十六話ー瑠華と怜③
『レイチェル、今日という日を君と過ごすことが出来て嬉しいよ。誕生日を私にも祝わせてくれるかい?』
「……えぇ、もちろんです王子殿下、ありがとうございます」
まるで劇のようにそれは始まった。
レイチェルの誕生日パーティーが始まり挨拶を終えると、会場がざわついて王子様が現れる。王子様を嬉しそうに歓迎するレイチェルの両親。集まった招待客から黄色い歓声、そしてレイチェルの親が言っていたように婚約発表を期待する声もあちらこちらから聞こえていた。
『いつも君は麗しいけど、今日は一段と綺麗だね』
「……えぇ、このドレスに似合うよううちのメイドが手を掛けてくれましたわ」
『お嬢様の素材がよろしいからです』
『それは私も同意見だ』
「……まぁ。お世辞でも嬉しいですわ」
……始まる前はあんなに嫌がってたくせに、始まってしまえばいい子ちゃんの怜の独壇場だ。出席者との挨拶だってそつなくこなして更に評価は上がっていく。アタシはそんな貴族同士の会話を盗み聞きしながら、テーブルに置かれた食事をつまみ食いしていた。……だってやることないし。
『……ちょっと』
「……むぐ?」
チキンを頬張った所で不意に肩を叩かれる。振り返ると、そこに居たのはカーマだった。貴族オーラ出しまくりな彼女は会場でも一際目立って……いや、目立ちすぎて浮いているように見える。
『はぁ……働かないメイドが居ると思ったらルルカじゃない』
「……ドレス姿の威圧感ヤバいんだけど、カーマ……」
「うるさいわねぇ。私に着られるとみんなそうなるのよ」
そう言ってカーマは胸を張って、着ているドレスを見せた。……確かにカーマの顔立ちとスタイルじゃそうかも、なんて笑えば、カーマに遠慮なく頬をつままれた。
そしてめんどくさそうな顔で怜と王子様の様子を一瞥する。
「……随分と盛り上がってるみたいね。よくもまぁ……他人のことで盛り上がれるわ」
「あははっ。カーマらしいよね。でもその顔……せっかくの美人が台無しなんだけど」
「ふんっ。そういうあなたはどうしたの?可愛らしいメイドさん。……あー……さては、彼女の趣味でそんな格好させられてるのかしら?」
含みのある言い方してカーマはアタシと怜を遠目に交互に見た。
「っ!?……ちょっ、その言い方やめてくんない?……きょ……今日は一日バツゲームっていうか、」
「……ふっ。……まぁ、そういうことにしておいてあげるわ」
正直、その通りすぎて焦ったけど。カーマはにやにやするだけでそれ以上何も聞いてはこなかった。
『おめでとう、レイチェル。同じ時を過ごせてとても嬉しいよ』
広い会場が二人のやり取りを見ただけで盛り上がる。レイチェルをモチーフにした大きな花束、怜はそれを受け取って微笑んだ。傍から見れば、本当にお似合いのカップル。周りだってそれを祝福してる。でも……。
「……婚約発表でもするつもりなのかしら、あの二人」
「……怜ははぐらかそうとしてたけど親はその気っぽい」
「ふ~ん……で?あなたはどうするつもりなの?」
「アタシ?……どうするって……?」
「はぁ?……てっきり二人の仲を邪魔するつもりで彼女の所へ来たのかと思ったけど、違うの?」
さっきまでのからかうような視線が、真剣なそれへと変わる。アタシはそれに無言で首を振った。
そういえば怜の屋敷に来たアタシの目的ってそれだったなぁ、と思い返す。今となっちゃ、そんな気さらさらないけど。……別に怜に婚約者がいようが現実に戻る気満々なアタシには関係ない。怜だって戻ればそんなこと関係なくなるっていうのに……何を気にしてるんだか。
「別に……あのイケメン王子様なら良いと思うし、アタシだったら喜んで婚約するけどね」
「はぁ…………やっぱりあなたって趣味悪いわ」
「うっさいな、ほっとけ!」
そう言うとカーマは飲み物を貰いに離れていった。
……当の怜といえば、皆に騒がれる王子様を見ているのかと思えば、会場の端からその様子を眺めてたアタシを壇上から見ていた。
