SS 041_R 報道発表(2/4)
一夜島の横を船で走れば、乱礁龍尾岬が魔王領を囲む環状山地の一部なのだと認められることだろう。
魔王領を囲む山脈の北側の裾の
一夜島――南相馬海上防災基地の通称――は、魔王国より日本政府に管理を移譲されている。移譲(対等な者に譲る)と委譲(下級の者に任せる)で、条約の文面に外務省の奮戦があったと伝え聞く。成果と思っているようだが、違う、そうじゃないと突っ込む国民は多い事だろう。
3000m級の滑走路を持つ島は、埋め立てではなく、海中から生えてきたと言うことだ。南相馬の市民が一晩寝て起きたら存在していたと言う。人工とも自然とも言い難い島ではある。専門家によると、地中海において――一日での記録では無いが――過去に似た例は在るために、地政学的には有り得ないことではないらしい。但し、その地質構成はテフラ(火山灰、軽石、
一夜島に近接する海岸線には“魔王領歓迎”や“
南相馬市では、行政が魔王領での需要を取り込むべく動いている。魔王領に取り込まれた磐城太田駅を北に移して新駅として再建中で、さらに西の海岸に臨空駅と一夜島に空港駅を設ける延伸した鉄道事業許可の申請を出している。さらに、原町区を国家戦略特別地域に認定されるべく国に働きかけている。震災や原発により、これまでに受けた被害をここで取り返そうとする姿勢が明快で痛快だ。
魔王領へのもう一つの通用口である、陸の玄関となる“
記者らが向かう海の玄関となる“
「8:50、定刻通りの到着と」
記者はスマホで時刻を確認すると辺りを見廻す。
軌道が敷かれている訳でも、路面が整備されている訳でもない海を渡って、時間ぴったりと言うのはなかなか素晴らしいことではないだろうか。
海上アクセス基地は、四角い島の――日本国沿岸に最も近い――北端角に船舶のために整備された施設となる。現状は一夜島の開発のための資材運搬船や建設作業員のための連絡艇が主で、他には海上保安庁が利用している。海上ターミナル棟も鉄骨の建方が済み、内装工事に進んでいる。
ここで国内からの残りの参加者と合流した。護衛艦に乗ってきた記者たちも本来は連絡艇を使うはずだったが、日に三交替制の建設工事の作業員が優先のために漏れたのだ。何しろ市内の宿泊施設も建設事業者で一杯で、国が近場の研修センター等を借り上げて提供している状況では、仕方ないと言える。
彼らは、僅かばかりの手摺が付いたコンテナ運搬台車数台に分乗させられ、牽引車に荷物のように運ばれていく。
「安定しないっす」
「まあ、歩かされるよりは、マシだろうぜ」
椅子などはなく、カメラを構えるのに苦労しているようだ。が、それは小太りな相棒だけでなく、同業他者も同じだ。景色を楽しむことなく、必死に手摺で身体を支えながら、シャッターを切る一団を建設作業員たちが呆れ顔で見送っている。
目に映るのは、薄くたなびく白雲と白く寄せる白波を抱えた青い空と海であり、広がる土地には寂しい建設途中の施設群である。そこには魔王国を感じさせる物や人の姿は見受けられない。
記者の周囲の熱気と隔絶された平常感がこの上ない。
周辺の開発の混雑が落ち着かず、式典を催すには警備などの問題が立ちはだかる。海上空港は開業はまだだが、少人数の受け入れにはこのように隔絶された場所は都合が良いだろう。
平たく続く道は黒っぽい灰色で、
国産の機体は民間の事業にも進出しているが、そこでも
「
写真の見出しをちらりと思い浮かべた記者だが、サングラスをかけて荷物を片肩に
そんな彼らに、我が国の
「ユーは何しに……」
この局は本当にブレない。だが、今回の報道発表で、収録が許されたのは、この局のみである。
今日はその空気で過ごして良い日じゃないだろう……。
「Oh.very exciting!Want to meet soon, Levia-tan.」(興奮しちゃうぜ。早く、レヴィア・タンに会いたいよ)
