十八話ー矢印のゆくえは①



 ……カシャカシャカシャ……。

 キッチンでかき混ぜる音が響く。


『……なんだいルルカ。あんた急に帰ってきたと思ったらケーキが作りたい、だなんて』

「……っ、あのお嬢様が誕生日でケーキ食べたいっていうからさ。仕方なくだよ、仕方なく」


 怜の屋敷でサラさんと一緒にケーキを作ろうかと思ったけど、それじゃすぐサラさんの手を借りてしまいそうだし、怜にもちょっかい出されそうだから、アタシは朝早くルルカの、自分の家に戻った。

 ルルカの母さんはアタシが変わったことにまだ気付いてない。……アタシは自分の中のルルカを消してしまったような罪悪感が胸にあって、この家に戻ることには少し抵抗があったけど、案外母さんは気にせずアタシを迎え入れてくれた。

 これで集中してケーキを作れる。……あんなこと言わせた怜のわがまま、少しぐらい聞いてやらないと後で大変な目に遭いそうだし。


『……瑠華に誕生日をお祝いしてもらうのは何年ぶりかしらね?』


 昨日、怜にそう言われて、アタシは胸が痛くなった。

 アタシが今までしてきたことって、……きっと怜を悲しませることばっかりだったから。自分でも馬鹿だなって思う。怜に当たったってしょうがないのに、何度もアタシに伸ばしてきた手を払い落としていたんだから。


『ふ~ん、まぁ何かあったらいいな?必要な材料は揃ってるはずだから勝手に使っていいよ』

「ありがとママ!」

『……ママだって?なんだいこんな時ばっかり甘えた声出して』

「ぅっ……ヤバ。ついママって言っちゃった……」


 眉をひそめて母さんはキッチンを出て行った。そしてホッと一息ついた所で、また別の声がしてくる。


「ルカーママさんが果物好きなだけ食べていいって」

「わーい、リリカイチゴ大好き~♪」


 果物の入ったカゴを持ってアイラとリリカがキッチンに入ってくるなり、つまみ食いを始めた。


「……ったく、付いてきたと思ったら、手伝わずに食べるの専門かよ」

「何言ってるのよ、レイチェル様はあんたが作ったケーキが食べたいんだから仕方ないでしょ?」

「うん、リリカもルルカお姉ちゃんのケーキ食べたいもん」

「……っ……リリカにまで言われたらしょうがないけどさぁ……ほら、さっきクッキー作っといたから食べてな」

「わぁーい!!ルルカお姉ちゃんだいすき~」

「ルカ……あんたもレイチェル様のあの遺伝子に弱いのね……わかるわ」

「……うっさいな。アイラと一緒にすんなよ」


 ……確かに、怜の子どもの頃によく似てるリリカを見てると……なんか、こう、無性に甘やかしたくなる。あからさまに怜の前でリリカを可愛がろうとするとすぐ邪魔してくるから出来ないけど、今日は怜とは別行動だし安心して可愛がれる。

 別に怜が可愛くないとかそういう問題じゃないんだけど……あの怜を可愛がると違う方向へいきそうだし。


「……ちょっとちょっと~赤い顔して何考えてんの?」

「なっ!!考えてない考えてないっ!」


 ハッとしてアタシはまた材料をかき混ぜる手を動かした。


+++


「ふぁ……」


 風呂上り、外のテラスで涼もうとすると先客を見つけた。

 疲れたその背中はいつもに増して小さく見えて、アタシはそっとテラスの椅子に近付いた。


「……風邪引くって」


 髪も濡れたままで、アタシは見かねてその肩に掛かっていたタオルで髪を拭いた。……こんなのサラさんだったらほうっておかないのに、どうしたんだろう。……いや、もしかしたらどこかでアタシたちのこと見てんのかも。そんなこと考えながら顔を覗くと、怜は目を閉じていた。


