神への反逆ー彷徨い人

フリドール

1話-旧時代の人間

1.忘れない事、2.生きる事、3.幸せになる事、4.


こんにちは。名前も知らぬ者。

これはタグに書いてある通り前日譚であり、復讐の物語。

楯の――蒼園彼方と出会う前の、出会うまでの物語。


この物語が綴られるという事は私の復讐が何らかの形で成し遂げられ、初めての私としての人生が始まっている事だろう。


そんな私の――小さな少女だった頃の私の話が気になるなら是非読み進めてみてほしい。ただし、いつ更新されるかは"感情豊かな本"の気分による。

充分に留意してくれたまえ。







肌寒い寒空の下、私―サクリファは友達と共に畑を耕していた。


季節は冬。気温の低下により地面は固まり植物の根を拒絶する。

そんな時は体を温めるついでに畑を耕し土を柔らかくする。


「ヘレティカ、休憩しない?」

「うんー、じゃあいつもの場所いこっか」


私達は手を止め手を洗いに向かう。


村1番の大親友、ヘレティカ。

彼女と共に二人だけの最高のスポットに向かうのだ。


それは深い森の中、小動物の巣と熱源石が群生している最高のお昼寝スポット。

私とヘレティカは冬の間、その最高のスポットによく昼寝をしに出掛ける。


「サクリファ~自分と向き合うってどうするんだ~」

「えー?分かんないよー」


いつもの場所で適当な木の下で横になる。


ヘレティカは心力の基礎に詰まっていた。

己の心を操り力を振るう―それが心力。

村ではそのような伝統を守り続け、代々心力を継承してきた。


心の強さが威力に直結する為、心の弱いものは己の心を見つめ、心の強いものは村の行く末を見つめる。それが心力を使う者としての生き方だった。


私とサクリファは心力について教わり始めた段階で、心力のしも分からないようなひよっこ。心力の基礎は己と向き合う事、何て言われてもふわふわしすぎてて分かる訳がなかった。


私は近くにあった落ち葉を拾い上げあくびをしながら見つめる。

今は分からずともいずれは使えるだろうという楽観思考を持ちながら半分ヘレティカの話を流す。


「サクリファ~私眠いよ~」

「眠いねー」


熱源石のおかげで寒風はただの涼しい風となり、体の芯から温まる体に適度な涼しさとして吹き抜ける。


気づけば静かな寝息を立てて気持ちよさそうに寝るヘレティカ。

そんなヘレティカを見ながら自分も微睡の中に溶ける。

それがサクリファの変わらない日常だった。




「...ファ、サク...、サクリファ!サクリファ!」


ヘレティカの声で目が覚める。ねぼけ眼のまま目をこすりヘレティカに寄り掛かる。

少しくらい甘えても文句は言わないだろう。


「サクリファ!寝ぼけてる場合じゃない!村が...!村が!」

「村~?2倍サイズの獣でも出たのー?」

「そうかもしれないから起きて!」

「...は?」


慌てて体を起こし周りを見る。

ヘレティカが村の上の方を指さし、あっちをみろと促す。

促されるがままに村の方角の上を見てみると煙が上がっていた。

細い煙なら誰かが肉でも焼いてるのだろうと再び目を閉じて甘える事もあったが、目の中に飛び込んでくる煙はその何倍もある。


座っていた体を立たせ、焦りからくる汗を振り払いヘレティカと共に村へ走り出した。


何かの祭事であってくれ、でっかい獣を焼いている煙であってくれと村の守り神に祈りながら向かう。自分を守り育ててきた村の人々が無事でいることを願っていると自然と涙が零れ落ちる。


(何ともない絶対に何ともない。帰ったらお母さんと音尾さんが笑って出迎えてくれるはず。村の皆で大きな獣を焼いてるに違いない)


零れ出る涙を手で必死に拭い心臓の音で周りの音が掻き消えていく中、村の近くまで戻ってきた。


「ヘレティカ...!」


振るえる声を絞り出しヘレティカの方を向く。

ヘレティカも大粒の涙でほとんど前が見えない状態でここまで走って来ていた。

葉っぱによる小さな切り傷を作り慌てて走ったせいで転んで出来た擦り傷が、どれほど必死に走ってきたかを物語っていた。


「急ごう」


息が上がり、咽び泣いてまともに喋れない中、絞り出すように催促する。


村が眼前まで迫ってくると火の粉が2人を歓迎する。

家のあちこちで火の手が上がり、村の中心部には巨大な獣と村の人々が対面している様子が見て取れる。


そして、その中にはサクリファの父親の姿もあった。


「お父さん!」


獣がいるにも関わらず父親の元へ駆け寄る。


「サクリファ!それに、ヘレティカ...」


サクリファの父親は安堵した目でサクリファを見た後申し訳なさそうな表情を浮かべ、すぐに決心したような表情になる。


「2人は妻の元にいきなさい。危ないから家から出たら駄目だよ」


「ヘレティカちゃん、ごめん...」


最後にヘレティカに謝罪をし、サクリファの家に向かうように促す。

村の状況と謝罪という2つの出来事でヘレティカの身に降りかかった不運の正体が掴めてしまった。


サクリファは多少強引にヘレティカの手をとり、母親が待つ家まで向かう。

ヘレティカの顔は曇り、サクリファに引っ張られるままに後を付いてきた。

まるで涙が出尽くしたように嗚咽のみが漏れ、足取りがおぼつかなくなる。


「すまない、2人とも...」


小さな2つの影を見守る男は小さな残響となった。


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