二十三話ーこれって学園ものの恋愛漫画かなにか?※イラストあり
<瑠華と怜イラスト>
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『おぉーいっ!伊崎!あんたあたしとの約束破るたぁどーゆーことだ!』
「…………あっ」
『……あっ、じゃないよ、あっ、じゃ!』
次の日学校へ行けば、よくつるんでる美穂が教室入るなりアタシの席まで勢いよくやってくる。……そーいや昨日って美穂と約束してた日だったんだ……。やっば。
でもそうは言われても、昨日は色々ぐちゃぐちゃだったし、仕方ない。
急に元の世界戻ってるし、怜は記憶無いし、家に帰ればあのウサギのやつはだんまりだし。……何事も無かったみたいになってて、アタシだけあの記憶を持っていた事に戸惑った。……まぁ、数時間後には寝てたけど。
『って、メイクも変わったってマジじゃん。……彼氏出来たってマ?』
「……だからなんでそんな話になってんの?!……昨日の今日で情報早くない?」
『そりゃ、あの伊崎がメイク変えて笠松ちゃんに優しくなったって聞いたらさ、やっぱ好きな奴に言われたからとかそーゆーのーっしょ』
「…………っ……なにそれ」
好きな奴って……。それで怜の顔が浮かんでしまうアタシもどうかしてるけど。絶対違う、と首を横に振る。
みんな、美穂もあの世界のこと知らないから仕方ないんだけど、アタシが長年怜を避けてた理由が誤解だったんだって分かって、あっちの怜とは仲直りしたわけだし。
それにあいつの気持ちを知った……っていうか、色々分からせられた、っていうのもある。怜の顔見ただけで、気持ちが落ち着かなくなるのだって、あっちの怜のせいだ。……それなのに、戻った途端、あっさり忘れやがって……。ほんとムカつく。
「ねぇ美穂……アタシって好きな人出来たらさ、そんな影響受けやすそうなタイプ?」
好きな人出来たら染まっちゃうとか、だいぶ恥ずかしいんだが?
『えー?だってあんた違うって思ってても意外と自分が認めたらすぐやるじゃん』
「……た、確かに」
メイクは完全にサラさんの影響だけど、……怜にそっちの方が可愛いって言われて調子乗ってたのも認める。
『……なんだよ、伊崎のメイク変わったの彼氏の影響かよ……ちょっと俺、今の伊崎タイプだったのに』
『あっ、俺も俺も』
そんな声が聞こえて来て、ぴくッと反応する。
「…………ちょっと、今の聞いた?美穂」
『……メイク変えた途端、周りの男子が色めき立ち、驚く伊崎……』
「……妙なナレーション付けんな。……っていうか、美穂にもこのメイクしてあげよっか?」
美穂もアタシと同じくギャルっぽい見た目に、アタシ程髪の色は抜いてないけど、髪留めやら小物が見た目に騒がしいタイプ。……前にすっぴん見たけど、かなり可愛かったの覚えてるし、きっとアタシみたいに化粧薄くしたって可愛いと思う。……それに美穂も同じにすればアタシが騒がれることも少なくなるはずだ、うん。
『なっ……!あたしがあんたの手に落ちるわけっ、落ちるわけっ…………お、お願いしやす!!』
「よぉーしっ!じゃあ、……後で休み時間にメイク落としてきて」
『ふぁっ!?……伊崎がサボってまでメイク落としてこいって言わないなんて……やっぱり彼氏の影響か!』
「違うわっ!」
昨日一緒に帰って駅近くのラーメン屋さんに行った時、怜はほんとに昔のままの怜だった。……まだぎこちなくアタシの顔色窺ってたけど、お姉ちゃん面してアタシに接してくる所も、……話してると、あっちに行く前の、というより子供の頃の仲良くしてた怜の印象に近かった。
何か聞きたそうにモジモジしてたけど、あえてアタシは知らん顔して聞かなかった。
……だってアタシがもし怜だったら、何で急に態度変わったのかとか、色々聞きたいことが山ほどあるはずだから。……むしろモジモジしてるだけで抑えられてる怜が凄すぎる。
……あっちの怜はアタシの気持ち考えなしに突っ込んでくるタイプだったけど、どういうことなんだろ……。怜にあっちの記憶があったら、こっちの怜もそうなるってこ……あぁ、もぉ!わけわかんなくなってくる!