「…………寝てる。……まったく疲れてるのになんで……」


 って、アタシと話したくてここに居たのか。……相変わらず健気なやつ。

 そう、ちょっと前だったら呆れて見ていたのに、……今はそんな怜が可愛く見える。

 今までこんな感情無かったのに、メイクが落ちたすっぴんの怜の顔にもめちゃくちゃキュンときてるし。


『……瑠華は、いやらしい目で私を見てくれないの?』

『……は、……ぁ?』

『私は……好きな人にそう見られるのは嫌じゃないわ。……それに瑠華のメイド服姿、私が何も思わないって思ってるの?』


 ドクンと心臓が大きく高鳴った。今でも思い出すと怜の真剣な顔がチラついて落ち着かない。

 怜のアタシを見る目はあの思春期男子たちと同じってことでしょ……?怜が、アタシを……?そう思うと怜に見られてるだけで恥ずかしくなる。

 まだ信じられないけど、怜がそう簡単に嘘をつけないやつなのはアタシがよく知ってるし。……そうなると怜がむっつりになったのはアタシのせいか……。

 何で怜がアタシにあんなに必死になるのか、蓋を開けてみれば簡単なことだったんだ。そう考えると、ちょっとほっとけなくなってしまう自分がいる。


「…………ん……瑠華……?」

「……やっと起きた?ほら……自分の部屋で寝なよ、髪濡らしたままこんな所で居眠りしてたら風邪引くから」

「……やだ。瑠華と喋りたい」

「……なにリリカみたいなこと言ってんの?」

「っ、……リリカの話しないで。今は私のことだけ見て……他のことなんて関係ないって言って……」

「………………」


 怜の気持ちが痛い程伝わってくる。……その必死さが、可愛いっていうか、なんていうか……。言葉にするのも勿体なくてアタシは黙ってそれに耳を傾けた。

 ……でも怜はその沈黙を別のものだと感じたみたいで、急に慌てて否定する。


「……ぁっ、……ち、違うの。あ、あの、今のは忘れていいから。……ごめんね、瑠華」

「ふぅ~ん、違うの?…………ほんとにそれ、忘れていいの?」

「っ…………本当は忘れてほしくない、けど……こんな私……好きじゃないでしょ?」


 俯いて言い訳みたいにぼそぼそ呟く怜。アタシはそんな怜を後ろから抱きしめた。


「っ!?……る、瑠華……?」

「……昼間はあんなに強気だったくせに」


 慌てる怜を力いっぱい抱きしめると、強張らせていた体から力が抜けていく。


「っ……いっぱいいっぱいだったから……不安だったの。……瑠華がいなかったら私、……フリッツとの婚約の話、受けていたかも」

「……アタシとしてはそっちの方が楽だったんだけど」

「っ、そう、よね……。でも……私、やっぱり瑠華が好きだもの」

「…………好き、ねぇ……?怜ってそればっか」

「えっ!?だ、だって!……それ以外、無い、もの、……無いの」

「…………ほんと意味分かんないやつ」


 風呂上りの良い匂いが思考を鈍らせる。……疲れてたっていうのもあるけど、アタシはまだ濡れた怜の髪に顔を埋めていた。


「……瑠華のことが好きなの……」

「はいはい。……わかったから、早く寝なよ」

「……本当にわかってる?」

「分かってるから安心して寝なよ」

「………………うん」


 渋々、……本当に渋々頷いて怜がテラスの椅子から立ち上がる。


「……よしよし、えらいえらい」

「……部屋まで送ってくれる?」

「……はいはい。お嬢様」


 ……もうメイドじゃないんだけど、と小さく呟く。そして屋敷の中へと背中を向けると、後ろから包まれていた。不意に背中に当たる柔らかい感触に思わずドキッとして体が強張る。それを知ってか知らずか怜は体を押し付けてきた。


