第2話

  デザ・ロアという高校生の青年が普通の日常を送っている。なんてことない日々に、退屈に見える反復。しかしここ数日妙な目線を感じるのだった。通行人の傍に、カフェに入ると、読書をしている女性の方から、帰宅途中につけられているような気配もしていた。

 (どうも同じ女性からの視線のような気がする、けれど妙でその姿形が思い出せないんだよなあ)

 その物陰からの視線の正体こそ、実はカルナのものだった。


 彼らの出会いは、振り返る事数日前。なんでも屋件便利屋“カメンムシ”に久々の来客があった。しかしそれは客といえるのか、知り合いの来訪といったほうがただしい。

 「カルナ!!カルナ!!」

 「ゲッ」

 その声をきいて店内を逃げ惑う、魔法使いとしての姉弟子の“リーヌ”である。仕事も魔法も中途半端なカルナをいつも見張って時に厳しく、またあるときは厳しく、さらにある時にも厳しく叱っている。

 「カルナ、“大総長”から伝言よ、やっぱりあんたらしいって今度の“予報”の“遭遇率”から考えて、それに、あんた夢見たっていってたでしょ、魔女が覚えている“夢”はそのほとんどが予知夢、ねえ、早くおもいだしなさいよ」

 「……」

 カルナは、飼い猫の“スガル”を胸に抱えて、おびえるように縮こまってカウンターのテーブルの下に隠れながら、様子をみていた。

 「私にばれないとおもった?」

 「ギャッ」

 もちろん見透かされていたようで、二つのギロリと光る眼が、カウンターのすぐ後ろから姿を現した。

 「もう、なんで隠れるの!!」

 そういってリーヌは片手でカルナの首根っこをとらえると猫をそうするように持ち上げてテーブルからひっぱりだした。カルナはまるまって、おびえている。

 「だって、姉あねさん、いつも突然くるし、また何かお小言、言われるとおもって」

 「仕事は順調?またへんなトラブル抱えてない?“護衛対象”とちゃんとコミュニケーションとれそう?」

 「ぐっ、ぐっ、グウ……」

 一つ一つの言葉がカルナの胸につきささり、おもしとなっていった。

 (これだからこの人は苦手だ……)

 仕切りなおすとカウンターのテーブルについた椅子のよこ、たてかけてあるパイプ椅子をひっぱりだし、リーヌがそれに腰かけて、カウンターの椅子には妹弟子カルナにすわるように、アゴで指図した。

 「もう、てつだってあげるから、水晶で念写しなさい、どういう子だったの?」

 テーブルから水晶を取り出し、カルナはイメージを思い浮かべる、記憶を頼りにあの日見た夢を、予報が鳴った日、見た夢を。

 「うーん、一人は思い出せそうなんだけど……優しそうな眼で困り眉で、骨格がしっかりしていて、口の筋肉が発達していて、めはひし形に似ていて……」

 「うんうん、うんうん、あ!!」

 「何?なんですかお姉さん……」

 「いま、横切った人、あんたのイメージにそっくりだわ」

 「あ……」


  それからカルナは店を飛び出した。だが彼女は人とのコミュニケーションが苦手だったうえに、ちょうど姉の目を欺けるとおもってそれから数日、しばらく店にかえってこなかった。

 「あいつ……どこいったのよ」

 いかり狂った姉弟子のリーヌは彼女のかわりにしばらく店番をしたという。


 それから数日、デザの学校での一日がおわり、下校の段になって家に戻るために校門をくぐった。そこでいつしかみたようなデジャブの光景をみた。夢にまで現れたぼんやりとした視線の正体。そのシルエットには深い心当たりがあった。そこにいたのは、ポニーテールに、青い瞳、白髪のぼさぼさ頭にアホ毛をはやした、あの魔法使いの女カルナだった。

 「あ、こんちゃ」

 にへら、とわらうカルナ。

 「こんちゃって……あなた、やっぱりどこかでみたとおもったら、あなたでしょ、きっと」

 「何なんが?」

 「ストーカーですよ、ここ数日いつも同じ人から視線を感じていたんです、この前街をあるいてたら最初おっかけてきて、それから数日間ずっと僕の周りにいたでしょ……あなたのポニーテール、その瞳、髪色、あなたです、きっとあなただ、あの、こういうの中々言える性格じゃないんですけど、迷惑です」 

 「あ、あなたって記憶力いいのね、いやそうじゃなくて、そ、そんなつもりじゃ、ただ機会をうかがっていたのよ“護衛対象”は、5人までってきまってる、それに店さぼれるし」

 「??」

 そのとき、どこかで聞き覚えのあるキーワードが彼の脳内で、魔女という単語と合致した。 

 「これ、名刺と“護衛証明書”だよ、私はこの区画の“担当魔女”そして私が“魔法予報”の“魔法災害遭遇率”が高い人間“大総長”の予知にシンクロした波長をもつもの、“魔法予報”の意味はわかるよね、近々い“魔女災害”私の担当するこの区画が危険に遭遇うする可能性があるってこと、ツマリ君は“魔女護衛契約”の対象ってわけ、国が指定するように無料であなたを守るよ」

 「……あなたの夢に僕が……?」

 「そういう事、君も知ってるでしょ、高校生だったら、中学くらいで習うわよね」

 「ええ、でも、僕……まさかこの町で本当に、そんな目にあうなんて、都市伝説かと思いますよ、だって魔女に会う事なんて、彼女らは秘密組織だし」

 カルナはデザの肩をたたいた。

 「ま、心配すんなって」

 「ちょっと、どこいくんですか?つまり僕の近くで、近いうちに“魔法災害”が起きるってことですよね」

 「そゆこと~」


 カルナは、ふりかえりそのままてをぱたぱたさせてその場を去っていってしまった。

 「大丈夫かな、あんな人が“護衛魔女”で」

 そんな少年の心配をよそに、彼女は半目をとじながら、頭の後ろで手を組んで、口笛を吹きながら町を散策するのだった。

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