第22話 吹奏楽部
「失礼しました!」
俺は職員室を退出した後、大きな声で挨拶した。
職員室には担任の先生に提出物を渡すために訪れた。幸運にも、先生は快く受け取ってくれた。
俺は職員室の戸を閉めると、廊下を歩いて自身のクラスの教室に向かった。
「あっ!?」
職員室を抜けて廊下を歩き始めてすぐに末石さんの姿を見つけた。
末石さんは水色の無地Tシャツに赤のズボンのジャージを身に付けていた。制服姿しか目にした経験がなかったから、異なる彼女の一面を見た気分だ。
「なによ?」
末石さんは不満そうに胸の前で腕をクロスさせた。その上、目はあからさまに細くなっていた。
「いや、大したことではないよ。顔見知りの人を発見したから思わず声が出ただけ」
俺は正直に理由を話した。嘘はついていない。先ほどの声は無意識に出たものだった。
「ふぅ〜ん」
末石さんはなぜか髪の毛先を指でいじり始めた。器用にくるくると赤色の毛先を回していた。
「ちょっと気になったんだけど。なんで水色のTシャツを着ているの?」
俺はわずかに気まずさを感じたため、敢えて空気を変える目的で意図的に話題を投げ掛けた。
「私、吹奏楽部に所属しているのよ。それで、部活中は必ず部専用のTシャツとジャージを身に付けなきゃいけないのよ」
末石さんはようやく目を広げた。切れ長の目がはっきりと形成された。
「てことは、もしかして、Tシャツは水色以外にもあるの?」
「そうね。他にも赤、黄、緑などがあるわ。知らなかったの?」
末石さんは不思議そうな顔をした。
「そうだね。知らなかった。吹奏楽部っぽい生徒がいつもTシャツを着用しているのは目にしていたけど。正直、自分達で用意した私服だと思ってたよ」
俺はすっきりした顔で返答した。実際に、わからない事柄がわかってすっきりした気持ちを味わっていた。
「そう。確かにそう考えても無理はないわね」
末石さんは再び、胸の前で腕をクロスさせた。胸には厚みは無く、地面のように平らだった。
「頭に余計なもの浮かんだ?」
末石さんは明らかに不機嫌な様子でジロリと視線を向けてきた。
もしかして、心読まれてる?
「い、いやいや。何も」
俺は慌てて顔の前で両手を左右に振った。実際に図星だったため、完全に動揺は隠せなかった。
「そう。ならいいわ。それで、今日はこのまま帰るの?」
末石さんはこれ以上問い詰めることなく、話題を変えた。おそらく、俺の考えた内容は察知されていない。
「そうだね。このまま帰りの支度をして帰るかな」
俺は自クラスの教室を指差した。ついさっきよりも気分は安定していた。
「・・・。そう。じゃあ、私はまだ部活あるから。そろそろお別れね」
末石さんは「またね」と口にすると、階段を降りて下の階へと移動してしまった。
俺は末石さんの背中に「うん。またねっ」と手をひらひらと振りながら口頭でそう返した。
そのとき、末石さんは階段を下っていた。そのため、末石さんの視界に俺が映ることはなかった。
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