六限目 級友との変わらない日常もやぶさかではない
朝目覚めると、グレゴール=ザムザは奇妙な虫になっていたけれど。
「…僕は乳牛になってしもうたとよね。それも、カワイイ系の」
自分の
タンクトップから
(うん、今日も変わらず牛頭人身。まごうかたなきミノタウロスの見た目やんね)
一応普通の白シャツも試してみたのだが、首が通る前に
下に
(いけんいけん!あがんエロか下着やら
頭の中で
(いやいやだからといって、
「おーい
海より深い問題に直面して思い悩む僕の背後に、ドッシドッシ床を鳴らして現れたのは、
「よかよねお爺は、悩み事やらなんもなかでしょ…」
お爺ちゃんも怪人だ。それも悪の組織の西日本代表を務めたという、たぶんそこそこ偉い人。
全身が黒光りする
「ん?どがんした?ワシの姿ばしげしげと見おってから」
「うん、僕もこがんミルク出しそうな姿やのうて、お爺んごとライオンやったらちょっとは
お爺ちゃんは
「見た目やら気にしなさんな。男にとって大事かは中身よ中身!」
どうやら昨日の朝、僕に対して「草食獣やらなりよってから
「そがんことより、今日から学校やろ?変態しよってから初登校やな」
うあう、と僕は頭を抱える。しかも時間割には体育まである。この状況で自分の体を見られるのには多大な抵抗があった。いまだに自分でも
「まあまあ、そんうち注文した制服もくるし、朝飯食って元気に行って来んしゃい!」
僕はウモ、と
そして。
登校中、昨日の街中とは打って変わって
ヒソヒソと話す声に
いや、おかしいぞ。普通ではない。そりゃまあ牛獣人になってはいるけど、ここまで注目されるのは何か変だ。普通(?)もっと
「
「うっひゃぁぁんッ⁉︎」
背後の死角から股間を思うさま
「ゲハゲハゲハ!いま尻尾、ビーン!てなりよったぜ
ずんぐりと短い腰の底から
「いっきなり何すっとねトラ!」
「おんやぁ〜?
いかにもガリ
そして生まれる前から
某ヒットメーカーの歌詞風にいうなら
「ハロー、僕の
なのだ。
「おい尚宏。心の歌声が表に
「そう?ばってん事実なんやし」
僕達は確かに小学校から机を並べる
「カーッ、ほんなごて
「朝っぱらからともだ
にべもなく
「
「いやそれ関係ないやん!ってかど、ど、ど、童貞でも良かやろ⁉︎」
「うぅ〜んそこで
「務まるったって、“
「ふぅ〜ん?じゃあ今んとこその
「そうだよ。お爺はおいおい教えてくれる言うとるばってん、どうなることやら…って、ん?ばってん僕、自分から言うたっけ?」
「あーそれな」
寅受は
「やー、尚宏のことば
「はぁ⁉︎」
僕は再生紙に
『全校生徒に通達
一年C組の安国尚宏君がこの
*備考…本人に直接聞きにくい質問や要望は、養護教員まで』
「尚宏はお節介や思うかもしれんばってん、優しか先生達で良かったやん」
息荒く
「そうそう。俺が『尚宏が怪人になったとなら、アソコのサイズも変わったんすか?』って質問したら『それは本人に
品性も知性もつねに下方を目指す寅受の台詞よりも、プリントの文字列が僕の脳内を飛び回る。
「こ、こ、こんなん嘘や…僕ん
「えー?いちいちダチに説明する面倒の
「それを言うなら
プリントを丸めて、通りすがりのコンビニのゴミ箱に投げる。失敗。カーブになって、自動ドアから出てきたベビーカーの母子にぶつかる…
「うおっと、バッドピッチング」
「お前、コントロール悪い。無理すんな…」
「
「そうか…?」
僕の投げ
どこか
「あ…
「うっわ〜
「いや待てトラ、郷は寮生ぞ」
