第6話 謎の依頼主

裏口から出ると、すぐに数人の男たちに取り囲まれた。

紫水はさっと男たちと陽妃の間に立ち塞がり、背中に彼女を隠した。


紫水の背中の脇から見える範囲で様子をうかがうと、相手は全部で五人いた。


「大人しくついてきていただきたい」


リーダーらしき男が一歩前に踏み出した。


「名を名乗らず、それで大人しく従うバカがどこにいる?」


男は片方の眉をぴくりと動かした。

人間ばなれした美貌の紫水が威嚇して言うと迫力がある。


「逆らわぬ方が身のためだ。こちらは五人。全員攻撃魔法が使える。お見受けしてところ、そちらの女性は魔法が使えないようだ」


こちらに背中を向けているので、紫水の顔は見えなかったが、何人かが怯えた表情をしたので、かなりイラついているのだろう。

美形が怒ると恐いのだ。


「ここで依頼主の名を明かすことは出来ない。悪いようにはしない。ついてきてくれれば真実を話そう」


危害を加えない証と言わんばかりに、男は両手を広げて見せる。

確かに彼らからは殺気は感じられず、辺りに緊張感は漂うものの、その殆どが紫水から発せられるものだ。


「紫水、大丈夫よ。私、行くから」


そっと紫水の腕に触れ、高まる彼の怒気を和らげるように言う。


「わかりました。伺います」


男たちは明らかに安堵の表情を見せた。

ここ数日、ずっと撒かれていたせいで、彼らの面目は丸つぶれだったのだろう。

だが、続けて彼女が言ったことに彼らは動揺を見せた。

「ただし、伺うのには条件があります」


「条件…?」


「まず、占い師をご所望であるなら、それなりの報酬はいただきます」


男は一瞬、眉を寄せたが、そこは致し方ないと悟り、頷いた。


「本来ならこちらへ足を運んでいただくところですが、それなりに身分のある方のようですので、特別に出張させていただくということで、金貨5枚いただきます」

「な…たかが市井の占い師風情が」


男たちの間でどよめきが起こる。


「私どもとてこれで日々の糧を得ておりますので、無理なら構いません」

「…く…仕方ない」

「それと、こちらの共の者を連れていくことをお許しください」

「我らは占い師殿だけをと言われておるが……」

「これは私の助手でございます。私共の占いはこちらの助手込みとお考えください」

「あい、わかった。だが、助手は途中の部屋で待機してもらうことになろう」


条件付きだが同行を許してもらえたので、これでいいか、と紫水を見ると、致し方ないと納得したようだった。


「それと…」


ちらりと夕闇が迫る空を見た。もうすぐ陽が落ちる。


「まだあるのか!!」

「これが最後です。伺うのは明後日、明後日の朝、こちらへお越し下さい」

「何だと!」

「先ほど申し上げたように、私どもの生活がかかっております。幸いなことに、皆様にご贔屓にしていてただき、連日予約がいっぱいでございますれば、明後日の定休日までお待ち下さい。特別に休日営業させていただきます。先ほどの金貨は言うなれば休日出勤手当です。本当なら金貨十枚でも安いところです。こちらの評判をお聞きになったからお越しになったのですよね」

「きさま!我らを愚弄するか!今すぐついてこい!」


一気にその場の空気が変わる。

それに反応して紫水も更に警戒を強めた。


「主様!」


その時、男たちの背後から白銀が血相を変えて近寄ってきた。

常ならとうに帰宅している時間に戻ってこないので、心配して様子を見に来たのだった。


「白銀、よく参った!」


突然背後から、これまた白髪ながらも美貌の男が現れ、男たちは仰天したようだ。

そして、美形ばかりを従え、「主」と呼ばせる占い師とは、一体何者かとそら恐ろしくなった。

殺気だった美形二人に挟まれて、数で勝っているとは言え、男たちはたじろいだ。

ここでひと悶着起こせば、いくら路地裏といえど注目を集めてしまう。

穏便に、というのが主命であった。


「明後日、朝、ここでお待ちしていますね」


その条件を彼らは飲むしかなかった。

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