第10話 同じクラスの害悪


 今は授業の間の休み時間。


 俺はトイレを済ませて教室に戻ろうとしていた。だから、俺は今廊下に身を置いている。


「おい!肩をだせ!」


 ドスの効いたヤンキー声が鼓膜を遠慮なしに刺激した。


 俺は目線だけ音源に向ける。


 背丈160センチ後半の目つきが悪い丸坊主の男子生徒が自身よりも小さい男子生徒に肩を出すように強制している。小さい男子生徒は渋々、肩を差し出した。逆らえない立場の人間なのだろう。


「よし!肩パン行くぞ〜!」


 目つきの悪い男子生徒がゴッと全力で相手の肩を殴った。


 小さい男子生徒は痛そうに殴られた箇所を抑え、こうべを垂れていた。おそらく、痛い場所にヒットしたのだろう。


「よ〜し!気持ちよかった〜!良いのが入ったなー。そうそう!また、次の休み時間もよろしくなー」


 目つきの悪い男子生徒はご機嫌な様子で教室へと入って行った。


 一方、殴られた男子生徒は数秒ほど殴られた箇所を抑えた後、痛みが引いたのだろう。肩から手を離し、とぼとぼと憂鬱な顔で教室へと帰還する。


 先ほど、肩パンをした人物は松本友哉(まつもと ゆうや)。俺と同じクラスで、1年生ながら野球部のエースである。ちなみに、勉強は壊滅的にできない。数学のプラスとマイナスの計算もできないレベルだ。


 ちなみに、なぜ俺が松本友哉のついてこんなに詳しいか。それには理由がある。


 松本友哉。いや、奴は中学時代に俺を何度も攻撃して痛めつけた人物だからだ。


 奴はいじめとまでは幾度となく俺に対して肩パンや太ももに蹴りを入れた。その度に俺はさっきの殴られた男子生徒みたいに痛みに耐えながら、殴られた箇所を抑えていた。


 キリキリッと奴に殴られた経験のある肩や太ももに痛みが走る。現時点の俺はまだ奴には暴力を振るわれていないはずだ。なのに、不思議と肩や太ももに痛みが走った。


 奴は痛めつけた後、何度もスッキリした顔で俺の場を去っていた。さっきと同じように。


 俺はいつのまにか怒りで両拳を握りしめていた。爪が手の皮膚に突き刺さっていた。だが、感情の高ぶりが原因で手に痛みは生じない。


 キーンカーンコーン。


 そんな俺の心情など露知らず、チャイムが廊下に鳴り響いた。


 廊下に存在した生徒たちが次々と教室に吸い込まれていく。ダッシュする生徒、ゆっくり歩いて行く生徒、談笑しながら教室に向かう生徒。多様な人間の行動が視認できた。


 だが、俺はチャイムの音に反応せず、ただ廊下に立ち尽くしていた。


 動きたくなかった。反射的に拳に力込められ、松本に対する怒りが増幅した。


 最終的にチャイムは止まってしまった。しかし、俺は廊下に身を置いていた。


「おい!さっさと入れよー」


 教室に向かう見知らぬ教員が俺に教室にインするように命令した。


 流石に無視する気はなかった。


 そのため、俺は重い身体を無理に動かし、自身のクラスへと入室した。

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