第9話

その翌日から、彼らの何でも屋としての仕事が始まった。学校が終わる時に、デザ・ロアはカルナの手伝いに急いだ。

 ある時は、老人のお宅の掃除。

デザ  「なんで、魔法使わないの?」

カルナ 「軽々しく使わない、必要な時使えなくなるから、力を温存しておけば、それだけ魔法が使えるの、蓄えるのにも限度はあるけどね」

デザ  「ふーん」

 

 ある時、大事な指輪をなくしたという夫人がやってきて、探し物をした。

夫人  「すごいわね、本当に水晶でわかるなんて」

カルナ 「ええ、ってご婦人、向こうの部屋でまっているようにいったのに」

 ご婦人はずけずけとカウンターの奥に入ってきていたので、無理やり外にだした。

夫人 「本当にいるのね、魔女って」

デザ 「え、ええ」

 その後二人で探索にいった。

 「あ、みつけた」

 やっと見つけたそこは、街路樹の木の上のカラスの根城で、カルナにいわれて背の高いデザがそれに手を伸ばして、とろうとしたが、巣ごとひっくりかえして、目的のキラキラと光る指輪はコロコロと道端の排水溝へところがっていく。

デザ 「あっ」

 急いでおいかけるも間に合わないかと思ったそのとき、通行人のサラリーマン風の男性がその指輪をパチンと手で押さえ、デザやカルナのほうをむいて、どちらのものかと聞いてきた。デザは何やら、回答しようとしなかったのでカルナが答える。

カルナ 「私の探しものです、ありがとう」 


 その頃から、カルナはデザの事がきになっていた。もしかしたら、男性との付き合いがわからなくなっているのではないかと、彼は昔父につらく当たられたといったが予想以上の事があったのかもしれないと。その日の帰り、このことを彼に尋ねると、デザはこう答えたのだった。

 「いやそれは、それだけじゃないんだ、きっと、僕自身が彼に影響され昔ちょっとやんちゃだった事に関係がある、そのせいで人間とうまく距離感がつめられない時がある、気を使いすぎるようなときが、もうあんな思いは嫌だから」

 「あんな思い?」

 寂しそうな眼でなんとなく、カルナは悟った。きっと彼は、かつて人につらくあたる事があって、孤独を知ったのかもしれないと。


 また別の日、ペットの一日預かり。暴れまわるわんこになめまわされたり、ものをこわされたり。それでもカルナは冷静で、デザは必至になって世話をしたのだった。

 「なんか魔法に対して慎重ですよね」

 「うん」

 「どうかしました?」

 「いや、動物に対しては、いつも同じ態度なのね」

 「?」


 その日、仕事が終わりかえる段になったが、カルナは別の用事があるといい、二階で仕事をするといっていた。声をかけるだけで、店の扉を開けたまま帰っていいというので、声をかけたが二階から返事はなかった。仕方なく帰宅しようとしたが、カウンターの裏側の引き出しからはみ出しているあるものが気になった。

 (ん?なんだこの棒は)

 慣れもあったのかもしれない。彼はまるで躊躇せず、その棒へ手を伸ばした、細い棒で、自然の枝か、植物の茎のように見えた。それに手を伸ばし近づけるとビリビリとした感覚があった。

 「いてっ、静電気?」

 しかし彼は勢いよく無理やりそれにふれた。その瞬間だった、意識がふっと、別の世界にとんだようになり、脳裏に映像が浮かんだ。ホウキにのり空を飛ぶ魔女、カルナの姿が。彼がいない間、それも夜間にも仕事をしている様子が。しかし普段の仕事ではなく、どうやら魔女について聞き込みをしているようだった。

 (彼女、“魔女災害”について、一人で調査していたんだ、するとこれはホウキの枝?)

 信用されていないのかと思いショックだったが、それはそうと、これは何かの役にたるかもしれないと、その一つをつかみ、こっそりとポケットにいれた。

 「ひとつくらい持って行ってもばれないよな」

 

 それを持ち帰った日、デザ・ロアは色々な実験をしてみた。魔女と関係のある本、魔女に関連するグッズ(手鏡、骨董品屋で買ったペンダント)すべて近づけたり、ホウキの破片でたたいたり、ホウキの破片を手にもってなでたりしてみたが何の反応もなかった。何もないじゃないか、とがっかりして、椅子から降りてベッドに寝転がる。

 「あっ」

 仰向けで頭の後ろで腕ぐみをしていたが、ベッドの上で一つだけいい案をおもいつき、彼は首元につけていたロケットペンダントをとりはずし、チャームをソレに近づけた。机の上で両者を近づけた。すると不思議な事に、ペンダントの傍へくると、ホウキの欠片は自律してピンとたった。彼はつぶやいた。

 「これは“魔力”を探知するのか、祖母は……」

 パカリとチャームをあける。中に入っているのは祖母とまだ小さかったころの自分の写真である。デザ・ロアは感動していたが、しばらくすると興ざめしたようにがっかりとした顔をしてネックレスをつけなおし、少し悲しい顔をしたのだった。

 「使っているじゃないか、魔法」

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