『どしたどしたー?急に頭抱えて』
「……ナンデモナイ……」
美穂と話してると、すぐにチャイムの音がして先生が教室に入ってくる。昨日怜と先生の所行ったせいか、教室に入ってくるなり目が合って、にやにやした顔で見つめられた。
今日は朝からどこ歩いてても、誰かしらアタシの方を見て話してる姿が目に入る。……そんなにアタシがメイク変えたの珍しいわけ?って一人一人言いたくなる程に。そして休み時間になると他のクラスの男子までアタシを見に来ていた。
「…………ウザいわー」
『あははっ。……パンダの気持ちが分かった?』
「…………はぁ、そんな面白いか?……今までビビって近付いても来なかった奴らじゃん」
『まぁねぇ……そんだけ伊崎のイメチェンが良すぎたってことでしょ?……てかそーいえばさ、伊崎、笠松ちゃんと仲良さげに帰ってたってゆーじゃん。何?仲直りしたわけ?』
「アタシにプライバシー無いわけ?」
『諦めなって。あんな喧嘩ばっかしてた二人が仲良く帰ってんだから、そりゃすぐ噂になるでしょーよ』
……納得いかない……。とは思いつつも、そんなに今まで目立ってたってことに気付かなかったんだから、アタシもアタシか……。
「……もともと幼なじみだし。仲良くなったかは知らんけど。……まぁ、そんな感じ?……実はこのメイクもさ、してくれたの怜なんだ」
『……マジで!?あんた自分がやったみたいな得意気な顔してたの何?あたしも笠松ちゃんにやってもらうー!』
「……あれ?美穂って怜のこと苦手じゃなかったっけ?」
『はぁ?あんたが笠松ちゃんとバトってるから話せなかっただけだもん。あたしは別に笠松ちゃんのこと可愛い真面目ちゃんとしか思ってないし』
「……可愛いまじめちゃん……確かに」
そーいや怜も入学したての頃、告白する男子の列が続いてたって話だったけど、最近はそんな話聞かないかも。
「……ねぇ、怜もさ、よく告られてたじゃん?最近そんな話聞かなくない?」
『……あーそうか、あんた知らないのね』
「……え?」
……そしてアタシは知らない今まで知らなかった事実を知ることになる。
『伊崎と笠松を見守る会っていうのがあって』
「………………はい?わんもわぷりーず」
『伊崎と笠松を見守る会っていうのがあって』
「………………続けて」
『笠松ちゃんファンがね?不良になったあんたのこと絶対子どもの頃の昔のあんたに戻すって躍起になってる笠松ちゃんを見て感動したってゆーか。んで、笠松ちゃんもあんたに何言われようと健気に頑張るもんだから、今じゃその姿の方が人気になってて……』
「…………意味わかんないんだけど。ってか、不良とか、今時何?」
思わず頭を抱えた。……確かに怜と言い合ってても、あんま怒られたり誰かが間に入ってくることも少なかったけど……そういうことだったの?
