第3話 タバコフリーで震災復興
東日本大震災から1週間たった頃、青森県深浦町の医療チームとして、岩手県大槌町へ支援に出かけた。
避難所の入り口では、震えながら支援物資のタバコを吸う姿が目についた。
震災直後のタバコフリー(タバコのない状態)の被災地へ、支援という名に隠れてタバコが配られたのである。
禁煙できた方々の多くが、これによって再び吸い始めてしまった。
震災(天災)とタバコ(人災)の多重被災者と言えるのではないだろうか。
思い起こせば、戦中・戦後の日本も、配給制の下ほぼタバコフリーだったが、戦後復興の過程でタバコ消費が奨励された。
その結果、今では年間13万人にものぼる多くの国民の命が失われている。
この代償はとても大きいと、改めて思いしらされる。
「せっかく助かった命をタバコで失うなんて」と、この話を陸前高田の戸羽太市長に訴えた。
2ヶ月後の2012年9月5日、市長定例記者会見で「タバコフリー・イン・陸前高田」が発表された。
「陸前高田の次代を担うこどもたちとともに、新しいまちづくりを考えるいま、健康な未来をかけて、水と空気のきれいなまちづくりを目指すタバコフリー社会の実現を、全国に先駆けて提唱します。」
タバコのために世界では毎年600万人の命が奪われており、そのうちの60万人は非喫煙者で、その原因は受動喫煙である。
受動喫煙をセカンドハンドスモークと言うが、最近はサードハンドスモーク(残留受動喫煙)が話題になっている。
タバコの煙成分が部屋や車などに染みこみ、煙が消失したあとも有害物質が放出され続け、それによって健康被害を受けることである。
タバコを吸わないはずの子どもでも、髪の毛や洋服からタバコの臭いがすることもあり、尿中からニコチンの代謝産物が検出されることさえある。
エコチル調査は、化学物質や生活環境が子供たちの成長や発達に与える影響を探るためのもので、胎児期から13歳まで定期的に健康状態(ダウン症や喘息など)を確認する取り組みだと解説されている。
そのなかで最も気になったのは、宮城県内の調査結果で、妊婦の喫煙率が8%と全国平均より3%上回っていたことである。
さらに夫の喫煙率は、全国平均を18%も上回る、63%という恐ろしい数字であった。
化学物質や生活環境が子供たちの成長や発達に与える影響と言えば、真っ先に思い浮かぶのがタバコの被害であろう。
母親や父親がタバコを吸うと、胎児や赤ん坊は煙から逃げられないからである。
その結果、乳幼児突然死症候群は約5倍、低出生体重児は2倍も高率になると報告されている。
発達途中にある子どもは、大人より深刻な影響を受けやすく、いずれ喫煙者になる可能性も高いと言われている。
人々の命を守り育む真の震災復興は、新しい価値観による社会のデザインで実現されるのではないだろうか。
ニコチンという薬物とタバコ経済への依存から解き放たれ、タバコフリーの社会を創生し、震災復興を目指したい。
(20150303)
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