十九話ー矢印のゆくえは②
……何年ぶりかしらね。
瑠華と誕生日を過ごすのは。
『……怜の誕生日会、明日みんなでやろ?』
あの言葉はパーティーで疲れ切った私を労う為だって分かってるのに。私は改めて瑠華の優しさにときめいてしまう。そう言うと瑠華にちょろインって言われるけど、しょうがないじゃない。
『……今日の我が主は随分とお寝坊さんだね』
その声が聞こえて、浮上しかけていた意識が目覚める。
「……あら、いつの間に戻ってきたの?ウサ太郎」
『瑠華が書き置きと一緒にボクを投げ……置いてったんだよ』
その声にベッドサイドにあるテーブルの上を見ると、ウサ太郎と、そして足元に紙が置かれていた。
「……ひどい。瑠華ったら私の寝顔だけ見て出て行ったのね」
『……都合の良い解釈だね……瑠華は君の顔をつねって出て行ったよ』
ウサ太郎の足元には相変わらず丸くて可愛い文字でメッセージが書かれていた。
"ケーキ作ってくる。大人しく待ってな るか"
「…………可愛い字」
『君は瑠華だったら何でも”可愛い”くせに』
「ふふっ……えぇ、その通りよ」
『……幸せそうな顔しちゃって』
「…………そうね。……でも、物足りなくなってきてしまったわ」
『君は現実に戻りたいと思ってる』
私はウサ太郎の問いに頷く。
瑠華と一緒に居られるならこの世界でも構わない、なんて思っていたけど、ここはここで生き難さを感じる環境だった。……そう感じたのは、婚約を進めてくる周りの環境のせいもあるのだけど。
「……瑠華だっていつまでも私に付き合ってくれるわけないわ」
『恋人ごっこに?』
「……私はごっこだと思ってないけど」
『はいはい』
「……私、戻りたいわ」
『婚約問題でうんざりしちゃって。周りに良い顔するのももう嫌だって顔だね』
「……何で私……こんなに頑張ってたのかしら」
私がレイチェルとして生きていたから?元の記憶を思い出して、どうでも良くなってしまったのかしら……。
『……ふぅむ。君がそんなに帰りたいって思ってて、どうして二人は帰れないんだろう』
「……やっぱりウサ太郎、あなたの言ってることなんて信用出来ないわ」
『まぁ……信じてもらおうなんて思ってないけど。……もしかしたらボクが悪者で君たち二人を閉じ込めている可能性だってあるからね』
「………………ふぅ」
うさ太郎の言葉に心をかき乱されるなんて私もまだまだね。
フッと笑ってうさ太郎の頭を指先で弾いた。
『うわぁっ!……ったく、君たちボクの扱いがヒドイんだけど!』
私は構わず支度を始める。……サラは朝から今日の私の誕生日会の為の料理を作ってくれているんでしょうね。良い匂いが廊下から私の部屋にまで流れてくる。
「……今日は瑠華が私の為に開いてくれる誕生日なんだもの。私がこんなことで悩んでいたらダメね」
『どこに行くんだい?我が主』
「……みんなが帰ってくるまで、ちょっと体を動かしてくるわ」
身軽な服装に着替えた後、顔を洗いに部屋を出る。……いつになく少しウサ太郎が寂しそうだったのが気になるけど、きっとそんなこと言ったら笑われてしまうわね。
久しぶりに感じる静かな朝。……外の空気を吸えば、焦った気持ちは落ち着いた。澄んだ空気を大きく吸って、また吐いて。何も考えられなくなるぐらいに私は屋敷の庭を走り込んだ。
+++
『誕生日おめでとう』
帰ってきた三人を出迎えると、すぐに私の誕生日を祝う小さなパーティーが始まる。
「……みんなありがとう。こんなに素敵なケーキ初めてよ」
目の前には瑠華とアイラちゃん、そしてリリカが作ってくれたケーキ。そしてサラが作ってくれたご馳走もテーブルの上に並んだ。
……見栄えばかり気にするパーティーとは全然違う。私のことをちゃんと見てくれる人たちばかりだから、こんなにも嬉しいのね……。
『……ほらっ、あんたの出番でしょ?』
「うわっ!……わ、……わかってるよ……」