……っていうか、それを周知させる怜と怜のファンって一体……。
『まぁそれも分かるけど。……あんたの知らない所で、あんた達の痴話喧嘩はエンターテイメントになってたってわけよ』
「……誰だそんなこと始めたやつっ!文句言わなきゃ気が収まんないんだけど!」
『まぁーまぁーまぁー……あんたたちが仲良くなったってゆーなら、自然消滅するんじゃない?……まぁ、また笠松ちゃんファンが別のこと始めるだろーけど』
「…………ぐ」
……確かにあいつの健気さってゆーの?分かるけど……。
「……昨日、怜と一緒に帰ってたらさ、すっごい見られてたのもそれ?」
『そりゃそうでしょ。……たぶん、見守る会の人間は泣いて喜んでるでしょうね。これで笠松ちゃんがあんたの心配しなくて良くなるってことは、笠松ちゃんファンに目を向けてくれるかも?って男子たちが告白チャンス窺ってるはずだわ』
「…………なるほど?」
……そーいえば前のアタシって、早く怜に恋人でも出来れば離れてくれるんじゃないかって思ってたけど、……そっか、そうだよな。怜もアタシの心配しなくなれば、その分他に目を向けられるってことだ。
……前のアタシ、なんで冷たくした方が怜が離れるはずだ、なんて思ってたんだろ。むしろ優しく怜の思い通りにした方が良かったってことか……。
色んなことがわかると、周りが見えてくる。……そして自分のしたことがどれだけ怜だけを傷つけていたのか、も。
……はぁ…………アタシってバカだな。
でもそんなこと考えられるよゆーが出来たのも、あっちの世界でお互い誤解が解けたからだ。
まぁ……それ以上に、怜の溜まってた気持ちも分からされて、あんなに見ないフリしてた怜の顔ばっかり浮かぶし、今じゃどう付き合えば良いのかもわからないけど。
『ねぇねぇ笠松ちゃんってどんな人がタイプなのかな。ほら、サッカー部で人気の先輩も狙ってるって話だし』
「へ~……そうなんだ。……怜のタイプねぇ、思いつかないけど」
そうは言いながらも、怜の好きなやつはアタシ以外思いつかない。……知らないやつからしたら何様だよって話だけど、ほんとにそれしか浮かばないぐらい分からされたんだから仕方ないし。むしろ違うって言われたら、アタシがショック受けるぐらいだ。
でも、それは今の怜に直接聞いたわけじゃないから分からないけど。あいつの態度も昔に戻ってるし……。
『……あれ?笠松ちゃんじゃん』
「……えっ?」
3限が終わった後の休み時間。
美穂と話してたから休み時間が終わるのもあとわずかな所で、教室の入口からこっちを見てる怜と目が合った。
目が合うと、怜がこっちこっちと手招きしてくる。アタシがそれに素直に従って席を立つと、周りがざわついたのが分かった。
「…………教室来なくていいのに」
「……どうして?」
「なんかアタシと怜のこと広まってるみたいだからさ」
「…………また瑠華気にしてるのね」
しゅん、と寂しそうな顔する怜。あっ、と思って、アタシはすぐに違う違うと手を横に振った。
「っ、怜も何か言われてるんじゃないかと思って……」
「心配してくれるの?……ありがとう、瑠華。でも大丈夫よ」
「…………そっか。ならいいけど。……それで?なんか用?」
「うん、あのね……瑠華、お昼一緒に食べない?」
「……お昼?」
聞き返すと、怜はアタシに体を寄せて耳打ちした。
「瑠華の分のお弁当も作ってきたの」
「っ…………」
正直、ドキドキして言葉が頭に入って来なかった。怜の匂いとか近くで聞こえた声に体が勝手に反応して、顔が熱くなる。
「……それともお昼用意しちゃった?」
「……え?あ……し、……してない」
「ほんと?じゃあお昼休み……校庭の庭で待ってるね」
「……っ、あ……うん、わかった」
「ばいばい」
「……ん、」
怜が小さく手を振ったから、アタシもそれに返す。2個先の教室に入ってく怜を見送った後、へらっとしてた自分の頬を叩いた。
……今のなに。この彼女出来た感なに。その彼女がお弁当作ってきてくれたこの喜び感なんなの……!?
