第45話 繋ぎの王妃③
(また「繫ぎの王妃」)
いくら無知な彼女でも、それが王妃様と自分のことを言っているのだとわかる。
しかしその口調から、その言葉が決して良い物では無いこともわかる。
それから程なくして、彼女はその意味を知ることとなった。
王妃様が一人で自分の部屋まで来るようにと誘ってくれて、バーネットは嬉しかった。
寝込んでいる時に聞こえた声は、きっと王妃様では無い。
「悪阻が収まったようね」
「はい、お陰様で。あの苦しかったのが嘘のようです」
「それは良かったわ」
「ご心配をおかけして申し訳ございませんでした」
「食事も少しずつだけど、取れていると聞いたわ」
「はい。たくさんは無理ですが、食べ物の味をようやく感じるようになりました」
「安心したわ」
そう言って心から心配していた王妃は告げた。
やはりあの時の王妃様と侍医の話は、自分の空耳だったのだと、そう思ったが、それが間違いだとすぐに悟った。
「立派な世継ぎを産むこと。それが私たち『繫ぎの王妃』の役目ですものね」
「は? あの、『繫ぎの王妃』とは何でございましょう。
「あら、あなたにまだちゃんと伝えていなかったかしら」
王妃がコホンと咳払いしてから「繫ぎの王妃」について語ってくれた。
この国には「月宮」と呼ばれる宮があるということ。そこには魔法が掛けられていて、次の王妃になる女性が生まれた時に、花が咲くという。花びらは髪の色。中心の花心は瞳の色だという。
そして国王陛下も、エステバンも、その相手を見つけられていないということも聞いた。
「それでは・・エステバン様の花嫁は・・・」
自分が「月宮の主」が生まれる前の「繫ぎの王妃」だということも。
「では、もし『月宮の主』という方が現われれば、私はエステバン様と離縁させられるのですか?」
そんな馬鹿げた話があるだろうか。いくらなんでも酷すぎる。
そして自分が選ばれたのは、健康で病気らしい病気をしたことがないという、丈夫さ故だったということも知った。
「大丈夫。それはないわ」
力強い言葉だった。
「では、側室としてその方を迎えることになるのですか」
「それも違います」
「でも・・・」
「『月宮の主』が見つかった場合、その者が正室になります」
「どういう・・・」
どういう意味か訊ねるまでもない。
「月宮の主」が現われたら、バーネットは皇妃に格下げとなるという事実に驚いた。
「そんな・・そんなことが・・」
エステバン様の正妃は自分だ。なのに、後から来た者が、ただ「月宮の主」というだけで、自分は簡単に蹴落とされるのだ。
「理不尽だと思うでしょうが、それが真実なのです」
あまりのショックに言葉を失った。
「このまま、その主が現われなかったら、この国はどうなるのですか」
「言い伝えによると、自然環境が乱れて、魔物が多く出没するとか」
「そんな・・」
「それが女神トリシュの加護を得て、栄えてきたバイルシュタイン王家の歴史です」
聞いた話をにわかには信じられなかった。「月宮の主」唯一人がいないだけで、この国がそんな事態になるなんて。
「いつまで・・いつまで私はその女性が現われるのを待たなければならないのですか」
エステバン様も、いつ現われるかわからない見知らぬ女性の存在を、いつまでも待ち続けているというのか。
「恐れる必要はありません」
落ち込むバーネットに、王妃が言った。
「え、どういうことですか?」
「なぜなら、王様と王太子の相手は、もうこの世にいないからです」
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