アイラちゃんに背中を叩かれて、瑠華は椅子から立ち上がると私に近付いてくる。
「…………瑠華?」
なんだろう?と椅子に座ったまま見上げると瑠華はもじもじしながら背中に隠していたものを私に差し出した。
「………………」
「……これ、怜に。あの、」
小さな花束。瑠華は少し照れたようにそれを私に向けていた。
「瑠華が……私に、花……?嘘よ、これは夢ね、夢だわ」
「は、ぁ……?何気に失礼なんだけど!」
私がそれを受け取るのに戸惑っていると、瑠華に無理矢理花束を押し付けられる。
「……怜、おめでと。……昨日は、……その、お疲れ様」
「……ふふっ……ありがとう。瑠華も私のそばにずっといてくれてありがとう」
……きっと瑠華がいてくれなかったら、私……。
『リリカもお姉様のお祝いしたかったのに!』
『いいなぁいいなぁ私もレイチェル様のドレス姿拝みたかったわ~』
『……レイチェル様のドレス姿がお綺麗なのはもちろんのこと、とっても可愛らしいメイド見習いもおりましたわ』
「……えぇ……とても可愛らしくて。あのままずっと私のそばに控えていてほしかったのだけど……」
私と後ろに立っていたサラが顔を見合わせると、瑠華は私たちを赤い顔をして睨んでいた。それに私たちはまた顔を見合わせる。
『え!?なになに、そんな可愛い子が居たわけ?ちょっと!何でそのこと教えてくれなかったのよ!』
「っ、こほんっ!!えっと、そんなことより早くロウソク消ししようよ」
話を聞きたがるアイラちゃんをかわしながら瑠華はケーキの上にロウソクを灯し始めた。
「……まさかこんな風にお祝いしてもらえるとは思わなかったわ」
どんなきらびやかなパーティーよりも今の方が楽しいわ。……一緒に過ごすのもこの数日のことなのに、ホッとしてしまう空間がここにはある。
「……ほら怜、ローソク消してよ。リリカが吹き消したくてウズウズしてるから」
「わかってるわ。……リリカはこっちを消して?私はこっちを消すから」
『いいの!?お姉様大好きっ』
『ひゃっ!レイチェル様とリリカちゃんがローソク消し合うとか、可愛すぎん?』
「…………アタシに聞くなよ」
『えぇ、とても可愛らしすぎかと。……このようにアットホームなお嬢様の誕生日は初めてですし、リリカ様もとても楽しんでおられますね』
『確かにレイチェル様の誕生日となると盛大なのが当たり前だもんねぇ』
「………………」
私とリリカがロウソクの火を消す横で、瑠華が少しだけ真剣な顔をして私を見ていた。それは私を心配する顔。……またサラ私のことで何か言ったのかしら、と心配になっているとリリカが大きく息を吐いた。
『わーい!リリカたくさん消したよー?』
「ふふっ、リリカ偉いわね」
『お姉様が褒めてくれたー!』
「……怜がリリカ褒めてる……今日は雨降るかも」
「……聞こえてるわよ?瑠華」
失礼な言い方ね。……瑠華がリリカばかり可愛がろうとするからつい対抗心が出てしまうだけだもの。笑顔で話しかけた後、私は瑠華の隣に移動して座った。
「っ……ほんとのことじゃん。いい年して妹に張り合ってるくせに」
「…………瑠華が私よりリリカばかり可愛がるんだもの」
ケーキに夢中になっているみんなをよそに、椅子を瑠華に近付けて腕を組む。瑠華はちょっとだけ嫌な顔したけど、振りほどくこともなく顔は背けてしまったけど私の好きなようにさせてくれた。
「……可愛がってほしいの?アタシに?……怜が、じゃなく?」
「瑠華を可愛がるのはいつものことだけど。たまには瑠華に可愛がってほしいわ」
「…………ふ~ん。……あ、サラさん、アタシそのフルーツ少ないのでいい。作りながらぶどうたくさん食べちゃったんだよね」
『そういえばあんた途中からブツブツ言いながらぶどう食べてたわよね……』
「考え事してたんだよ!……ほら怜は?アレいいじゃん。リリカが乗せすぎた所」