これは笠松ファン大喜びだわ。……アタシ笠松ファンとかじゃないけど。
はぁ、と深呼吸してから自分の席に戻ると、案の定美穂が詰め寄ってきた。
『……今の何!?』
「それはアタシも心の中で言った」
『……この目にするまでは信じがたいと思ってたけど……なになに~?笠松ちゃん可愛くない?あんたにはあんな顔するのねぇ……。でもあんなに瑠華大好きオーラ出されたら、笠松ちゃんファンは意気消沈だわ』
「……大好きオーラって?そんなの出てた?……今、普通に話してただけだけど」
『……はぁ……分かってない。分かってないわ。……普段の笠松ちゃんがどんな顔して学校にいるのか知らないからありがたみを感じないのよ、あんたは』
……んなこと言われたって。怜のことなんかここ何年も記憶に無いし。
『……笠松ちゃんが可哀想すぎるわ』
「…………それはアタシも思う……」
ボソッとつぶやくと、美穂に驚いた顔された。……いや、アタシだって反省するし。
「………………そんな違うの?怜」
『今までの笠松ちゃんって言ったら、無表情でミステリアスな美人って感じで、あんたのことになると感情むき出しな所がうけてたわね』
「……美穂の情報って誰目線なの?」
周りから言われると自覚するってゆーか。怜ってほんとアタシのことになると必死になりすぎ。……あんな顔してちゃ男寄って来ないぞって思ってたけど、逆に受けてるとか怜らしい。
『……笠松ちゃんってシスコンっていうか、幼なじみコンプレックス?おさコン?』
「……それはあるかも」
『ふぅ~ん。……それより今度あたしにも笠松ちゃん紹介してよね!』
「……へいへい」
どう怜のこと話せばいいのかわからなくなってると、タイミングよくチャイムが鳴る。そしてざわついてた教室も先生が入ってくると何事も無かったように静かになった。
+++
昼休みに言われた場所に行くと、校庭の片隅のベンチに怜が座ってるのが見えた。そして怜に気付いたのと同時にあっちもアタシに気付く。
「……瑠華!」
「……ごめん、遅くなった」
「ううん、大丈夫。私も来たばかりだから」
……んなこと言って、アタシが教室出た時には、窓から中庭でそわそわしてる怜の姿を見つけてた。……なんてゆーか……マジでアタシと怜の事、心配してるやつの多さに驚いた。お昼の前に二人で話してたの見掛けた子から、何か知らんけど感謝されたり、廊下歩いてればライバル宣言されたり、やたらジロジロ見られたり……。中庭に辿り着くまでだけで、色んな目に遭った……。これしばらく続くのかと思うとうんざりするな……。
「……おべんと貰うだけじゃ悪いから、飲み物買ってきた」
「……カルピス……?」
「あれ?好きじゃなかったっけ」
「…………ふふっ。子供の頃のことなのに覚えててくれたのね。お姉ちゃん嬉しい」
「……また言ってる。うちら同い年だっつーの。むしろアタシのが生まれ月早いし」
「……うーん……精神年齢の問題かな?」
「おいっ!」
アタシがベンチの隣に座ると、大事そうに抱えたカルピスを横に置いてお弁当を渡してきた。怜のと色違いのお弁当箱。蓋を開けると、シンプルだけど美味しそうなおかずの入ったお弁当に勝手にお腹が鳴った。
「……おいしそ~」
「……良かった、お弁当作ってきて」
「何の気まぐれ?怜だって朝忙しいでしょ?」
「……ずっとね?瑠華と一緒にお弁当食べたかったの。……だから気にしないで」
「ぐっ………………」
思わずからあげ喉に詰まらせた。
「…………またそーやって健気なこと言う……」
そーゆーの地味にアタシのメンタル削ってくんだが?
「……はぁ……アタシってほんとひどいやつ」
「……そう、なの?」
「っ……怜、あんたもうちょっと自分大切にしなよ。……アタシがしたこと分かってる?」
「…………?」
「っ…………はぁ……もういい。おべんと食べよ?怜」
「っ、うんっ♪」
…………可愛いかよ。
改めて怜って……天然だって分からされた。
でもまぁ……怜が嬉しそうならいっか、って思ってる自分がいる。
ずいぶんアタシ丸くなったもんだ。
「……うん……ん、美味しい。怜って勉強出来て料理もうまいのかよ。神様贔屓しすぎじゃない?」
「……嬉しい。瑠華に褒められちゃった。……ねぇ、明日も作ってきてもいい?」
「……え?……でも、」
「……ダメ、かな?……私と一緒にお昼食べるの、嫌?」
そんなこと言われたら、アタシはブンブンと顔を横に振るしかない。
「……ほんと?」
「嫌じゃない。…………怜が良いなら、いいよ」
「うんっ。じゃあ作ってくるね?……ありがと、瑠華」
「…………あ、……ありがとはこっちの台詞なんだけど」
ボソッとお礼言った後、顔がやけに熱かった。
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