イケメン王子様が目の前にいるっていうのに何やってんだか……。目を逸らしてしまいたいのに、あの熱い瞳に捕らわれて目を離せない。それだけじゃなく体まで熱くなって嫌になる。
うぅ……こんな体になったの、怜のせいだ。……記憶の無いアタシに怜っていう存在を勝手に植え付けられたみたいで腹が立つっていうのに……。アタシの心はそれをもう許してる。
「……っ、…………ぁー……ほんとやだ」
……それを嬉しいって思ってる自分の心が。ムズムズする。
きっと怜のことだからカーマとのやり取りも見てたんだろう。少しだけ頬を膨らませて目を細めていた。そしてしばらく見つめ合った後、ふいっと目を逸らして、また王子様の隣で微笑んでいた。
あんなに好きだった二次元の推しが目の前にいるっていうのに、アタシの心は完全に怜に振り回されてて、……目は勝手に怜の姿を追っていた。
+++
……怜はアタシの親のようで、姉のようだった。
よく一人で遊んでたアタシを怜はほっとけなかったみたいでいつも家に入れてくれたり、怜の親も嫌な顔せず招き入れてくれた。
……忙しかった親のことは今はなんとも思わないけど、寂しさからピーピー泣いてたアタシにとって怜は自分の親以上の存在だったんだ……あの時までは怜がアタシの中で誰よりも一番だった。
……アタシが心配出来た義理じゃないけど、怜の親は何してんだろ。反抗してた間だって、どんな想いでアタシたちのこと見てたのか……。今まで怜のこと突き返してたのもあって、あの二人のこと思い出すと胸が痛くなる。レイチェルの親は怜と仲良かった時の、そんな二人の雰囲気そのままだった。
あの二人がレイチェルの幸せを望むのはその通りだと思うし、別にこの世界は現実じゃないんだし、婚約でも何でもすりゃいいのにって思う反面、……今は別の気持ちがある。これがアタシはとても厄介だった。まるでルルカがそこで一人抵抗してるような、胸の奥にある黒いモヤモヤ。
……それに加えてアタシの胸に巣食ってた怜を避けることになった理由、その胸のつかえが取れてからその奥に隠してたほんとの自分の気持ちがひょこっと顔を出している。……自覚したくない想いが顔を覗かせて、早く自分の気持ちに素直になれってつつかれてるようだった。
あー……もぉ、やだ……早く帰りたい。素直になるからとりあえず帰らせてほしいし、怜とのこと悩むのは後にさせてほしい。
寝転がったソファーで足をバタバタさせた後、アタシはドレッサーの前で黙々と資料を読む怜を鏡越しに見る。……怜は何もしなくても綺麗な顔してるけど、メイクすると綺麗さが際立っていた。アタシのメイクもだけど、サラさんってプロのスタイリスト並みだと思う。
『……瑠華様?』
『サラさんのメイクってすごいなって。だから手元見てただけ』
『……もっと近くで見ても構いませんよ?お嬢様は名簿に夢中ですし』
『……確かに。じゃあ、お言葉に甘えることにする』
現代のメイク道具とは明らかに違うんだけど、でもサラさんにメイクされるとそれ以上になる。よく化粧が濃いって言われてたけどそれがアタシだって思ってた。……でもサラさんにメイクされた自分を見て、こっちの方がいいかもって思ったぐらい、サラさんは上手だった。
『……お嬢様のお肌お綺麗でしょう?』
『……ほんと羨ましいよ。こんなに綺麗なのに、私は何もしてませんって言うんだから、こいつほんとムカつく』
指で頬をつつくと、うめき声のような声が聞こえたけど、怜の視線は動かない。
『ふふっ……本当に仲がよろしくて羨ましいですわ』
『ぐっ……!……ち、違うから』
……仲なんて……良くない。つい昨日までアタシはこいつのことあいつらの仲間みたいに思ってて反抗ばっかりしてた。それが誤解だ、って分かった時から、……アタシの中の消せない罪悪感が怜の無茶ぶりを許してるだけだから。……ほんと……うん。
それからサキさんを手伝って怜の支度を終えた後、パーティーが始まるまでの間ソファーに横になって休んでたら、人の気配がしてアタシは重いまぶたを上げた。
『…………何してんの?』
『……私の眠り姫を起こそうかと思って』
アタシの体に怜の影が掛かり、そのサラサラの髪の毛が頬を撫でてくすぐったい。
『……やっと喋ったと思ったら寝込み襲ってくるとか、ほんと何なの?』
『まだ襲ってないわ。……でももう襲うけど、』
そう言って怜はアタシに軽くキスした後、離れていった。
『おはよう、瑠華。支度手伝ってくれてたわよね、ありがとう』
『っ、あーもぉっ!意味わかんないし。……暗記は?終わったの?』
怜の肩を押し返しながら上半身を起こすと、ソファーのすぐ足元に座る。あれだけ読み込んでいた名簿はドレッサーの前に置き去りだった。
『うん、もうバッチリ』
やっとアタシを視界に入れてくれたことにホッとする。……こいつ昔っから何かあると周りを視界に入れないし、解決するまで口を割らないやつだ。……いつもの怜に戻ったってことはもう大丈夫なんだろう。
『……それに瑠華にこれ以上寂しい想いさせられないもの』
『っ、はぁ?……ちょっと。……あんたはいつまでアタシのこと小1だと思ってんだよ』
アタシの頭を撫でてくる怜の手は一度払ったぐらいじゃやめてくれない。……諦めてそのままにさせておくと怜がアタシを抱きしめてきた。
『……そう?……私が話しかけた時、瑠華すごく安心していたように見えたけど』
『はぁっ!?そっ、それは……怜が急に喋んなくなるから。……昔っからそうじゃん、考え事してると周り見なくなる所。す……少しは心配してたんだよ』
『…………瑠華』
アタシを締め付ける手が強くなる。
『ちょっ、わかったから……そんなにくっつかないで』
やたら良い匂いがする怜に抱きしめられていると何かダメだ。クラクラするし、それにいつも以上に怜の白い肌が露出されてて目のやり場に困る。
『……ねぇ、瑠華?このドレス、瑠華に見てほしくて選んだの』
『……え……』
怜はそう言った後、アタシから全身見える位置まで下がると一周回って見せた。さっきはただ用意されたドレスだと思って見ていたけど、怜がアタシに見せたくて選んだとなると視方が変わる。
髪型はさっきサラさんと一緒に考えて、このドレスに似合う髪型にした。髪を下ろして緩く毛先を巻いてこのドレスに似合う髪型に。それが怜をいつも以上に大人っぽく見せている。そして淡い黄色のドレスには大きな花の詩集。胸元は大きく開いていて怜の白い肌がやけに目に付く。アタシは無意識に視線を逸らしてた。
『……ねぇ……どうかしら?』
怜は目を逸らしてたアタシの顔を両手で包んで自分に向かせた。……アタシは観念して言葉を口にする。
『……か……可愛いってば。怜に似合ってる。……お嬢様なんだし、こういうのいつも着とけばいいのに』
『っ、……ありがと。……でもいいの、私、瑠華に可愛いって言ってもらえただけで十分よ』
『っ…………なんで、』
……そんなのみんなに可愛いって言って貰った方が嬉しいものなんじゃないの?そう言いそうになったけど、飲み込んだ。
アタシに見せたいからって選んだドレスに目を向ける。……この世界にはスマホが無い。こんな綺麗な恰好してるのに、後で見れないのは残念すぎる。……写真だったら別に緊張もせず見れんのに……。仕方なくアタシは怜の姿をまじまじと見つめた。
『……ねぇ、何でスマホ無いわけ?この時代に』
『私も瑠華のメイド服姿を見た時思ったわ』
『……どーせならツーショで撮っときたかったな~』
……やっぱり怜って客観的に見て可愛いし、美人だ。何でこんなやつがアタシの幼なじみなのか不思議に思えてきた。……それもアタシのことが好きだなんて。
うん、意味わかんない。
『…………どうしたの?大人しくなっちゃって……』
『……やっぱり夢に思えてきた、この世界』
『あら、どうしてそう思うの?』
『……だって怜がアタシのこと好きとか、今でも信じらんないし』
アタシがそう言うと怜は黙ったままこっちを見つめてくる。
