第49話 白銀の竜
風が吹いて地面に生えた草を撫でていく。
空には鷹だろうか。鳥が羽を広げてくるくると風に乗って空中を旋回している。
陽妃達が出てきた小屋の側には石造りの大きな建物がある。まるでジェット機の格納庫のようだと思った。
大きくて重厚な扉の脇には人が通れる大きさの小さな扉も付いている。
多分あの建物が竜の厩舎で、小さな扉は人間用なのだろう。
扉のすぐ上には大きな窓もあって、日当たりはとてもよさそうだった。
いくつか大きな扉が開いている。中は空なのでその場所の竜が今は外に出ているみたいだ。
「あの、手、離してもらっていいですか?」
転移門を使う際に安全対策のために手を握ってきたのに、移動後も手を握ったままなので陽妃が声を掛けた。
「あ、ああ、すまない」
マリオンが気がついていなかったのか、言われて慌てて手を離した。
少し離れた所で立っていると、一番左端の大きな扉がギイーっと音を立てて上に跳ね上がっていく。
扉が全て開け放たれると、そこには白銀の鱗に覆われた竜がいた。
大きさは象の二倍はあるだろか。長い首とタツノオトシゴのような細長い顔。瞳は美しい琥珀色をしている。
口元から鋭い牙が二本見え、背中には翼手を折りたたんだ翼が見えた。
(あれが、竜)
「ユーレシア」
マリオンが名を呼んで近づいていくと、ユーレシアと呼ばれた竜は長い首を伸ばしてマリオンの方に鼻を擦り付ける。
その鼻先をマリオンは愛おしそうに撫でた。
竜と竜騎士が互いの半身だと言われるのが、その様子からわかった。
「相変わらず美しいですね。ユーレシアは」
「白銀の竜って珍しいのですか?」
「そうですね。大抵の竜の鱗は鈍色や青色をしています。白銀の竜は滅多に産まれません。それが兄上の騎竜になるなんて、兄上が特別だと言うことです」
「あなたも、たくさんの加護をもらっていると聞いています。それも特別なことだと思います」
兄王子と竜の親密な姿を見て、何やらうらやましそうな顔をしていることに気づき、陽妃がフォローする。
「二人ともこっちへ」
マリオンが自分の竜との挨拶を終えると、元の場所に立ったままのリュシオンと陽妃を呼び寄せた。
リュシオンは慣れているのか迷うこと無くマリオン達の方へ歩き出した。
陽妃もいささか緊張した面持ちで一歩踏み出す。
マリオンから此方へと顔を向けた竜が、そんな陽妃にトカゲのような瞳を向けた瞬間、それは起った。
リュリュリュリュリュリュリュリュ
牙の生えた口を僅かに開き、笛のような音を竜は発しだした。
「ユーレシア?」
それが竜の鳴き声なのだろうと、初めて聞いた陽妃は思った。
「兄上、ユーレシアに何があったのですか?」
「わからない。こんな鳴き声初めてだ」
しかし、その声にマリオン達も驚いている。
リュリュリュリュリュリュリュリュ
すると、バサッバサッと大きな羽ばたきが聞こえてきて、辺りが一瞬暗くなった。
「殿下!」
頭の上から声がして上を見上げると、そこにバサバサと羽ばたきながら四頭の竜がスカイダイビングのショーのように円を描いて、回っている。
そしてリュリュリュリュと、ユーレシアと同じ声を出していた。
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