No.26 - 次元の狭間へ

街に人影はなく、避難を促す警報だけが不気味に響く。

きぼうが光の中に囚われている同じ頃、ミソギは一人シェルターから抜け出して、乗り捨てられた車を躱しながら自宅へトラックを走らせていた。


「あーもう、ガス欠だ!」


元々停泊地で補給する事を念頭に置いていた為、途中で燃料が切れてトラックはピクリとも動かなくなる。

苛立ちでハンドルを叩こうと拳を振り上げたがぐっとこらえ、彼は強く息を吐き出して運転席から降りた。

荷台に載せておいた小さなスクーターに跨がって再び走り出す。


計算より30分ほど遅れて、彼は自宅へと辿り着いた。

スクーターのマフラーからはプスプスと小さく火がチラついており、サドルも熱を持っている。


「あっつ!」


足元に伝わる熱に跳びはねながら、彼は大急ぎで地下室へと向かった。

地下室には彼が趣味として手塩に掛けて改造しつくした数々の機械がずらりと並んでいる。

ミソギはその中でも特に大きな扉を開けて、その先に用意されたコクピットに座った。


「最悪コイツを飛ばすしかないか……最終テストはまだだったんだけどなぁ」


そう呟く彼の頭上、遥か高い空に、一閃の光が迸っていた。


◇◆◇


きぼうが外部装甲を外して速度を上げたと同時に、きぼう麾下の各艦、そして星連艦隊も活動を再開させた。

きぼうが意志を固めて突き進んでいくのに対し、星連艦隊はまだ艦内の混乱が収まっていないのか、艦隊行動に乱れが生じている。

光に飲まれる前の進路を維持してはいるものの、各艦の速度にはバラつきがあり隊列が崩れて団子状になっていた。


そんな中、輸送船団だけは冷静にいずもへ降下するように逃走を開始している。


「敵輸送船団、いずもへ降下していきます!」


「逃がすな、追え!」


きぼうは懸命に輸送船を追い始めるが、その進路に立ち塞がるように星連の巡洋艦が進出してきた。

単艦で飛び出してきたその巡洋艦は懸命にきぼうに向かって発砲しているが、真っ直ぐに突き進んでくるきぼうの装甲に弾かれて後ろへと跳弾していく。


「敵巡洋艦、進路上に展開! 衝突まで残り30秒!」


「回避しま――」


「怯むな! このまま突っ切る、全艦衝撃に備えよ!」


舵を握る男の叫び声を上から押し潰すように艦長が声を張り上げた。

自分の意志と反した命令に一瞬航海士は体をビクつかせて首を竦めるが、振り返った先の艦長の眼光に当てられて決意を固める。


「は、はい!」


きぼうに避ける気がないことを悟った敵艦は恐れをなして回避行動を試みるが、むしろそれはきぼうに向けて一番弱い腹を見せる形になった。


「各艦自由砲撃を許可する、撃てェ!」


きぼうの後方からも援護砲撃が次々と飛んでくる。

光のトンネルのように円筒状に、取り囲む敵艦を薙ぎ払っていく。

きぼうはさらに機関出力を上げ、追い縋る敵艦隊を引き離し、眼前で回頭する巡洋艦を打ち破って輸送船団に肉薄したその時。


輸送船団の中央から先程の閃光が再び煌いて――


きぼうを、きぼうだけを飲み込んで、一切の痕跡を残さずに消え去った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る