小話―眠れない夜は※イラストあり

<瑠華と怜イラスト>

https://kakuyomu.jp/users/ogyuogyu/news/16817330648035782180




「……瑠華、ちょっといいかしら」


 ドアを叩く音と怜の声。

 寝る前にマニキュアを塗ってたアタシは、一旦塗るのをやめて鍵を開けた。


「……今、鍵開けたから勝手に入って」


 それだけ言って、アタシはソファーの上に戻る。すると後ろでドアが開いた音がした。


「……あぁ、マニキュア塗っていたのね」

「そ」


 匂いで分かったのか、怜はそう言いながら部屋へと入ってくる。そしてソファーの上に横を向いて体育座りしてるアタシの後ろに怜が座った。


「……しばらくなんも出来ないから、間違えてもアタシのこと襲うなよ?」

「…………む……どうしてそういうこと言うのかしら……」


 そう言いながらアタシの背中に寄っかかってくる怜を肘で押し返す。


「……なんか用?」

「……瑠華と話し足りなくて」

「……お風呂上りにテラスで話したじゃん」

「そうだけど……今日は寝付けなくて。……それ綺麗な色ね」

「サラさんが最近仕入れたっていうから見せてもらったんだけど、これが一番綺麗だったから借りてきた」

「……ふ~ん……」


 後ろから覗き込むだけじゃ足りないらしくて、怜がアタシの背中にくっついて上から覗き込んでくる。


「……ちょっと、重いんだけど」

「大丈夫よ。……ねぇ、見せて?」


 アタシが大丈夫じゃないんだけど……と思いながらも、怜がうるさいから塗り終わった左手を見せると、その手を取ってまじまじと見つめていた。


「うん……良い色ね。瑠華に似合ってるわ」

「……そう?アタシも塗っててそう思ったんだよね」


 ご機嫌で次は右手の爪を塗ろうと左手でマニキュアのはけを取る。後ろにくっついてた怜は大人しくなったと思ったら、今度はアタシの腰に手を回してきて肩に顔を乗せた。


「……邪魔なんだけど。くっつきすぎ」

「……瑠華は手元に集中してて」

「ぐぅ……人が動けないのを良いことに……」

「瑠華は赤が似合うと思うんだけど」

「……そう?よくケバいって言われるんだけど」

「……それはいつものメイクしているからじゃないの?今の瑠華だったらとっても可愛いわ」

「っ…………」


 指先見てるのかと思ったらアタシの顔を見てた。……ほんとこーゆーとこムカつく。自分が何もしなくたって可愛いからってさ。


「……瑠華、怒ってるわね」

「……ふんっ。怜みたいなすっぴんの方が可愛いよ、っていうやつが嫌いなだけだし」


 ふんっとそっぽ向くと、抱き寄せられて後ろに引っ張られる。


「ちょっ、危なっ」

「……瑠華の濃いメイクは自分の心を守る為でしょ?……なら、もうしなくてもいいじゃない。……私がいるわ」

「…………は?」


 呆気に取られて怜を見ると、その顔が近付いてきてアタシは思わず体を仰け反らせた。


「……また勝手にキスしようとすんな」

「いいじゃない。減るものじゃなし。……今、すっごくいい雰囲気だと思ったんだけど」

「……は?どこが?全然だけど」


 ぐっと怜の顔を押し返すと、うめき声上げながら離れていった。


「……あーもぉ……ちょっとよれたし」

「……いいじゃないまた塗り直せば」

「眠いし、早く終わらせたいの!」

「……じゃあお姉ちゃんが塗ってあげる」

「ダメ!……怜、こーゆーの不器用だから。……ウサギだってそうじゃん」

「っ!……ひどいわ、瑠華。今の私が作ったらきっと違うもの!」

「……どーだか……」


 ……っていうか呪いの人形二号とか作らないでほしいし。


「やっぱダメ。……怜は大人しくしてて」

「……は~い。……ふふっ。出ていけって言わない瑠華大好きよ?」


 ちゅっとわざと音を立てて、アタシの頬に怜の唇が押し当てられる。一瞬固まったアタシの頭には今にも部屋から追い出してやろうって考えが浮かんだけど、鼻歌唄いながら体を揺らしてくる怜に絆されて、そのままにすることにした。


「……はぁ……気が散る」

「……瑠華は上手ね」

「……褒めても何も出ないし」

「……るーか」

「っ……邪魔すんなし」

「……うん。見てるだけよ?」

「……ぁーもぉ……甘ったるい声出すなバカ」


 耳元で囁いてくる声も、お風呂上りの匂いも、背中に感じる感触も全てが甘ったるくて憎たらしい。


「……離れて」

「……瑠華、顔が赤いわ。……少し休んだら?」

「っ……誰のせいだよっ」

「……そうね……ごめんねって言えばいい?」

「っ……最悪」


 ……全然悪いと思ってないし。


「ほんと邪魔」

「……じゃあマニキュアは諦めて?」


 我慢の限界で振り返ったが最後、怜は待ってたとばかりに満面の笑みでアタシを抱きしめた。


「…………やっと振り向いてくれた」

「っ……!怜ってほんとバカ」



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