『夢見てたみたいに現実戻ってみたら、案外何も変わってないんじゃない?戻ってもアタシとあんたはまた仲が悪くて、……それで、っ、んっ』
言葉の途中で怜はソファーに座ってたアタシの言葉をその唇で止めてきた。ぎゅっと目をつぶってしまったアタシは怜が離れたのが分かってから目を開ける。
『……私の気持ちを不安に思うなら、もっと恋人らしいことすればいいと思わない?……ね、瑠華』
『は……はぁあ!?こ……恋人らしいこと?』
『……だって私の”好き”の気持ちを知りたいのよね?瑠華は』
そう言ってドレスを今にも脱ごうとした怜の手をアタシは止めた。
『ちょっと待て、今、何しようとした?』
『なにって……』
そう言って顔を赤らめる怜を見て、アタシまで顔が熱くなる。アタシの知ってる怜はお勉強のことばっかり考えてるやつだった。な……なのに、今の怜って……色々経験豊富に感じてアタシの知ってる怜とは違う。
『……お嬢様、瑠華様は派手な外見とは裏腹にとても純情な方ですので刺激が強すぎるかと』
ちょっと待て、サキさん。何言った?今。
『……あら、そうかしら?ライト君との妄想はここまでしてないってこと?』
『なっ!?ラッ……ライト君はみんなの王子様なんだからそういう事しないから!……怜みたいな変態と一緒にすんなよ』
『………………』
『……落ち込まないでくださいませ、お嬢様』
『怜が変態なのはほんとのことじゃん』
『ぅっ……それは瑠華のせいよ……瑠華が私のこと避けるから……』
やけに落ち込んだ怜に呆れた視線を向ける。っていうか、サラさんもよく平然と見てられるよなぁ……。
『あーもぉ……サラさんも見てないで怜のドレス直してあげてよ。……口紅、少し滲んで取れてるし』
『……瑠華』
『……ごめん。……こんな可愛いのに、何で好きになったのがアタシなんだって思っただけ。怜がアタシのこと好きなのは……嫌っていう程分からされてるから、もういいよ』
……こんなの恥ずかしすぎる。自分で言いながら顔が熱くなって、顔を背けた。
『わっ』
そして次の瞬間、アタシはまた良い匂いに包まれて心臓がパニックを起こす。離れようとして怜に触れると直に肌に触れてしまって、またその感触に緊張して固まる。慌てて手をどければまた捕まってしまった。
『……サラ、メイクもドレスも直すのは後にして?……きっとまた崩れるから』
『なっ……!はなっ、離れろって!もうすぐパーティー始まるじゃん。サラさんに迷惑かけんなって』
『――って、言ってるけど、どう思う?サラ』
『愚問です。あらゆる理由を並べて瑠華様は照れて逃げようとなされていますが、化粧やドレスが崩れる程度、何の問題もございません。そこは私の腕の見せ所ですので。お二方は思う存分いちゃついてくださいませ』
『……ですって、瑠華?……パーティーが始まるまで、私がどれだけ瑠華のこと好きか教えてあげるわ』
『はぁ?!?』
そして時間ギリギリまでサラさんの生温い目に晒されながら、アタシは怜といちゃつく羽目になった。
『……くんくん……瑠華のにおいも触り心地も大好きよ……』
『わぁっ、やめろっ、くんくんするなっ、触るなぁっ』
+++
「本日お越しいただきありがとうございます、エーゼン卿。……エルザ嬢とは学園でも仲良くさせて頂いておりますわ」
怜の暗記の成果はよく出てた。
相手の貴族も自分の名前を知っているとわかるととってもご機嫌で挨拶していく。怜の家は貴族の中でも特に力を持った公爵家。その娘である怜がこの国の第一王子フリッツのお妃にと望まれるのは当然のことなんだとか。
そんなレイチェル嬢と、アイギス家と仲良くなりたい貴族は山ほど居る。さっきから途切れない挨拶の列。……いわゆる握手会みたいなもんか、と納得する。
そして挨拶が一通り終わると、化粧直しの為に怜が会場から部屋へと戻っていった。アタシも戻ろうとすると、肩を叩かれ声を掛けられる。ザワッと辺りが騒いだ。
『……こうして話すのは初めてかな?』
「……え?フリッツ……王子?」