「っ……あのさ、歩けないんだけど」

「……そうね。……瑠華はもう少しこのままでいなきゃいけないわね」

「……分かっててやってんのかよ……」

「……湯上りの瑠華が可愛くて」

「は、……あ……?か……可愛いのなんていつもだし。……それより早くはな、」

「こうしてると瑠華がドキドキしてるの、伝わってくるの」

「っ!おいっ……!」


 慌てて怜から離れようと振り返ると、やけに熱っぽい怜の瞳に捕らわれる。さっきまで湯冷めして冷たくなってた体が嘘みたいに熱いし。


「…………っ……」

「……今、私がどんなこと考えているのか瑠華に見せたら嫌われてしまうわね」

「…………変態」

「っ……このまま瑠華に触れていたらおかしくなりそう」

「だったら離れてよ」

「……はぁ……瑠華を振り向かせるのは大変ね……」

「当たり前でしょ?……アタシがそう簡単に落ちると思うな、バカ」


 口では認めたくなくて、……でもそう言いながらもたぶん気持ちはお互いに矢印が向いてる。アタシは怜から離れた後、今度は悪さ出来ないように後ろに回って背中を押した。


「……もぉっ……ちゃんと戻るから、瑠華の顔を見せて」

「いーやーだーねー。……そんなこと言って、またなんかするつもりだろ。早く寝ろバカ」

「…………しゅん」

「そんな顔したって、もう騙されないから」


 恨めしそうな顔を向けてくる怜を無視して、部屋に押し込んだ後、アタシはやっとホッと息をついた。……ほんっと手の掛かるやつ。

 それにしても怜のむっつりってどうやったら直るんだろ……。明日にでもアイラに聞いてみるか。

 そしてアタシは明日は怜に捕まってたまるもんか、と早起きしようと誓ったのだった。


+++


「……って、わけなんだけどさ。どう思う?」

「……どう思う?って、それレイチェル様にグイグイ攻められてるって事でしょ?羨ましい!!」


 アタシはアイラの言葉に首を傾げた。


「……羨ましい?……そーゆーの好きなやつからされると嬉しいってこと?」


 カシャカシャとクリームを泡立ててた手が止まる。

 いきなり押し倒されるわ、キスされるわ……正直、怜じゃなかったらボコボコに殴ってる所だ。ア、アタシのファーストキスも怜に奪われるなんて……。色々納得いかないけど、ここが元居た場所じゃないから許してるようなもの。……うん、現実に戻ったらノーカンだから。ノーカン。


「……あんたはルルカじゃないから知らないけどさ、自分が良いと思ってる人に好き好き言われたり、強引に振り向かされたりしたらキュンとしないわけ?」

「っ…………キュンか……」


 アイラに言われてこれまでの気になる相手を思い出す。

 確かにおはようって声を掛けられただけでも嬉しかったけど……。でも良いなって思って部活を覗きに行くと何故かあいつが現れて普通に邪魔されたし。……それかアタシじゃなく邪魔しに来たあいつに目がいってて失恋するとかザラだし……。そう思うと、恋する気持ちを育めたのは『君と過ごした三年間』の王子様キャラのライト君だけだ。……二次元だけど。


「……ごめん。これまで辛い思いをしてたのね……あんた」


 どうやら思っていたことが口に出ていたらしい。いつの間にか隣に立ってたアイラが慰めようと肩を叩いてくるから、その手を払った。


「うっさいな、ほっとけっ」

「……それにしてもほんとにあんたとレイチェル様って別の世界で幼なじみだったのねぇ……」

「……小さい頃からずっと両親ほとんど家に居なかったから怜のとこ預けられっぱなしでさ」

「……そっか。……それでレイチェル様は過保護になったのね……」

「あいつアタシのこと妹か娘だと思ってるから」

「わかる~。でも今は恋人でしょ?……あんなキツイ喧嘩してたのにすーぐラブラブになってるしさ。君たちわからなすぎなんだけど」

「っ!?こ、恋人って……ご、ごっこだよ、ごっこ!戻る為っていうか……その、色々あったんだよ、色々……もうあんな喧嘩しないし、大丈夫」


 ……元はと言えば、子どもの時のアレのせいでアタシと怜の関係はこじれた。……一応、お互いすれ違ってたからってことで納得したけど。それ以降、怜がアタシに正面からぶつかってくるもんだから、正直どうしたらいいのかわかんない。あんなに気持ちをぶつけられたこと、ないし。好きとか、怜の気持ちに気付いたのだってこの数日のことなのに、恋人になりたいとか、そんなこと言われたってわかんないし……。

 ……怜の話じゃ、アタシが変わったからだ、って言ってたけど、自分じゃよくわからない。……ずっとこのままだった気がするし、たぶん今まで絶対的にあった怜への壁が無くなったからだと思う。


「…………はぁ……」

「ルルカもあんたも意外に草食系だよね。……レイチェル様の方が肉食系なのはわかるわ」

「そっ……だって!……あんな真面目そうな顔して頭ん中アタシとの……その、……あーもぉっ!!怜が変なこと言うからアタシまで変に思えてきたっ……!」

「……難儀ね~。聞いてるこっちは勝手にやっとけって感じだけど」


 頭を抱えるアタシの横で、アイラは余裕たっぷりの顔で小さく鼻で笑った。まるでカーマと話してるみたいだ。くそっ……他人事だと思って……!


