第51話 夕陽に染まる街
「わあ!」
大きな鼻を擦り付けられて、その勢いに陽妃はその場に尻餅を突いた。
そこを、他の竜達も近寄ってきて、四方八方から鼻を擦り付けられたもみくちゃにされた。
「きゃあああ」
びっくりして思わず悲鳴を上げる。
「大丈夫か」
何とか竜達の鼻先からマリオンが陽妃を引っ張り出すと、陽妃は竜達の鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。
「リュシオン、頼む」
「はい」
マリオンに言われてリュシオンが魔法で陽妃を綺麗にしてくれた。
「あ、ありがとうございます」
綺麗になると同時に腕を掴んで立ち上がるのを助けてもらう。
ユーレシアを除いて、他の竜達はそれぞれの騎士達に厩舎へ連れて行かれた。
「動物に嫌われるとか言っていましたが、竜達にあんな風に懐かれている人を初めて見ました」
「竜は絆を結んだ竜騎士以外にあんな風に懐くことはない。長年厩舎の世話をする者達にも警戒はしないが、あそこまでしない」
「どんな魔法を・・失礼、魔法は使えないのでしたね」
「私も知りたいくらいです。懐かれるのはいいですが、ちょっとサイズが違う」
陽妃の理想はちっちゃなモフモフとした動物に懐かれることだ。竜も悪くはないが、そのサイズ感は思っていたのと違う。
「とにかく、陽が落ちる前に一度飛ぼう。ユーレシアに鞍を付けてくれ」
「はい、畏まりました」
厩舎の世話係が急いで竜に鞍を付ける。
それを見守るマリオンとリュシオンの表情はとても硬い。
「さあ、行こう。リュシオン、お前も来るだろう?」
「ええ」
先にマリオンが騎乗し、陽妃を挟んでリュシオンがユーレシアに乗り込んだ。
「ユーレシア、頼むぞ」
マリオンが体を傾け、竜の首を撫でる。
「しっかり掴んでいろ」
鞍にはベルトが付いていて、それを陽妃はぎゅっと握った。
首を上げてバサリと羽を広げると、竜はさっと地上を飛び立った。
ふわりと風をはらんで優雅に空へと昇っていく。
もっと風の抵抗があるかと思っていたが、マリオンとリュシオンに挟まれているので、彼らが風よけになってくれている。
バサリバサリと大きく羽を羽ばたかせるたびに、スピードはぐんぐん増していき、地上が遠くなっていった。
「ここくらいでいい」
マリオンが首を叩くと、ユーレシアの上昇が止まった。
「さて、どうだ」
いつの間にか山の峰を越え遙か上空に辿り着いていた。
そこからバイルシュタインの都がとても小さく見える。
ちょうど傾き掛けた夕陽が空と街を朱色に染めて、辺りは一面真っ赤に染まっていた。
「わあ、綺麗」
マリオンの背中から少し顔をずらしてその光景を見た陽妃は、その美しさに感嘆の声を上げた。
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