後日話―難しい彼女
……追いかけなくても、瑠華がそばにいる。
それは今まで私が望んでいたことだったけれど……今は少し複雑な気持ち。
ふと隣を見れば、食後温かい秋の日差しに当てられた瑠華が私の肩に頭を預けてウトウトしていた。
「……瑠華眠いの?……膝貸そうか?」
「いい……もうすぐ昼休み終わりでしょ?」
瑠華が寝やすいように膝を貸そうと離れようとしたら、その手が私の腰に回ってきて抱き寄せられる。それにドキッとして固まると、瑠華が不思議そうな顔で私を見つめた。
「……ぷっ、……なに緊張してんの?」
頬に瑠華の唇の感触。そして瑠華は私の肩に頭を押し当てた。
……瑠華と恋人同士になる選択は私の中に無かった。
嫌われている私が瑠華をどう想っていようと、瑠華自身が私を嫌っているのに、そんなことありえないと思っていたから。
……私の記憶がもう一人の私と重なった後、彼女は何度も私を押しのけて出てきていたけれど、学校内では大人しくしてくれている。今の瑠華の変わりようもその彼女のおかげだと思うと、素直になれない私はこうして甘えてくれる瑠華を前のように受け入れることが出来ない。
「………………」
「…………何で不機嫌?」
「……瑠華、……彼女とこういうことしたかったんじゃないの?だって私、」
ボソッと呟くと、瑠華は、また……?とため息。
瑠華が私に気持ちを向けてくれるのは彼女が瑠華にずっと気持ちを伝えていたから。……でも私が同じように過ごしたとしても、きっとそんなこと出来なかった。自分のこの想いが瑠華への恋愛感情だって気付くことも……。
「怜、」
「んっ」
瑠華の両手が私の顔を包む。顔を上げさせられて、その後すぐ瑠華にキスされた。嬉しい……よりも、戸惑いが大きい。目の前の優しい瑠華はもしかしたら私を見てないんじゃないかって、そう思うと苦しくなる。
「……アタシ、怜のこと好きだって言ったでしょ?……どっちの怜とか関係無い」
「っ…………それって、私じゃなくても良いってこと……?」
「そういう意味じゃ…………。って、怜はアタシにどう言ってほしいんだよ」
「……私が良いって言ってほしい。私は瑠華じゃなきゃダメだもの」
「っ…………分かってたけど、重い」
ぎゅっと瑠華を抱きしめると、そんな言葉が耳元で聞こえた。そんなめんどくさそうな声にきゅんとしてる私はきっと普通の恋愛観はしてないだろう。真中先生に言われるように、私はちょっと変態らしいから。
「……ごめんね?……私、瑠華にただ好きって言われるだけじゃダメみたい」
「っ……」
「……瑠華が私を見てくれるだけで満足してたのに。どんどん我儘になってくの……ダメね、私」
「……怜のそーゆーとこ、ダメじゃない。……もっと言ってよ」
瑠華の言葉にきゅんとして思わず熱い息がもれる。
「…………ダメよ。私、瑠華の気持ちを自分の思い通りになんてしたくない」
もう一人の私だったら、もっと違うこと言うんだろう。……私と違って自分の気持ちに素直な私。瑠華の言葉だってきっと正面から受け止める。好きに好きと返せる彼女。
……でも、私は……。
今までの瑠華との時間は決して良いものとは言えないけど、それは私にしかない瑠華との記憶。……反抗していた瑠華も、今ではそれすらも愛おしいと思ってる。だからこそ私は余計に、今の好意を向けてくれる瑠華をすぐには受け入れられない。
反抗していた瑠華は、間違いなく私だけを見ていた。……それを嬉しいと思っていたから。はぁ……やっぱり私、変なのかも。
「…………アタシはもっと言ってほしいのに……。怜ってほんと意味わかんない。ほっといた方がいいの?……アタシから好きとか言うと嫌がるし」
「そう、なのかな……。でもずっと放っておいたら、また瑠華に意地悪しちゃうかも」
「はぁ?……あれって意地悪だったわけ?……それは身に染みてるというか……あぁもぉ、怜って何したら喜んでくれるの?」
瑠華に怪訝な顔で見つめられる。……私はその顔を見つめながら顔を近付けた。
「……は?」
「…………っ、……」
瑠華と唇同士が触れあった瞬間、タイミングよく昼休みの終わりを告げる。私は鐘が鳴り終わるまでキスした後、私を押し返してくる瑠華を解放した。
「…………っ!急に、……なにすっ」
「さ、教室に戻りましょう?……瑠華、午後の授業寝ないようにね」
ぽかんと私を見上げる瑠華。じゃあねと手を振って、私は中庭から教室へと向かった。
「………………は?……あぁ、もぉっ!」
……驚いて顔を真っ赤にしていた瑠華、可愛かったなぁ。
慌てて追いかけてくる瑠華の足音を聞きながら、私は自分の唇を指でなぞる。
「……今日、委員会あるから瑠華は……」
「待ってる」
「……いいよ、今日はご飯作りに行くし」
「うっさいな。……アタシも買い物あるし、一緒に行ったら荷物も楽じゃん」
「…………ふぅ。……しょうがないなぁ。じゃあ待ってて?」
「ふんっ。しょうがなく待っててあげんのアタシだし」
「……はいはい」
可愛い可愛い、と瑠華の頭を撫でると、うっとおしい!って手を叩かれた。
……まだ私は瑠華とのこの関係が好き。好きの視線に慣れていない私は、好きを向ける方が合っている。
瑠華が振り向いてくれるのをジッと待つ時間、成功した日も成功しなかった日も、その事で一喜一憂している自分が好きだったから。
「…………じゃあね、怜」
「瑠華、メッセージくれるのは嬉しいけど、ちゃんと授業受けてね」
「っ、……だって怜何してんのか気になるんだもん」
「………………はぁ。……お姉ちゃん瑠華が心配」
「ぐ…………わかった。連絡しない。じゃ」
耳を赤くして教室に戻ってく瑠華を廊下で見送った。
……それでも我慢出来ずに瑠華がスマホに送ってきたスタンプを見ながら思わず頬が緩む。
私に振り向きっぱなしの瑠華、その反応が私の心を満たしていく。あぁ……慣れてはいけないのに、と思いながら、満たされていくことを止めることは出来なかった。
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