「じゃあ私はリリカスペシャルを頂くわ。サラお願い」
『わ~い嬉しい、レイチェルお姉様っ食べて食べて』
サラが切り分けてくれたケーキは生クリームたっぷりでカラフルな果物がたくさん乗っていた。そしてお祝いのチョコレートのプレートも添えられている。
「……じゃあ、頂くわね。………………ん!美味しいわ、リリカ」
『うんっ!お姉様の為に頑張ったの!』
『……くっ!……この遺伝子尊いっ……』
みんなが見守る中ケーキを一口頬張ると、みんなも目の前のケーキを食べ始める。そして美味しい、と言葉がもれていた。
「……ふふっ。こんなに小さなパーティーなのに、今までで一番楽しいし嬉しいわ」
「……それなら良かった。……怜、あのさ、余計なお世話かもしんないけど、嫌なことあったら言いなよ?」
みんなには聞こえない声で、瑠華がボソッとつぶやく。
「……うん。……というより、私、嫌なことがあると瑠華のこと強制的に巻き込んでいる自覚があるんだけど」
「…………はぁ?」
「ふふっ。もっとワガママ言って良いのね?ありがとう瑠華」
「!!……やっぱ今の無し!無しだから!」
「ダメよ。瑠華に二言は無いんでしょ?」
「……そんなこと一度も言った覚え無いんだけど」
ジト目で私を見つめる瑠華に微笑んで返す。瑠華は少しだけ照れた顔をした後、またケーキを食べ始めた。
「…………久しぶりにケーキ作ったかも」
「……瑠華が小さい頃、私の為に作ってくれたパンケーキ……覚えてるわ」
あの時は瑠華が自分の家に招待してくれて、私の為に誕生日を祝ってくれたのよね……。リビングが飾り付けられていて、大きな画用紙に、怜お姉ちゃんたんじょうびおめでとう、って書いてあったっけ……。
「うっわ。あのぐちゃぐちゃのやつでしょ?あの時のアタシ色どりだけそれっぽければいいと思って、ヨーグルトとジャムと豆腐と……冷蔵庫にあったもの色々乗せてた気がするし。……あれ全部食べてくれたけどさ、ほんとはマズかったでしょ。怜、次の日休んでたもんね」
「………………ふふっ、ちょっとマズかったわね。でも瑠華の愛だと思えば私は何でも食べられるわ」
「バカだ。ほんとバカだ、こいつ」
『お姉様、お姉様、これも食べてっ』
リリカと幼かった頃の瑠華の姿が重なって見える。私の為に頑張ってくれた姿は同じだわ……。
「……フルーツ入れてチョコ固めただけだから大丈夫」
「ありがとうリリカ」
受け取り、目の前で食べて見せるとリリカはとても喜んでくれた。
「……あの頃の瑠華思い出しちゃった。……ねぇ、私、あの頃の瑠華との写真しか持ってないから、今度一緒に写真撮ってくれる?」
「……え?いい、けど。……それって戻ってからのことだよね?」
私は素直に頷いていた。……あれ程嫌がっていた気持ちがなんだったのか、それは瑠華が私を受け入れてくれなかったからなのだと思う。
私の嫌なところも受け入れてくれた瑠華を見たら、もっと瑠華と一緒に過ごしたくなった。
「……なに?それ、どういう心境の変化?」
「瑠華のおかげよ。……瑠華が私を受け入れてくれたから、私、戻りたいと思ったの」
「………………ふ~ん」
「……でも、私も戻りたいって思ってても、こうしてここに居るでしょ?瑠華はどうしてだと思う?」
「……確かに。……あのウサギ、アタシらに違うこと言ってたとか?」
「……瑠華はウサ太郎を疑うの?」
「…………誰かさんが創造主でしょ?勝手に都合の良いこと言ってるんじゃないかって思うじゃん、普通」
「……否定出来ないわね……」
クスッと笑うと、瑠華は呆れた表情を見せた。
『ほらほらーお二人さん、サラさんのせっかくの料理が冷めちゃうでしょー!?』
「っ!あ、ご、ごめんっ!……ほんとサラさんの料理ってすごっ」
「……サラごめんなさい。温かいうちに頂くわ」