『君と話したいのだけど……ふふっ、ここだと皆に聞かれてしまうから、静かな場所に移動しようか』
「っ……!?」
王子様はアタシの肩に付いた木の葉を払うフリをして小声で呟いた。
……ぅっ……か、カッコイイ……。そして王子様が素知らぬ顔で去って行った後、アタシは目に付かないように移動する。
「……ここでいいのかな……」
うぅ~……そわそわする……。
さっき王子様が言っていた場所に辿り着く。そこは屋敷の奥で人目に付かない場所だった。
……それにしても話って……レイチェルのこと?もしかしてアタシ、王子様にヤキ入れられるんじゃ……。今になって言われるまま付いてきてしまったことに後悔していると足音がした。
『……ありがとう。もしかしたら来てくれないんじゃないかと思っていたよ』
「は……話ってもしかしてレイチェルのことですか?」
『……あぁ、そうなんだけど。……ふふっ、そんなに怯えないでくれる?』
ニコッとアタシに笑いかけるアタシの推し。二次元じゃなくその動いている姿に感動していると、固まったアタシを見て心配するライト君の顔が近付いてくる。
「わっ!……いや、そのっ……ごめんなさい……カッコ良すぎて、顔見られない……」
思わず両手で顔を隠してしまった。あぁ、見たいのに見られない。これってどんな拷問なんだ……。
『……ぷっ。……あははっ……まさかそんな反応されるなんて思わなかったよ』
「…………わ、笑わないでよ」
『……ふぅ。レイチェルに正式に婚約を申し込んだらあっけなく断られてしまってね』
「…………え」
『……どんな人が彼女の心を奪ったのかと思えば……まさか、君のような可愛らしい子だなんて』
「か、可愛い……。って、ぅ……ご、ごめんなさい……」
王子様の言葉に嬉しがってる場合じゃない。アタシ、王子様にしてみたら怜を奪ったライバルってことだよね……。あぁもぉあいつのせいでライト君に嫌われるとか最悪……。
『……でもまだ諦められなくてね。君に宣戦布告しに来たんだ』
宣戦……布告?それって、怜を取り合う的な?
「っ………………アタシは、」
別に……怜が王子様と婚約したって。そう言おうとして口が動かなかった。
怜……いつの間に王子様振ってるんだよっ……。
「……瑠華!……フリッツ」
怜の声がして顔を上げると、物陰から怜とサラさん二人の姿が見える。正直知らない間に何してくれてんだって思ったけど、怜が心配そうにアタシに真っすぐ駆け寄ってきて何も言えなくなった。
……ほんとアタシのことしか見てないし。
『……レイチェル、そう怖い顔しないで。正々堂々、彼女に話をしただけだよ』
「……うん、本当にそうだから、怜」
「…………瑠華」
怜がアタシに寄り添うのを見て、王子様は悲しそうな顔したかと思えばすぐに去って行った。
「……あーあ……ライト君にあんな顔させてさ……ほんとこのお嬢様は何してんだか」
「……じゃあ、私が瑠華を諦めて悲しい顔してれば良かったの……?」
「っ………………それは、」
押し黙るアタシを見て、怜が抱きしめてくる。アタシはその腕の中で大きなため息をついた。
「…………はぁ、ライト君にライバル視されるなんて……ショックすぎる」
「今の瑠華、幼なじみの優君なのね、きっと」
「……ばかっ。嬉しそうな顔すんなっ」
まるで自分がヒロインになったつもりで嬉しそうな怜の頬をつねった。いや、それアタシがなりたかった役なのに。
「……いいじゃない。現実に戻れば関係無いんでしょう?」
「こういう時だけ、その話しないでくれる?」
「…………瑠華……私の”好き”わかってくれた?」
「……重い」
「うん、重い女だって分かってるわ」
「………………」
……でも、案外……重いの嫌じゃないのかも。
怜だったら許せてしまう。重いのもなんか悪くないって思ってしまった。
……そんなこと怜にはまだ、言いたくないけど。
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