわからずも彼女の聞き取りに協力をした。
「……つまり、えっと整理すると、そのシチュエーションは私も“予知”でみたわ、結局私と同じ夢をみれたのね?」
「ああ、でも殴られているのはトールズにあの時からまれていた、いじめられっ子だった、でも俺がそんな事するはずない」
「そうね、私が見た夢では、相手の顔ははっきりしていなかった、少し違っているとなると、もしかしたら、違う予知をみたのかも」
「そんなこともあるの?」
「あるわ、あなたが触媒となって、私が新しい予知を見た可能性が」
共有夢をみたあとで、店に戻り、誰もいない店内の丸テーブルでカルナは来客でもあるデザ・ロアにお茶や菓子を出したが、デザ・ロアは落ち込んでいるようにみえ、カルナはそっと声をかける。
「どうしたの?さっきの予知で、何か気にかかることでも?」
彼はしばらく落ち込んだまま話ださなかったが、カルナが二回目のお茶を出すと、しぶしぶといった形で話始めた。
「……実は、僕の父は少し、暴力的になる時があって」
「エッ?今も?」
「今はもうこの世にいないんだが」
「それは、気の毒ね」
「いや、そうじゃないんだ、父は昔からバリバリのビジネスマンで、僕がうまれたときには、企業役員を掛け持ちしていた、それで、弱い会社や使えない社員に容赦がなかった、そのおかげで恨みをかった、家でだって……高圧的だし、ワンマンだし、時に言葉や行動で僕に暴力をふるった、だから父のようにならないようにと僕は行動や言葉をなるべく、気を付けてきたんだ、つまり暴力的な言動をなるべくしないようにしてきた、なのに、この予知が正しいということは、やっぱり僕は暴力をふるうのかね」
カルナは、彼の様子を見て慰めるように、この共有夢についての秘密を話した。
「これは、あり得たかもしれない未来、予知は断片的であり、いくつもの可能性の一つを見せるというだけ、この未来が嫌なら、変えることだってできる、あなたの力になるわ、護衛魔女だもの、それに夢を見れたという事は、あなたは私の仕事を手伝って何の問題もないという事よ、つまり“魔法適正”があるの」
デザ・ロアは言葉を飲み込みしばらく黙り込んでいたが、ふとした時にカルナを見上げてこういった。
「僕の望む未来のために、力をかして、僕もただで護衛されるとはいわない」
「それじゃあ、私から相談があるわ、私この町に来てまだ日が浅いの、明日から暇な時間に何でも屋の仕事を手伝ってくれる?」
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