第2話 復興支援と医療用多目的ヘリ

 被災地で暮らしていると、地元の方以外にも、支援つながりでお会いする方が多い。

 この出会いを大切にしようと思い、南三陸町で活動する際は「オールラウンドヘリコプター(ARH)メディカルアドバイザー」など3種類の名刺を持ち歩いている。


 ARHというのは、震災後に開設された医療用多目的ヘリコプターを運用するNPO法人である。

「医療へのアクセスは日本全国平等であるべき」という信念のもと、ドクターヘリなど既存の搬送体制を補完する形で救命率や社会復帰率の向上を目指した。


 そのため、医療用多目的ヘリの常置場所を、高次医療機関側ではなく医療過疎地側にして、次のような「多目的」で運用している。


 患者さんの救急搬送のみならず、専門の技術を有する応援医師の移送、至急に必要な医療資器材の搬送、高次医療機関などから搬送元への「患者の戻り搬送」も、県境を越えて柔軟に実施できる。


 さらに、救急車による長距離搬送をヘリコプターに替えると、救急車や同乗医師を長時間拘束しないため、医療過疎地域における医療資源の有効活用が期待される。


 ところで、ドクターヘリの配備状況を見ると、2014年6月現在36道府県に43機である。

 東北6県の内訳は、青森県に2機、岩手県・秋田県・山形県・福島県に1機ずつである。

 何故か宮城県には配備されておらず、宮城県防災ヘリによる搬送が行われた。

 しかし実際には、気仙沼市内へは着陸できないので、南三陸町まで救急車で搬送して、そこから防災ヘリで東北大学病院まで搬送したそうである。

 これをARH利用で試算すると、気仙沼から仙台まで30分で患者搬送でき、しかも同行医師を30分で気仙沼へ戻せるので、気仙沼の医師空白時間を随分と短縮できたことになる。


 南三陸町ではARHが自由に利用できるよう、筆者の勤務する老健施設の駐車場など、臨時へリポートを5カ所に増やした。

 これによって、土日も診療している岩手県内陸部の医療施設へ手軽に搬送できるようになった。

 さらに仙台厚生病院の協力が得られたため、急性心筋梗塞や大動脈解離といった重症循環器疾患の場合も、モービルCCUがARHのヘリ着陸地点まで迎えにくる。

 モービルCCUでは、心臓専門医が治療を開始するため、早期治療の効果が期待される。

 さらに、転院搬送に付き添う医師がARHのヘリに乗って戻れるため、医師の不在時間を短縮し地域医療を守ることにも繋がる。


 また周産期医療では、公立南三陸診療所レディース外来の場合、石巻赤十字病院へ15分で妊婦搬送も可能である。

 しかし、新生児集中治療室の整備された医療機関となると、仙台での受け入れが可能になるまで、同じ30分圏内の岩手医科大学病院へ搬送することになろう。


 またユニークな活用法として、災害時に医療施設の被災状況を上空から把握する「施設トリアージ」訓練にも、全国で初めて参加した。


 オレンジ色のARHには企業名やロゴマークが描かれており、これは個人や法人からの寄付や支援で活動を続けている証である。

 寄付の方法など詳細は、ホームページ(http://arh.or.jp/)に記載されている。

 筆者のメディカルアドバイザーもボランティア活動であり、同じ被災地で活動しているものとして、南三陸町を安心して住める町にするためにもARHの運用を工夫したい。


(20150203)

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