そしてそれ以上はその話をすることはなく、私と瑠華はみんなと過ごすパーティーを楽しんだ。
……この世界で過ごすのも、あと残り僅かなのだと信じて。
+++
お風呂から上がった後、私の足は自然と庭のテラスへと向かっていた。
「……瑠華」
「…………また来た」
「ふふっ……今日はウサ太郎も連れてきたわ」
私は瑠華が椅子を庭に向けて涼んでいる斜め後ろに座って、目の前のテーブルにうさ太郎を置いた。
『やあ、二人ともこんな所でイチャイチャしてたんだね』
「うっさい黙れ」
「……ねぇウサ太郎、そろそろ教えてくれてもいいんじゃないかしら」
『……はぁ……君たち、せっかくのこの世界を楽しもうって考えないの?』
「はぁ?」
「……やっぱりウサ太郎が……?」
『まだまだ君たちが仲良くなる為のイベントを用意してるのにさ』
イベント……?私と瑠華は顔を見合わせる。
『瑠華の大好きな「君と過ごした三年間」瑠華がずっと見てるからアニメの内容も漫画のストーリーも覚えちゃったんだけどさ』
「……!?おいっウサギ!プライバシーの侵害だぞっ」
『いいじゃない。こーゆーのって、二人の間を盛り上がらせる仕掛けがたくさんあって楽しいからね』
「……ということは、私たちウサ太郎の世界で踊らされていたのかしら」
……不思議と怒りも何の感情も浮かばない。ただそうだったのね、と納得しただけだった。それなら周りの煩わしさにもう悩むこともなくなる。……そう考えると気持ちが楽になった。
「現実のアタシたちは?」
『……階段を落ちる前に戻っているといいね。喧嘩ばかりしてる二人が言い合いして階段から落ちた、なんて噂広まったら大変だ』
「…………ごめんなさい、瑠華。私っ……」
私がもっと瑠華を信じていたら……あんなこと起こらなかったのに。
戻ったタイミングによっては現実に戻ることの方が悩みや問題はいくつもありそうだけど、今はそんなことよりもまた一から瑠華と向き合いたいと思ってる私がいる。
「……それで?ウサギはまだ気が済まないってこと?そのイベントが終わらないと戻れないとか?」
『……はぁ……二人とも強情で頑固だからつまらないよ。こういうのってヒロインが悩んで好きな子や気になる子たちの間で心が揺れ動くっていうのがいいんじゃないの?……なのに君たちときたら悩むどころかイチャイチャしてるだけだし』
「イチャついてない!……それにそういうのはあの漫画だからいいんだよ。勝手にアタシたちを当てはめんな……くそっ、このウサギ憎たらしいな」
「……瑠華と一緒にアニメや漫画を見ていたなんて……ウサ太郎だけズルいわ」
「ちょっ、そこじゃないだろっ!……っていうか、そんなネタばらしされたらもう騙されないし。いつまでこんなこと続けるんだよ」
瑠華がウサ太郎の体を掴んで揺らす。……するとウサ太郎はしばらく黙った後、話し始める。
『ボクは作られた時、願いを込められた』
「……願いって……怜の?」
ウサ太郎の言葉に瑠華が私を見る。
『……そう、”瑠華と仲直り出来ますように”ってね。小さかった怜が手を傷だらけにしながらボクを作ってくれたんだ。……当然ボクには怜の想いが込められている』
「っ……!……ウサ太郎……」
「……だから呪いの人形に……」
ふざける瑠華を睨むと、瑠華はクスクスと笑っていた。もぅっ……失礼ね……。
『……怜、君の願いは叶った?』
ウサ太郎の言葉に全ての想いが込められていた。きっとウサ太郎はずっと私たちのことを心配して、見守ってくれていたのね……。
「……っ……えぇ、叶えてくれてありがとう。ウサ太郎」
『…………そっか』
ウサ太郎の体がほんのりと光り出す。それを見て瑠華が声を上げた。
「……これ、戻れるんじゃ……!!」
『あぁ……君たちを現実に…………、……ふふっ。なーんて言うと思った?』
「「…………え?」」