「……レイチェル様の愛を甘んじて受けることね」

「はぁ!?……ちょっ……アイラは知らないからそんなこと言えるんだって。……アタシ、そのうち食われるかも」

「……いいじゃない美味しくいただいて貰えば。私だったら喜んで体を差し出すけど」

「はぁ……相談するやつ間違えたわー」


 ……今までアタシが素直に好きだって思えたのは、推しのライト君ぐらいかも。ライト君は見た目が王子様でキラキラしてて優しくて。……でも結構強引な所があって、ヒロインを振り向かせる為にする仕草や行動が一番カッコイイ。アタシもそんなライト君にキュンキュンしてたわけなんだけど……。

 そして実際フリッツ王子に詰め寄られた時、顔の良さにドキドキしたし、何か言うこともすることもいちいちカッコイイし、どこ見ていいかわかんなくなったのはほんと。……でも、今は……。

 昨日のことを思い出して頭を抱える。……怜に好きって言われる方が、抱きしめられる方が、……キスされる方が、ドキドキするし胸が締め付けられる、なんて。

 ……あいつも無駄に顔が良いし、なんていうか強引な所とかアタシの推しに似てるけど…………って、違う違う!!


「……なにバタバタしてるわけ?」

「っ!!なんでもないっ!……その、ちょっと思い出しただけ」


 うぅ、やだ……キュンとしてしまう、その相手が怜だなんて、やっぱりなんか納得いかない。

 女同士でそーゆージャレ合いみたいなのはあるけど、……怜のは何か違うってわかる。アタシを見る目もそうだし、触り方もやたらアタシを気遣って女の子扱いしてくるもんだから、こっちが照れるっていうか……。


「……正直ねぇ……顔真っ赤にしちゃって」


 にやにやとその顔に笑みを浮かべて、アタシの顔を覗き込んでくる。気付いた瞬間、もっと顔が熱くなった。


「っ!?……アイラズルいぞ!アイラの恋バナも教えてよ」

「はぁ?……私はそんな関係になる前にいっつもその国から離れなくちゃいけなくて、それどころじゃなかったわよ!」

「っ…………あ、そっか。アイラの家って転勤族なんだっけ、……ごめん」


 転勤族……?と首を傾げた後、アイラは少しめんどくさそうな顔をしてアタシを見る。


「……まぁ、あんたには言いたくないけど、恋バナ?っていうか、私はルルカのことも好きだったわよ?レイチェル様と同じぐらい……ううん、それ以上に」

「…………は?」

「だからあんたには言ってないから」

「…………ぁー……はいはい」


 何もかも忘れてたアタシの方が良いだなんて言われても、もうどうしようにもない。アタシは仕方なく手を動かしながら耳を傾ける。


「……ルルカはこのママさんのお店のことも、勉強も、努力してるとこ全然見せないけどいつも一生懸命で。私みたいに冷めた目で周りを見てるんじゃなく、自分を曲げずに周りともつるまないで一人で居る所も好きだったんだ……」

