第11話 脅し

 

 松本と見掛けた日の学校は終了した。奴は休み時間の度に飽きずに弱い生徒に肩パンをしていた。俺はその光景を何度も目にした。


 話は変わり、俺は掃除当番の仕事を全うするために、教室に設けられたゴミ袋を持ってゴミ捨て場に向かっている。


 旭西中学校にはゴミステーションがある。そこがゴミを捨てる場所である。


 俺はずんずんと歩を進める。


「なぁ、末石、俺達付き合わねぇか?」


 ゴミステーションが見えてきた辺りで聞き覚えのある声色が鼓膜を刺激した。俺はこの声色には嫌悪感が聞くだけで苛立ちを覚える。


 俺は近くの木に隠れ、身を忍ばせる。そして、状況を把握するために松本にバレないように目を向ける。


「申し訳ないけど、あなたとは付き合えないわ。だって、全くあなたに関して知らないし」


 肩まで伸びた赤色の髪に、紫の瞳をした女子生徒が貧弱な胸の前で両手を組み、松本と対面していた。


 女子生徒は緑のブレザーに灰色のチェックのスカートを履いているため、旭西中学の生徒で間違いないだろう。


「おぅおぅ。バッサリふるねぇ〜〜。でも、いいのかな〜。断っちゃって」


 松本は舌なめずりすると、女子生徒をゴミステーションの入口に壁ドンをするように叩きつけた。ゴミステーションの入り口は金網なため、カシャンッと周音が響いた。


「キャッ!?」


 女子生徒は短い悲鳴をあげた。


 だが、ゴミステーションは人気がない場所に設置されているため、誰もその大きな音には気づかない。


「いいのかな〜。俺、力には自信があるからさ〜。こんな風に乱暴しちゃうよ?」


 松本は相変わらずドスの効いた声色を漏らして、汚い笑みを浮かべた。本当に目に入れるだけで腹が立つ。


 だが、俺が今から助けに入ったら、奴にボコボコにされる。奴の言葉通り、力には定評があり、実際に喧嘩も強いのだから。


「なに?それって脅し?」


 女子生徒はゴミステーションの入り口に追い詰められた状態でも決して怯まず、松本を鋭い目つきで睨んでいた。


「気の強い女の子は嫌いじゃないぜ。だがよ、もうちょっと言い方があるだろ。女なんだからあんまり調子に乗るなよ!」


 突如、松本は女子生徒の腹に右拳を入れた。


「うっ・・・」


 女子生徒は顔を歪ませながら、地面に膝をついた。外観では身体が小刻みに震えている。多分、溝落ちに拳が入ったのだろう。


「おっと。苦しそうだな。溝落ちにパンチが入ったぽいな。悪い悪い。ほら、しっかり息吸って息吸って」


 松本は呼吸を大きく乱す女子生徒をニヤニヤしながら揶揄っていた。


 まじでクズ野郎だ。奴の神経は正常ではない。


「ま、これ以上痛い目に遭いたくなければ、俺と付き合う道を選ぶんだな」


 松本は「1日だけやるから。考えろ」っとだけ言葉を残し、苦しむ女子生徒を心配する様子も微塵も見せずに校舎へと帰って行った。


「どうしたらいいの・・・」


 女子生徒はようやく正常な呼吸は取り戻したが、突きつけられた現実にどう対処すれば良いかわからない様子だった。


 顔は俯き、瞳は絶望に染まっていた。そんな女子生徒を眺めていると、俺は松本に多大なる怒りを覚えた。


 許せない。あいつほんまにタダじゃおかない。


 俺は松本が立ち去ったのを確認して、隠れていた木から姿を現した。その後、真っ直ぐ女子生徒の元に向かう。


 女子生徒は俺に気づく素振りを一切示さない。


 俺は女子生徒の真近くに到着すると、足を止めた。


「ねぇ。空気読めないと思うかもしれないど、良い作戦があるから聞いてくれない?君の追い込まれた状況を打破する良い名案がね」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る