無理が通れば

 目が覚めたときにはベッドの上だった。遠くから砲声が聞こえて来る。


(増援が届いていたのか)


 徐々に動き出した脳みそでそうぼんやりと考える。石頭な本部の話じゃ来ないはずだったのに、何故かと。

 答えはすぐそばにいた。まず気がついたのは嗅覚。側で静かに紫煙を燻らせるブロンドのロングヘアー…あぁ、この銘柄を吸ってる女は一人しか知らない。


「おはよう中尉。もう10時だぞ」

「…師団長殿。また前線に来たのですか」

「単身敵地に侵入して帰ってきた馬鹿を見にな。全く無茶をするよ」


 そうだ。確かに無茶な命令だった。休暇も潰す強引すぎる指示。帰ってこれたのは奇跡だろう。


「しかしよく考えたな。町中の鐘を鳴らしてその隙に逃げようなんて」

「すぐバレたおかげでこのザマですけどね…一本ください」

「ん…」


 ぼやきつつも程々に火を彼女の煙草から貰い一服決め込む。慣れ親しんだ味だ。疲れた体に染み渡る。


「そういえばよく増援に来れましたね。てっきり上から止められたものかと」

「んー?いや何、上のヘタレでチキンなボンボン頭共に『また負けを怖れるんですか?そうやって逃げ続けて、結果コレとか……情けないにも程がある!さっさと腹括れ!!』って殴り込んだら1発だったよ?」

「相変わらずだな…」


 どうも彼女に怖い物は無いらしい。俺が直談判した時は『大局もわからん奴が好き勝手言いやがって。一兵卒がわかった様な口を利くな』なんて突っぱねられたのに…慣れた事だが、それでも呆れてしまう。


「そんな事よりだ。昼飯はどうする?私は今パスタを食べたい気分だ」

「うん?もしかして作らせようとしてます?」

「当然だろう。私に作らせていいのか?」

「いや作ります。作りますから大人しくしていてください」


 ならよし、と言いたげに彼女は満足げに頷く。よかった。またキッチンが丸ごと吹き飛ぶ大惨事は避けられそうだ。


「さて、そろそろ私は戻る。昼飯の件、よろしく頼むよ」

「はいはい、わかりましたよ。もう少し休ませてくださいね…」

「──あぁ、そうだ。一つ言い忘れていた」


 吸い殻で山になった灰皿で火を消し、悠々と退室しようとしていた彼女がふと足を止める。


「殴り込むついでに私と君の分の休暇を取っておいた。久しぶりに二人でゆっくり過ごせるな」

「それはそれは…!最高のプレゼントですね。てっきり休暇は帰ってこないものかと」

「この私に感謝なさい?それじゃ──メリークリスマス、そしておやすみ中尉殿」


 どうも今年のクリスマスはそれなりに楽しめるらしい。そう期待に胸を膨らませながら、再び私は夢の中へと微睡む………






お題:チキン かね クリスマス

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