「…………ふぅ~ん」

「……それをあんたにどっちも奪われた私の気持ちよ!!」

「ぐっ…………それは、えっと……ご愁傷様?」

「むっきぃー!!!ルルカを返して!レイチェル様も返してー!」

「……今更?……もう諦めたのかと思った」

「諦めたんじゃないわよ。どうやって戻すのかわからないから様子を見てるだけだし」


 バンバン背中を叩かれていると、クッキー食べてたリリカがアタシたちに声を掛けてくる。


「はぁーい!リリカ、レイチェルお姉様のお綺麗な所とリリカにすっごく優しい所と眠れない時ご本を読んでくれる所が好きー!」

「……あぁ……レイチェル様とリリカちゃんの戯れ……心が休まる所かハスハスする……」

「だからアイラお姉ちゃんもそうだよ?ご本たくさんリリカに読んでくれたでしょ?アイラお姉ちゃんもリリカの大好きな人だもん」

「っ!?!?告白かっ!?これはっ……リリカちゃんが育つのを待つのも良し!」

「……小さい子相手に何言ってんだよ、アイラ。リリカは空気読んで慰めてくれてるだけなんだからな」

「ぐっ……あんたにたしなめられるなんて……ぐやじぃ」

「リリカーそのお姉ちゃんの為にケーキの仕上げ手伝ってー」


 先に焼いておいたスポンジの熱が冷めた。アタシが掻き混ぜてたクリームも完成する。あとは盛り付けをするだけだし、それは三人でやりたいと思ってたんだよね。


「はぁーい」

「アイラもリリカの遺伝子の為に手伝いなよ」

「ぐっ……遺伝子の為……それなら仕方ないわ……」


 どういう理由でOKしてんのか意味わかんないけど、まぁいっか。


「……帰ったら絶対怜のやつ、何で誘ってくれなかったんだって機嫌悪そう」

「そうかしら。……あんたが自分の為にケーキ作ってくれたんだって喜ぶと思うけど」

「そうかな。……そうだといいけど」


 帰るなりそっこー抱き付かれそう、とか考えた瞬間、思わず口元が緩んで自分で自分の頬をつねった。おまえなにしてんだ、と頬の筋肉に言い聞かせる。


「……なにしてるの?ルルカお姉ちゃん」

「なんれほなひ」

「……仮によ?……レイチェル様があんたにしてること、他の子としてたらどう思うの?」


 リリカと一緒にデコレーションを始めたアイラは手元の作業に集中したまま話しかけてくる。


「……ふへ?」

「まぁ、フリッツ王子にレイチェル様がされてるって考えてもいいけど」

「………………」


 怜がアタシ以外の子に……好きって言ったり、キスしたり……。そんなの十分ありえた話だ。……きっと何も知らないままなら怜が誰と居ようが何とも思わなかった。……でも今のアタシは怜のこと誰よりも知りすぎてる。


「…………私だったら絶対嫌」

「………………」


 アイラに言われるまま想像した後、……アタシは何とも言えない気持ちになった。

 なんだこれ。……今、胸の奥がブワッとムカついた。

 そんなの見たくない、って思ってる自分がいたことに気付いてアタシは頭を振る。


「いや、……アタシは怜のむっつりどうにかしてほしいだけなんだけど」

「……それなんだけどさ、むっつりじゃなくなったら、堂々と襲ってくるってことなんじゃないの?」

「……は?……いやいやいや」

「むしろレイチェル様がそんなことを言うのは、あんたに想いのままぶつけないように、健気に我慢してるってことじゃない」

「…………えっと、そういうことなの?」

「そういうことでしょ?……我慢しなくていいなら、そのまま襲ってるでしょ」

「…………確かに」


 ……あんなことよく口で言えるな、と思ってたけど、……言った後の怜が苦しそうに見えたのはそういうことなのか。


「まさに目の前でおあずけ食らってるようなものなのよ、きっと」

「おあずけって……」


 聞いてて恥ずかしくなった。

 アタシを目の前にすると怜にはご馳走に見えてるってことでしょ……?


「……そろそろわかってくれたかしら。自分がどれ程恥ずかしいこと元親友に聞いてるのかってこと」

「………………今、嫌って程、思い知らされてる……」

「そう。それは良かったわ」


 アタシは楽しそうに盛り付けをする二人の横で、気を紛らわせる為に黙々とぶどうを食べた。




※おまけ


「みんなおかえり……って、あら?瑠華熱でもあるの?顔が赤いけど……」

「……ななななんでもない」

「……ふぅ~ん……」

「ほーらリリカちゃ~ん、アイラお姉ちゃんとあっちでご本でも読んで待ってようか」

「うんっ!読んで読んでっ」

「ちょっ、アイラ、リリカ!!アタシを置いてく、……な……」

「……るーか?」

「ひっ……抱き付くなっ、耳に息吹きかけるなっ」

「……そんなに私のこと意識しちゃって……嬉しいわ」

「なっ!?……いっ、意識なんかっ……!………………っ、」

「……ねぇ瑠華……まだ始めるには早いわ。少しだけ私の部屋でお話ししない?」

「……そ、それ終わった後じゃダメなの……?」

「瑠華が嫌だっていうならそれでもいいけど、」

「…………ぐ、…………わ、わかった」

「ふふっ……瑠華、大好きよ」

「ぎゃっ!……勝手にキスすんなっ!」

「……じゃあ、今度からはキスする前にキスしていいか聞くわね」

「っ、だからあんたは何でそう恥ずかしいことすぐ口にすんのっ……!?」

「……ねぇ、瑠華……キスしていいかしら」

「ダ、ダメ!こっ……ここどこだと思ってんの?」

「大丈夫。誰も見てないわ。……ねぇ、いいでしょ?今日は瑠華が帰ってくるまでずっと大人しく待ってたわ」

「っ…………だめって言ったけど」

「……ほんとに?本当にダメなら私を押し返してくれればいいわ」

「……ねぇそれ、していいか聞く必要あった……?問答無用じゃん」

「……キスしていいか聞くと、瑠華が恥ずかしそうな顔するのが好きなの」

「!……この変態っ!絶対やだっ!!」

「ふふっ……嫌よ嫌よも、……よね?」

「絶対やめる気ないじゃん、バカッ!!」



「……レイチェルお姉様とルルカお姉ちゃん追いかけっこしてるの?リリカも混ざりたいっ!」

「リリカちゃ~ん、お姉ちゃんたちの真似しちゃダメだからね~。ほらこっちで絵本でも読んでようね」



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