第50話 竜の歌声

竜達はサッと地面に降り立ち、陽妃を取り囲む。

ユーレシアもドスンドスンと二本の足で向かってきた。


「え、な、何?」

「ユーレシア、他の竜達もどうした」

「わかりません。空中で訓練をしていたら、突然厩舎に向かい出したのです。私たちの言うことも耳に入らない様子で、ユーレシアが呼んだのでしょうか」

「ユーレシアは竜のリーダーです。その子に他の竜を呼ばせて何をなさるおつもりですか?」


騎乗のため鞍と鐙、手綱を付けた竜から次々と人が降りてくる。

彼らもマリオンと同じ竜騎士らしく、同じような鎧を身につけている。


「俺は何もしていないぞ」


リュリュリュリュリュリュリュと、竜達がまるで合唱をしているかのように、色々な高さの音で鳴いている。


「え、え、え、え、あの、どうなっているんですか?」


大きな竜達に囲まれて陽妃はすっかりパニックになった。これまでも犬に威嚇されたり、猫に毛を逆立てられたり、動物園でも吠えられたりしたが、竜を見るのも取り囲まれるのも初めてだから、何が起っているのかまったくわからない。


(お、押し潰される? それともパクリとあの大きな口で食べられる?)


「ユーレシア、どうした?」


そうしている内に、竜達は長い首を前に傾けて陽妃の周りの地面に頭を置いた。

その瞬間、鳴き声がピタリと止まった。


「え、な、ななな、何?」


理由がわからず陽妃はもう少しで紫水達を呼び出すところだった。

そうしなかったのは、マリオンとリュシオンが竜達の体の隙間を抜けて陽妃の元に駆けつけて来たからだった。


「大丈夫か」

「あ、あの、殿下、これって何ですか?」


やっぱりこの世界でも私は動物たちに嫌われているんだろうか。

モフモフじゃ無くても、なでなでさせてくれるなら何でもいい。


「これが、『竜の歌声』ですか。初めて聞きました」

「俺もだ」

「兄上もですか?」

「『竜の歌声』?」


あれが歌?


「『竜の歌声』は、竜騎士でも滅多に聞くことはありません」

「え、そんなものなのですか?」

「ああ、『竜の歌声』は慶事だと言われている」

「慶事? じゃあいいことが起るっていうことですか?」

「言い伝えだ。最後に『竜の歌声』を聞いたのはもう百年も前のことだ」

「ひゃ、百年?」


「滅多に」と聞いて一ヶ月に一回とかだと思っていた陽妃は、百年前と聞いて思わず声を上げた。


するとユーレシアがパチリと目を開け、じっと陽妃を見つめてきた。


大きなバスケットボールほどもある瞳は、下瞼の方が大きく、猫のように縦長の瞳孔をしている。


そこに陽妃が映り込んでいるのが見えた。


「ユーレシア?」


マリオンが声を掛けると、ユーレシアはキュルっと小さく声を出して、陽妃に向かってフーッと鼻息を吹きかけ鼻を擦り付けてきた。


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