第47話 陽妃と動物

霊能力があるからなのか、感のいい動物たちに陽妃はいつも警戒されていた。

近づくと吠えられたり、毛を逆立てられたりして、逃げられ、触らせてももらえない。


学校の遠足で出かけた動物園でも、陽妃が近づくと檻の中から騒ぎ立てられ辺りは一瞬カオスになった。

そんなだから、陽妃は出来るだけ近寄らないようにしていた。


ドラゴン…地球では想像上の生き物でしかないそれが、この世界には存在する。

どんなかな。

アジア風ならクネクネと蛇みたいなのだけど、それだと乗って戦う姿が何だか様にならない。

ということは、背中に羽があって胴体が短い方のドラゴン?


「この俺が乗せてやる。どうした? 怖いか?」


陽妃を挑発するようにそういうマリオンを見て、リュシオンは内心驚いていた。

冗談で竜騎士が己の竜に他人を乗せると提案することはない。

竜騎士にとっての竜は、その半身とも言える。

一度契を交わした竜と竜騎士の絆は、それほど深い絆で結ばれるのだ。


(兄上は一体何を考えて…)


そう思うリュシオンも、彼女のことが初めて会ったときから気になっていた。

母親を始め、女性には常に丁寧に接してきた。

女性とは守るべきもの。

そう思ってきた。

しかし彼女にはそんな定義は通用しない。


何故彼女が気になるのか。


彼女に「月宮」というだけで、全部受け入れられるのか。「月宮」が拒むことは考えていないのか。そう聞かれて反論したものの、通常の男女の関係なら、必ずしも思う相手に思われるとは限らないし、また、思ってもいない相手から好意を寄せられたりもする。

告白されてから相手のことが気になったりすることもある。


「怖くはありませんが、きっと向こうが私を怖がります。竜が私を乗せたがらないでしょう」


そう言う彼女の表情は少し寂しそうだ。


「昔から私は生き物に懐かれないどころか、警戒し威嚇されるんです」


本当は触りたいのに。という考えが顔に出ている。


「それは普通の動物の場合だろう? 竜は最強種だ。そこいらの人に尻尾を振る毛の生えた動物と一緒に考えられては困る」

「モフモフ、かわいいじゃないですか。竜は硬い鱗ですよね」

「嫌なら無理にとは言わない」

「い、嫌だとは言っていません! モフモフが一番好きですけど、竜もメチャクチャ興味があります」


躊躇しているとマリオンが提案を撤回しようとしたので、陽妃は慌てて返事をした。


「今からなら、ちょうどいい時間帯だな」


何に対してちょうどいいのかわからないが、空を見上げてマリオンが言った。


「私も、一緒に行ってもよろしいですか?」

「なんだ、リュシオン、珍しいな。竜の厩舎は滅多に来ないだろ」

「竜騎士ではない者が無闇に行くところではないから遠慮していただけです」

「なら、ついてこい」


先にマリオンが歩き出し、リュシオンが後ろをついていった。


「陽妃、大丈夫ですか? 竜は気まぐれで知能も高いです。それに大きくて、危険です」


心配した紫水が囁いた。


「だって、竜だよ。地球にはいなかった生き物に会えるなんて、T○Lで○ッキー○ウスに会うよりレアでしょ」

「そうですが、竜種にも拒絶されたら、あなたもショックでしょ」


危険だと言うよりは、そっちの方を心配してくれているようだ。


「ありがとう、でも、たとえ嫌われても、触れなくても、近くで見られるだけでいいよ」


楽しそうにしている陽妃に、紫水はそれ以上何も言えなかった。

病院生活と寺生活のせいで陽妃は普通の子供時代を知らない。

辛うじて瀬能の両親が一度だけ、夢の国へ連れて行ったことがある。

その時の楽しさは今でも彼女の中でキラキラした思い出として残っている。




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