そして我が校は福岡市内でもそこそこ有名な男子校だ。学力とか歴史ではなく、色々とお騒がせな生徒が多いので。
「ケツの穴小さかこと言うなよなぁ〜。相手が男でも女でも、ヤることに変わりはなかぞ」
「え〜?そうかあ〜⁉︎」
「うん。そうだぞ尚宏。差別は良くない」
「いや差別っていうか…しかも三人、いっぺんにかい⁉︎一人ずつやなかか?」
「えこひいきも良くない。愛してやるなら
郷は頼もしい顎をさすりながら頷く。一瞬、遊びに行ったことのある寮の郷の部屋のベッドの上で、郷が寮生の男子三人を相手にめくるめくベッドヨガの修行をしている図を想像しかけて頭を振った。
「尚宏…本当に
あ、やめて…というひまもあればこそ、するっと郷に尻尾を握られた。
「あ、あれ?」
昨日お爺ちゃんにやられたときは骨盤に違法薬物を突っ込まれたようなヤバい快感があったのだけれど、ほんの少し握る部分が先端方向にズレただけで全然…
「気持ちよう、なかやん…」
「…?なんだ、気持ちよくして欲しかったのか?それなら昼休みに人気のないところで抱いてやるぞ」
「いっ、違っ、違うよ郷!その、この今着てる制服がさ…
(制服屋の森永さん、腕の方は確かやったんや。良かった…)
「なーん?ニコニコしてから。なあ尚宏?」
「いや、昨日はホント、色々なことのあったくさ」
僕はこれまでの
寅受も郷も僕が
「なぁなぁ尚宏、そん
「それはもう。ヒーロースーツがサイズ
「大きかったとや?」
「それはもう。超人ハルクかと…そうやな、身長だけでも僕のざっと1.25倍ぐらいかな」
僕の説明に
「いんにゃ違う違う。ここよここ」
寅受はキャッチャーサインのように二本指で股間を指した。理解した僕の頭に血が
「し、知らんよそんなん!そがん変かとこ見とらんもん」
「かーっ。なんでバチッと見らんかったとか!
「ウザか、この変態!すけべ!」
「変態なら尚宏がしよったやん!この牛男!乳牛!自分はちっとばかしブツの
「お前達、マジで仲良しなんだな。そうして
しみじみと目を細める郷の言葉に、僕と寅受はなんとなく
「今日うちのクラスに転校生の来るとぜ。それも、外国からや」
「ふーん?どこの国?」
「え?あれ、なんてったかなー?ボッキア?」
「なぜそんな妙な憶え違いになる。ボリビアだ…」
聞いたことがある。中学の頃に「国連参加国を全部覚えよう!」という授業があり、ポケモンの
この地球上の南アメリカにあるということ以外、さっぱり知らないけれども。
一ヶ月前に食べた夕食よりボヤけたボリビア関連の情報をかき集めようと頭をひねりながら校門をくぐる。
「あ、あのキミ、ちょっといい?」
「はい?」
まるでマシュマロのようなソフトで甘い呼びかけ。風紀委員の腕章をつけた、声色と裏腹に
「何か用事ですか?──あ!まさかこの制服ってもしかして校則違反なんですか⁉︎そそそそれともやっぱり
「違います違います、えーと…」
「えーと、失礼ならごめんなさい。キミさ、その…怪人のヒト…ですよね?」
「あっはい、そうです。怪人のヒトです」
なんだこの会話。
「そうか…じゃあ君が、悪の組織の首魁として
「あ、あの…?」
「あ、いいよいいよ。行って大丈夫」
解放されて肩の力を抜く。
「何やったと?尚宏。乳牛やけん風紀違反とか?」
「そんなことはないだろう。風紀違反ならトラ、俺はとっくに
「うんそうやね郷、自覚のある男たらしっていうのがお前の
牛頭を
それを
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