一瞬にしてその光は消え、瑠華の顔が落胆の色に変わる。私も戻りたい気持ちがあった分、残念な気持ちもあるけれど、心の準備が出来ていなかったせいかホッとしてしまう。
『……まだ全然足りないよ。ボクはこの世界から離れたらただの人形に戻ってしまうんだ。……だからその前にもっとボクに君たちの幸せそうな顔を見せてよ』
「……意味わかんないんだけど。っていうかウサギは静かに人形に戻っておけよ」
『君ってほんとヒドイよね、瑠華。毎晩ボクのこと抱いて寝てるくせに……』
「ーーうわぁっ!!っていうか、ウサギの口どこだよっ!」
『ボクの口を塞いでも声まで塞げないからね』
「ぐっ……」
「…………瑠華。……それ、ほんと?」
ウサ太郎と話している途中、私は手を伸ばし座ったまま瑠華に抱き付いた。正直ウサ太郎が羨ましくてしょうがないけど、……今はこうして瑠華を抱きしめられるんだし、と我慢する。
「……っ…………黙秘」
「ふふっ。ねぇ……もう少しだけウサ太郎に付き合ってあげましょう?」
「っ、……でも、こいつほんとにアタシたちを戻すつもりかわかんないのにっ」
『瑠華、君がそう思うなら……』
「大丈夫。ウサ太郎は私たちの一番の味方なんだから」
『っ、……我が主……』
……だってウサ太郎は事を起こしただけだもの。私たちがこうなったのは私たちの意志だわ。
「…………味方って、怜の、でしょ?……はぁ……わかった、わかった。どうせこの休み中?怜との恋人ごっこは続くんだし。……ウサ太郎がどんなイベント起こそうがネタばれしてるのも同然だしね。よゆーだし」
瑠華にポンポンと肩を叩かれる。抱き付いた私を見つめる瑠華の目にホッとして離れる。
『……ふふふ……いいね。じゃあ瑠華、ボクと勝負だ。我が主、瑠華をドキドキさせて怜、君のこと好きにさせよう!ごっこだなんて言わせないよ』
「それはいいわね!」
「はぁ?!……なんでそっちが手を組むんだよ!」
「……あら、瑠華はよゆーなんでしょ?……それともお姉ちゃんが一緒じゃないと寂しい?」
「っ、バッカじゃないの!?んなことあるわけないし。……っていうか仕組まれたイベントだってわかってるのに引っ掛かるわけないじゃん。……それより勝負っていうんだから、勝ったらアタシの言う事聞けよ?ウサギ」
『……ふふふ、いいだろう。じゃあ我が主、作戦会議といこう。……瑠華は一筋縄ではいかないからね』
「……そうね。……瑠華、私のことで悩ませてあげるわ」
「はぁ?…………それはもう十分悩まされてるからもういいんだけど」
「……え?瑠華、それって……」
私のことを考えて頭を悩ませてくれてるってこと……?瑠華の頭の中にいる私……羨ましすぎるわ。
ウサ太郎と宣戦布告した後、瑠華にそう言われて途端に意志が揺らぐ。そしてそれを見透かしたように瑠華は笑って、ウサ太郎は大きなため息をついた。
『……我が主、瑠華に対してチョロすぎる』
「……さすがちょろイン」
「っ……仕方ないじゃない……好きな子にそう言われたらどうしても嬉しくなってしまうんだもの」
「っ…………」
『……どう?瑠華、嬉しい?君、顔にやけてるけど』
「勝手なこと喋るなウサギ!……っ、はぁ……でも前の冷静な怜が懐かしいかも。今は何言っても喜ぶし、ちょろすぎるし」
「っ、ひどいわっ!」
『……我が主……少しは自分の気持ちを抑えられる努力をしないとすぐに瑠華に飽きられてしまうよ』
「ぅ…………わかったわ……」
何故か最後には二人にお説教されて部屋に戻る。
私そんなにちょろいのかしら……。確かに瑠華のことになるとすぐ反応してしまうけど。……でも瑠華に飽きられてしまうのなら、もっと私……しっかりしないと。
『……うんうん、……楽しくなってきた』
次の日、私たちの予定にはなかった”イベント”が追加されていた。
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