第18話 戻る
「ナツって呼んでもいいですか?」
何を聞かれるのかと思えばそんなことか。
「え、別にいいですけど」
「じゃあわたしのこともハルで!」
「・・・・・・・どうしても?」
「わたしの性格、わかってますよね?」
「・・・・ハル」
「じゃあ次」
「次?」
「敬語、やめてほしい」
「・・・・・・・わかったよ」
「ナツのさ、他の曲も聴きたいな」
「いいですけど。あ、いや、いいけど・・・・」
・・・・・・しばらく無言になる。
「あのさ、ハル」
神妙な面持ちで言った。ハルが仰け反る。
「な、なんでしょうか。あ、何?」
「ハルって太陽みたいなんだよ」
「・・・・・何の話?」
構わずに続ける。
「眩しすぎてさ、目が眩んじゃったんだ。直視できなくなってた」
「僕は結構、酷い人生を歩んでいて・・・・・・」
タカハシは初めて他人に自分の半生を話した。これでこの気持ちに蹴りがつくだろう。
「わたしさ・・・・」
今度はハルが話し始める。
「人前で怒ったことなかったんだよ。あの時まで」
「みんなポカンとしてたでしょ?そりゃそうだよ、いきなり大声で怒鳴りつけるんだもん」
「怒ってもいいんだとか、泣いてもいいんだとか」
「受け止めてくれるじゃん。いつも。今も」
「そしたら曲もたくさんできるようになって・・・・・一回できなくなったけど」
「えーっと、なんか上手く言えないや。ごめん」
「ナツにどんな過去があっても、ナツはナツだし」
「
何故これほどハルと惹かれ合うのか、なんとなくわかった気がする。
タカハシの正の感情は失われていた。
それとは真逆だ。ハルは負の感情を失っていたのだ。
互いに足りないものを補い合う。
欠けたままでは生きられないものが埋まってゆく。
歯車のように噛み合い、絵の具が新しい色を見せるように溶け合い、乾いた大地と雨のように混ざった。
タカハシもハルも、絶え間なく変化している。
失っていた感情が湖のように満ちてゆく。
「あのさ」
流石に、女性に言わせる訳にはいかないだろう。
「む・・・・・」
ハルが変な声を出す。
「一緒に居て欲しい」
ぶっきらぼうだが真っ赤な顔で言った。
ハルの顔も朱色が差し、硬直している。こんな表情は見たことがない。
「む・・・・うん・・・・」
「あの・・・・よろしくお願いします・・・・・」
「こちらこそ、よろしく」
一礼して顔を上げる。
その顔を見たハルが驚いて言った。
「って、笑った?」
「え?ああ・・・・」
いつも無表情だと自覚はしているが、ハルの前で笑ったことがなかったのか・・・・。
それ以前の問題か。ハルの前に限らず、ずっと笑っていなかった。
「ナツが笑うか・・・・・雨じゃ済まないね」
「・・・・・・それ、今言う?」
(この瞬間も歌になりそうだ)
2人で同じことを考えながら笑い転げる。
疲れ果てたガラクタは、長い旅路の果てに笑顔を取り戻し、太陽は涙を取り戻した。
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