そうでもない……偶然、類友だったようだ。いや、違うな、取材対象を見切っている!すごい嗅覚だ。
当初は地元局にも取材許可があったようだが、系列局が問題を起こして取り消されたようだ。まあ、あそこは白華国寄りだからな。スクリーン東京――通称、スク東――は、皆も知っての通りに我が道を突き進んでいるようだ。いや、それが高じて、和に繋がったとも言えるか。まあ、魔王に敵対する国からは「テロ組織の主張を発信し、宣伝している」として反発されているようが、日本国内の評価は俄然高い。
定刻通りに集合した記者陣は、一息つく間もなく、“
一夜島と乱礁龍尾岬の間には、2kmにも及ぶ海峡があるが、中間の与島を挟み2連吊橋となっている。主綱は魔王国側の提供に依るもので、主塔の高さが管制塔と同程度なのが驚きだ。国内の同程度の橋梁を考えれば、倍の高さであっても不思議ではないらしい。
しかし、橋を渡る人たちの頭からは、岬側の主綱受けに伸ばされた岩の異様に、そんな
まるで岬の岩肌からうつ伏せの巨人が肘をついて、こちらに手を伸ばそうとしているように感じられる。それが、オディロン・ルドンの描いた
そこに向かっていく。刻々と近づいて行く、いや、迫って来るのだ。身体が自然と後ろに仰け反る。理性はそれを見上げ、感情はそれから離れようとする。
運搬台から降りて、巨人の目玉の中に歩いて入って行く。
中は学校の体育館のような広さがあり、壁や天井は荒々しい岩肌のままだ。装飾なども何もない。奥には衝立で仕切られた税関のような作業台が幾つもあり、それぞれに係官がいる。さらに奥の、魔王領に繋がるであろう円環と通路が気になるが、まずは表示通りに荷物検査を受けるべきだろう。
担当する係官は、皆、日本人のようだ。元は航空会社からの出向だったようだが、この業務をするにあたって財務相関税局特殊関税調査室預かりになったらしい。みなし公務員という立場は、贈収賄罪などで公務員相当の刑法の適用を受ける。
記者と小太りな相棒は何事もなく検査を済ませると先に進み、魔王国から発行された通行証を台座に置き、係官に言われる通りに水晶球に手を添える。
「少しチクリとしますよ。名前をお願いします」
反射的に手を離してしまったが、水晶についた赤い
「はい、これで認証処理が終了です。お疲れ様でした」
水晶を拭きながら、笑顔を向けられた。特に疲れることはしていないが、日本的対応というところだろうか。
これでカードが本人仕様になったらしい。カードに片仮名で姓名と、二重の四分円の紋様が追加されている。
運転免許証
しかも、このカードは未知の金属で出来ているとか。組成はチタンに準じているらしいのだが、それでは説明しきれないような性質や性能を保持しているらしい。らしいと言うのは、その道の研究者が、このカードを調べたくてウズウズしているとの話を聞くが、このカードを研究のために提供しようという者が誰もいないのだそうだ。まあ、この俺にそんな話が廻ってきても絶対に拒否するだろうし、当面、そんな奇特な奴は現れまい。
尚、国外からの記者たちにはこの場限りの
そして、遂に
ゲートは60cm幅の少し赤みがかった金色の円環で、直径は5mくらいで床に一部が埋まり、内法高さは3.5mと言ったところだろうか。直前に往来で2列の改札がある。
前を行く同業者が改札にタッチして進めば、円環の内側が波立ち、その姿が見えなくなる。
彼らも、その後に続いた。
円環の水盤を越えたが、服などが濡れた感じはない。手指などの感覚にも変わりはないようだ。
抜けた先は、暗い通路というか、洞窟そのものだ。ちょっと、拍子抜けした気分だ。
しかし、係員に誘導された数十メートル先の床は、金属の床がある。四隅の
棒から
暗くて、正確な判断はつかないが、恐らくはかなりの速度が出ている。だが、空気圧は感じない。これは周囲の空気ごと動いているのか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます