第46話 空を飛んでみたい
「それにしても、そなたに負けず劣らず無礼な従者は、なぜずっと黙っていた」
マリオンが陽妃の後ろで少し離れて立っていた紫水達を見て訊ねた。
王妃とのお茶会の間中、彼らは人形のように押し黙って立ち尽くしていた。
「それは私がそうするようにしていたからです。もういいわ」
陽妃が彼らを振り返りそう言うと、たちまち彼らの姿が消え失せた。
「お待たせしました」
マリオンとリュシオンが消えた紫水達の方に気を取られていると、彼らの背後から声が聞こえて驚いて振り返った。いつの間にか紫水達が自分たちの背後に立っていたのだ。
「三人ともありがとう」
「いえ。陽妃様は大丈夫でしたか」
「ええ」
「ちょ、ちょっと待て、今そいつらはそなたの背後にいなかったか? なぜここに立っている」
「それは企業秘密です」
「なんだそれは」
「種明かしを知ったらおもしろくありませんよね。説明したところであなた方にはできません。私が魔法を使えないように、私の術もあなたたちには使えませんから」
紫水達が立っていた場所に行くと、陽妃は紙に髪を巻いた人形を拾い上げた。するとすぐにそれらが青い炎を上げて燃え尽きた。
燃えた紙の断片がひらひらと左右に揺れながら地面に落ちていった。
紙に紫水たちの髪の毛を一本巻き付け、息を吹きかけると、それは姿形は彼らにそっくりの人形になるのだ。
所謂ダミー人形を紫水たちの代わりに立たせていた。
本当の彼らは陽妃を見守る者と、温室に残る者とに分かれていた。
「今のはあなた独特の魔法ですか?」
「私は魔力がありません。だから魔法も使えません。残念です。空を飛んで見たかったのに」
空を見上げて飛んでいる自分の姿を想像してみる。
「空を飛びたいのか?」
「まあ、人類の夢ですよね。空を飛ぶとか、瞬間移動とか」
「瞬間移動? それはどういうものだ」
どうやら魔法世界では瞬間移動というものは存在しないらしい。
「一瞬にして違う場所に飛ぶことです。テレポーテーションって言ったかな。あ、これは超能力者の方かな。若しくは宇宙人か」
「「宇宙人?」」
今度は二人揃って聞き返す。
そう言えばこの世界には宇宙とか、月と太陽以外のものに対する認識ってどうなっているんだろう。
そもそも地球みたいな惑星なんだろうか。
「いえ、なんでもありません」
違う惑星から来た生命体などと言ってもわからないだろう。
「まあいい、ところで空を飛ぶことなら、叶えてやることはできるぞ」
「え?」
「俺は竜騎士だ。望むなら、乗せてもいいぞ」
なぜかマリオンは意地悪く微笑んだ。
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